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国際都市に相応しい成田のマスタープランを作ろう!
厳しい条例と妥協無き審査を伴って実現される都市計画

兵庫県宝塚市におけるパチンコ条例訴訟においてとんでもない判決が7月に下されました。商業地域以外でのパチンコ店建設を全面的に禁止する市の条例に基き、強引に工事を続行しようとする業者に対して建築の中止を求めた上告審で、裁判所は条例を違法とした2審判決を破棄しただけでなく、市の訴えそのものを却下してしまったのです。兵庫県では県の条例によって既に準工業地域で学校や図書館などの公共施設から100m以内、病院からは70m以内にパチンコ店を出店することを禁止しています。その上で、宝塚市はより厳しいパチンコ店建設を規制する独自の条例を施行したのです。しかしこの法廷では地方自治体が国民に行政上の義務の履行を求めること自体、法律上の訴訟の審判対象に当たらないと判断しました。

自治体特有の地域性というものを考えるとき、時には宝塚市のように県条例より厳しいルールを設ける必要があります。県の条例とは最低限の必要性を法的にカバーする共通分母みたいなものであり、その枠組みの中で更に細かな条例が自治体ごとに制定されていくべきです。今回の判決でおかしいのは、まず1審の判決内容です。「市町村が独自に県条例より厳しい規制をするのは違法」ということですが、近代国家においては憲法があり、その枠組みの中で趣旨を踏まえて、実際の法律は細かく幅広いトピックに渡り必要に応じて制定されています。同様に自治体も国の法律を踏まえた上で独自の条例を定めながら地域性にフィットするルール作りに専念しますので、当然のことながらより厳しくなることはあっても緩くなることはありません。それを県条例より厳しくしてはならないと裁判所が判断してしまっては、地域ごとにカスタムメードされた街造りが難しくなります。また2審の判決内容も疑問です。市の条例を無視して建築を続ける不当業者に対して訴えることさえも許さないとするならば、地方自治体レベルにおける積極的かつ斬新な国際都市の構築には悲観的にならざるをえません。これらの判決は明らかに時代に逆行しているのです。

規制緩和とは厳しくても シンプルなルール造り

規制緩和という言葉が一般的に使われ始めてから久しく時がたちますが、これは決してむやみやたらにルールを無くすとか、甘くするということではありません。その意とすることは、不必要な慣習や重複した諸業務を撤廃し、効率良くかつ公平に処理ができるように許認可プロセスをシンプルにわかり易くすることです。日本が国際競争力を維持しながらハイレベルの都市形成を成し遂げて行こうとするならば、今後マスタープランに基づいてより一層の厳しい規制、及びそのガイドラインに基づいた行政指導が必要になってきます。要はそれらの条例や指導が、例え厳しくてもプロセスそのものが簡単でわかりやすくあれば良いのです。それ故、宝塚市のパチンコ店に関する条例は市の対応としては当然であり、合法的とされるべきなのです。

カリフォルニア州の 新興住宅地の実例

米国カリフォルニア州の郊外にある多数の新興住宅地は、美観が整えられたハイセンスな町並みを持つことで有名です。一度訪れてみれば「町全体が色彩まで揃っている!」とすぐに気づくでしょう。住宅やオフィス街など全ての建造物がただ整然と並んでいるだけでなく、看板やネオン等目障りなものが一切無く、街全体が落ち着いた雰囲気を醸し出しています。無論電柱等1本も立っていませんし、壁の色から屋根の色、道路沿いの樹木まで、一貫して調和の取れたイメージを保っているのです。これは町全体の概観に一体性を持たせるため、自治体がマスタープランに基づいて厳しい規制を行政レベルで施していることに他なりません。すなわち商業物件は勿論、住宅においてもその概観、大きさ、色、設備、植栽プランに至るまで、細かく詳細がチェックされているのです。これが規制緩和の最先端をいくアメリカの実態です。自分の所有している土地だからといって、自分の好みの建物を勝手に建てることなどアメリカの郊外都市では絶対に許されないのです。

加州商業地における 徹底した厳しい規制

1980年代後半、当時アメリカでも最先端の郊外都市形成を目指していると言われていたカリフォルニア州のThousand Oaks(サウザンド・オークス)市で、私はデベロッパーとして高速道路沿いの広大な土地に大型ショッピングセンターを構築するプロジェクトに関わっておりました。その開発にまつわる1つの面白い話を紹介しましょう。ショッピングセンター中央の信号交差点角には市のマスタープランにおいてオフィスビルの用地として指定された空き地がありました。すなわち私の会社が所有していたセンター内の土地にはオフィスビルを建てるべく行政指導が事前になされていたのです。しかしどうしてもオフィスビルの企画がうまくまとまらなかった為、88年にビルの建築を断念し、その土地をマクドナルド社(M社)に売却することにしました。買い手は当然ハンバーガー店をショッピングセンター内に建設する計画を立て、その用途変更の申請に対して、市は規定に従って公聴会を開き、近隣の住民を集めて意見交換を行うことにしました。その内容はケーブルテレビで生中継され、役所の担当者が許可の是非を最終的に決断するというプロセスです。公聴会では地元住民からの意見には賛成意見も多少ありましたが、M社がレストランをオープンすれば、そこが夜中に中高生の溜まり場となり、夜がうるさくなるので困るし犯罪にもつながる、という意見が道路の真向かいにある住宅地域の住人から寄せられました。その結果、市はM社の申請を正式に却下し、M社が購入した土地は半永久的にマクドナルドのお店を建てることができなくなってしまったのです。無論それから数年間M社はその土地をどうすることもできずに大切な資金を寝かせることになってしまったのは言うまでもありません。

アメリカでは自治体が最終的な権限を持って必死に街造りをしています。それは商業物件も個人の住宅も一緒であり、市の詳細にわたるマスタープランの主旨に沿って各種の許認可がなされています。それ故、民間側も申請の内容を厳しく検討した上で、許可を取る為に細心の注意を払うのです。このような厳しいプロセスを経て初めてマスタープラン通りに街造りが実現していくということを、日本の行政も学んで欲しいものです。カリフォルニアを訪ねた際は是非ともロスアンジェルスから車で45分、マリブの北西に位置するサウザンド・オークス市を訪れてみてください。最先端の街造りのあり方を見学することができます。

未来都市の姿を 見極める努力が大事

国際都市の形成には優れたマスタープランが欠かせません。それは単なる市街化マップのようなものではなく、10~50年の長期的展望に基づいた具体的な都市の詳細設計図です。そこでは用途地域に限らず、あらゆる事態を想定した上で街全体に関わる交通、通信、光熱、上下水等インフラは勿論、食糧の確保や自然災害及び、突発的な紛争に遭遇した際の緊急避難対策等も盛り込んでいなければならないのです。また激しい国際競争に打ち勝つ国力と地方自治体の行政力、及び企業力を維持するためのブレーンと人材を育成するための教育カリキュラムや、余暇をリッチにエンジョイする為の諸施設、また近代社会において不可欠なスピリチュアル・ケアーも含めた全人的なヘルスケアー関連施設の構築等、研究課題が山積みとなります。これらの公的な枠組みの中で、民間レベルにおいて自由に構築できる許容範囲をその概観、色彩、キャラクターも含めて明確にしていく必要があります。大事な事は、街造りのプロが正しいビジョンを掲げてしっかりとその未来像を見極め、それを一般人が理解できる内容で伝えているか、ということに尽きます。

目先の執務に捕われた行き当たりばったりの行政が行き着く結果は国際化の波に乗り遅れた支離滅裂な街造りであり、発展に乏しいだけでなく、いずれ経済力が困窮して行政の破綻を招くことになります。そうならないためにも、今から皆で勉強して思い切った改革を行いましょう。特にアメリカ、EU、中国が実践している国際都市形成における各種の事例を見ながらそのトレンドを学ぶのです。日本より圧倒的に遅れをとっていた上海は何時の間にか日本を越えるような近代都市化を実現しました。ここからも多くのことを学べます。また世界のメルティングポットと言われるアメリカで多くの異なる人種がどのように共存し、街造りをしているか、自分の目で見て学ぶことも大事です。複数の国家さえも統合してしまったEUのあり方を研究しながら、ボーダーレス社会に備えた日本の都市形成のあり方も考えていく必要があるでしょう。このような諸外国の研究から少しずつ良いアイデア、ひらめきが生まれてきます。そして日本、成田の10年先、100年先が見えてくるのです。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部