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成田市の影に潜む下総松崎の行方!
公園と天然温泉の開発プロジェクトで浮き彫りとなる諸問題

成田市の大竹では現在、日本でも初の試みと言えるデザイナーズ日帰り温泉の建築が進められています。単なる天然温泉施設だけでは100%の満足を得ることができなくなってきている昨今の温泉事情を分析し、利用者の声、また周辺の公園事情も考慮した上で、最高級の和風モダンデザインを誇る千葉県屈指の温泉施設に改造してしまおうということになったのです。デザイナーズ温泉施設の存在は言うまでもなく観光客の増加につながりますが、単に成田市の観光業の促進だけでなく、地元の雇用も促進され、インフラの整備が加速し周辺地域の経済が活性化するというメリットがあります。またこの温泉では地元で採れる農産物の直販コーナーが設置される予定になっており、周辺農家との協力体制も視野に入っています。ところがこのプロジェクトを推し進めていくにあたり、行政絡みの問題が浮き彫りになってきたのです。

下総松崎駅周辺はいつまで未開発のまま放置されるか

天然温泉や坂田ヶ池公園、風土記の丘はJR下総松崎駅から徒歩で行ける距離にあるため、自動車でのアクセスだけでなく、観光客が電車でも気軽に来訪できなければなりません。まして国際都市といわれる成田市に3つしかないJR駅の1つなのですから、駅周辺がきちんと整備されるのは当然のことでしょう。ところが現実は下総松崎駅の周辺が未開発のまま長年放置された状態となっています。駅に直結する道路は公園側の1本しかなく、反対側の印旛沼側は全て田んぼです。また半無人駅のためか小さな売店が1つ駅前にあるだけで、何ら商業施設がなく、道路も狭くタクシー乗り場もありません。まさに前時代的な国鉄時代の様相をそのまま継承しているのです。

何故いつまでも未開発のままなのかというと、駅周辺の人口が少なく、駅の利用者も近隣の成田西陵高校(旧成田園芸高校)を除けば殆ど皆無というのが実態だからです。では何故人口が増えないのでしょうか?

まず成田市は本来ならば下総松崎駅周辺の開発に関するマスタープランを描き、それを実現するためにリーダーシップをとって住民の意向をまとめながら、デベロッパー(不動産開発会社)が参入しやすいように基本インフラの整備を推し進めなければならないのですが、それが全くなされていません。行政の強い指導無しに、駅周辺の山林や印旛沼側の広大な農地とそれに絡む大勢の地権者の意向をまとめ、入り組んだ細かい道路を整備して区画整理を実現することはできません。

2つめの理由はバブルで焦げ付いた1万5千坪以上にわたる広大な土地です。80年代の話になりますが、駅から200m程離れた小高い丘にある山林から風土記の丘方面に向かって西南総合開発という不動産会社が土地を徐々に買い占め、そこに戸建売りの住宅を建設する計画がありました。無論、成田市のマスタープランの中にも大竹地区の総合開発計画が入っており、一時は行政側も民間デベロッパーの貢献に期待をかけたようです。ところが地権者との売買交渉が難航し、数年がかりで行われた買収劇も虫食いのように所々穴が空いたままで、結局開発にふさわしいまとまった一筆の土地とすることができませんでした。そしてじきにバブルが崩壊し、平均坪単価6万円とも言われる実勢価格よりもかなり高額に取得した土地は、いつの間にか不良債権として完全に焦げ付いてしまったのです。これらの土地は現在でも買い手がつかないまま放置されており、なす術がありません。

この不動産の流動性を妨げるもう1つの大きい要素が住民エゴです。大勢の地権者が入り組み虫食い状態となっている未開発の土地を、開発にふさわしいまとまった土地にするためには、地権者の1人1人がその状況を理解した上で土地を手放さなければ事業計画が推進できないのです。ところがバブル時代の高額な坪単価が忘れられないのか、売却条件で折り合いがつかなかったり、様々な個人的理由で交渉にさえ臨まない地権者が存在するために開発計画が困難になり、その結果下総松崎駅から坂田ヶ池公園につながる広大な土地は大半が竹やぶと雑草のまま放置されてしまいました。これでは何時まで待っても街が変わる訳がありません。

成田市も都市計画の構想を随時見直さなければならない

さて、総工費34億円という巨額な投資にて完成した坂田ヶ池公園オートキャンプ場ですから、成田市は税金の無駄遣いと非難されないためにも相当の来訪者を見込んでいるはずです。また、天然温泉施設の大改造プランが明らかになるにつれ、下総松崎周辺を訪れる行楽客は更に増加の一途を辿ることと考えられます。事実、今年のゴールデンウイーク中には坂田ヶ池公園と温泉周辺は車と人で溢れ返っていました。しかしながらこれ程の大規模な市営公園と天然温泉という人気スポットが共存するにも関わらず、下総松崎駅周辺にはファミリーレストランや宿泊施設さえ、全く存在しないのです。つい先日も成田市観光協会の方から、「早く温泉の周辺に宿泊施設を作って頂けないでしょうか」という声があがりました。温泉の効能を聞きつけて湯治の為に遠方からはるばる来られる方々は、最低でも2~3日費やして温泉を利用したい為、近隣に宿泊施設ができることを以前より熱望されています。ましてや公園キャンプ場や房総風土記の丘も隣接しているのですから、その周辺にレストランやモダンな宿泊施設、また運動施設等があってこそ、初めて千葉県でもトップクラスの行楽地となり得るのではないでしょうか?その為に、早急に都市計画の要綱を見直し、公園の周辺に商業施設の建築ができるように市街化調整区域の領域を即刻見直す必要があります。市民の誰もが誇れる一大リゾートタウンとして生まれ変わることにより、初めて公園の建設に費やした34億円の妥当性を見出すことができるのでないでしょうか。

行政が担うべきリーダーシップを阻害する旧世代の風習を排除せよ

成田を地元とする年配者の方々は今でも自分達の街を部落と呼んでおり、その一見古風な街の姿がまた成田の良い所でもあります。ところが成田市とこれらの部落を代表する成田市内の各地区長とのやり取りを見る限り、時代の流れに逆行する慣習の姿が時折浮かび上がってきます。その一例として坂田ヶ池公園周辺の道路事情があります。

松崎街道とも呼ばれる県道から坂田ヶ池公園への進入路には、すぐそばに天然温泉施設もあるため、週末は多くの車が行き来するようになりました。ところがその途中にはJRの踏切があり、また道路幅が大変狭く、更に片側は水路とガードレールがある為、実際には道路幅4mさえも確保できていない箇所があります。その為、自動車が双方向に自由に行き来することができず、以前から接触事故が多発しています。成田市もやっとのことで昨年、県道から進入して直ぐの20m区間のみ道路拡張を行いましたが、これだけでは全く不十分であり、全面的な道路拡張が望まれます。温泉側からは5600名以上の道路拡張に関する市民の署名が集められて市にも提出されており、まして成田市が自ら造成した大型公園も交通量が増加した理由の1つとなっている訳ですから、市が道路を整備することは当然です。

しかし成田市は自ら行政判断することを避けて、あくまで地元区長からの要望書に基づいて道路拡張の是非を検討するという立場を取っています。勿論、地元の要望も大事ですが、問題はこれらの背景に潜む時代遅れの政治構造です。まず区長という存在がその地区の選ばれた代表者というよりもむしろ順番で交代している場合が多く、その制度は単なる形式にしか過ぎません。行政側が区長を立てることにより、責任の転嫁をする為の手段になり易くなっているのです。また市民が何か要望を抱いて区長に挨拶に行くことは、長年のしきたりに従い土産物を携えて訪問することを意味するのですが、このごく常識的な贈答品のやり取りでさえも、昨今の政治解釈においては一種の賄賂とみなされてしまい、結果として成田市は賄賂が横行する実態を黙認するだけでなく、返ってその排除すべき古き慣習を暗黙の内に広める立場に回っているのが実態です。

大事なことは、区長からの要望書であろうが一市民の声であろうが、外国人ビジターの意見であろうが、それらの声を行政が聞きとめて、自ら判断し、正しい事、やるべき事を行動に移すことです。成田市が巨大公園を造っておきながら、周辺道路を整備するためには地元からの要望書が必要、というような責任転嫁とも思えるナンセンスな考えはもう通用しません。公園が完成し、温泉も拡張されて周辺一体の交通量が明らかに増えることが予想されるのですから、市は率先して道路アクセスを整備すれば良いのです。今後の行政の在るべき姿を見つめ直す時が来たのではないでしょうか?

成田市自ら構造改革の担い手になってほしい

成田市は「市民の声」、「地元の要望」という耳障りの良い言葉を役人の誰もが連呼する中で、何時の間にか「言われなければやらない」という消極的な体質を身につけてしまったようです。住民とのトラブルや責任を回避するために常に逃げ腰になって相手からの要望を受身で待つのでは無く、常に前向きに、問題の解決に取り組む姿勢をもってこそ、初めて成田市が生き生きとした国際都市に生まれ変わるのではないでしょうか。

今、成田に必要なのは国際社会に通じる強い行政のリーダーシップです。是非とも毅然とした態度をもって、政策に取り組んで下さることを期待してやみません。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部