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励ます世界、励ましてはいけない世界
2006年こそ日本に再び大和魂が復興する元年となるか!

2005年、一般庶民にとっては何となく良い年で終わりそうです。国内ではテロ事件もおきず、大きな災害も無く、何にもまして経済の復興と株式相場の戻りには目を見張るものがありました。銀行も不良債権を一掃し終えて公的資金の完済が視野に入り、大手都市銀行の全てが来期、大幅な経常利益の増加を見込んでいます。また、小泉政権誕生以降も暴落し続けた株式相場はV字型に逆戻りし始め、11月には遂にその始点を追い抜いて、日経平均1万5千円のせを達成しました。このニュースは多くの国民にとって朗報です。買うから上がる、上がるから買うという踏み上げ相場の様相となった予想以上の株式市場の活況下で、庶民の懐が一時よりも明らかに潤ってきたのです。そういえば、ここ最近、東京の六本木や銀座界隈の著名高級レストランが以前にも増して予約がとりづらくなっているとか。ビジネスマンや昼の時間をもてあますマダムを中心として懐の紐が久々に緩み始めたのでしょう。高級ホテルのランチバイキングは女性客で賑わい、一泊3~5万円もするデザイナーズ温泉は満室状態が続き、雑誌に紹介される高級グルメを謳うレストランには客が殺到し、贅沢な高額商品が飛ぶように売れているこの頃です。

魂を振わせる大和ブームの到来か!

「元気」になってきた時代背景の最中、久々に「大和」ブームが訪れようとしています。日本を「大和の国」と呼ぶとき誰もが暖かい響きを覚えるこの言葉は、平安時代では「大和魂」として、日本に土着している文化や伝統を背景とした知恵と教養を指して使われました。その後、清浄でスピリチュアルな意味合いが付加されるようになり、幕末の江戸時代では吉田松陰らによって国粋主義的なニュアンスまで含まれるようになったのです。今日「大和魂」は一般的に「武士道」と同じく、信義に忠実で妥協がなく、決して負けない力と勇気の象徴として、またそのように生き様が強く美しい姿を象徴する言葉として使われています。

もうじき「男たちの大和」という戦艦大和をテーマにした映画が公開されます。元角川文庫の社長を勤めていた角川春樹氏が監修した作品であり、角川映画の元祖として名高い同氏の復帰作としても大いに期待されています。時期を同じくして、最近、本屋さんでも「蘇る戦艦大和」と題する月刊工作本が売れており、品切れ店が続出する人気ぶりです。誰でも簡単に作り上げることができるシンプルさが売りとなって、ブームに火がついています。おそらく日本人の心のどこかに戦艦大和に対する憧れがあるのでしょう。更に、今年の4月には広島県呉市にある呉市海事歴史科学館内に大和ミュージアムがオープンしました。そこには戦艦大和を実物の10分の1で忠実に再現した巨大な26メートルの模型が展示されており、半年間で何と、100万人を越える来館者数を記録したのです。勿論、模型自体もよりリアルに演出するために、戦時中に呉にあった海軍工場で働いていた造船会社の棟梁に依頼して、軍艦特有の船の構造を再現したというこだわりぶりです。当時、日本という小さな島国で、しかも小さい呉という造船町で、世界最大の軍艦を作ることは至難の業であったに違いありません。この奇跡に近い偉業を成し遂げる一意専心の思いこそ、大和魂と呼ばれるにふさわしい忠誠心の賜物であったと言えます。

このコラムでもこれまで幾度となくマラソンの記事を書いてきましたが、このマラソンレースも、大和魂が試される究極の勝負どころです。日本人の体は欧米人よりも小さく、またカモシカのような長い足で大またに走り貫くアフリカ勢に、そもそも勝てるはずがないのです。ところが日本勢は意外にも強く、特に団体では総合優勝することが少なくありません。なぜ日本人がマラソンに強いか。それは勿論、マラソンのテクニック、技術指導もありますが、所詮、人間の限界に挑戦するスポーツですから、行き着くところ、根性があるか、無いかの話になってきます。体を限界まで酷使してつらい痛みを我慢して耐え忍び、勝利だけを信じてひたすら走ることがレースに勝つ秘訣であるからこそ、大和魂を持つ日本選手ならではの快挙が続いているのではないでしょうか。

「成せば成る、成さねば成らぬ何事も」、という上杉鷹山の有名な言葉は、今まで多くの日本人に夢と勇気を与えてきました。現代の日本語でいうならば、「やる気があれば何でもできる!」と言い換えることができます。すなわち一度決めたことは、何が何でも実行するという毅然とした態度、信念を指しており、「大和魂」の真髄でもあります。それ故、「大和魂」が息吹く所では、ひたすら前向きに物事を考え、勝利するために「気合」をいれて、前進するのです。それ故、お互いが励ましあって、ゲキを飛ばし合うのは当たり前であり、それは一意専心に徹する根性と意気込みの現れです。ところが昨今の日本社会では、この大和魂の「励ます世界」に相反するかのごとく、むしろ「励ましてはいけない世界」の方が、注目されるようになってきました。

日本列島を覆う深刻なシンドローム

ここ最近、身の回りに落ち込んだ表情の人達が増えてきたように思えるのは気のせいでしょうか。確かに会社に行けば、明確な理由もなく仕事を休んだり、頻繁に遅刻してくる人達が目に付きます。また体調不良の為、常時薬を飲んでいる人も少なくはなく、知人の中には突然部屋にこもって口を閉ざしてしまったり、精神的に不安定になり、病院に通いながら暫く仕事を休職している人さえいます。どうやらこれらの問題の根源には「うつ」という病が見え隠れしているようです。今日では比較的若い世代の間でさえもうつ病の症状を訴える人が増えてきているため、新聞や雑誌、テレビでもうつ病に関るトピックが頻繁に取り上げられています。今や日本人の内、10人に一人はうつ病と言われる受難時代の到来です。そしてうつ病を患っている人に対しては、「頑張れ」と励ますことが禁句なのです。そこには明らかに大和魂の「気合」とはかけ離れた「励ましてはいけない世界」があります。

うつ病とは元来どういう病気なのでしょうか。一般的にうつ病とは、意欲の喪失を伴う憂うつな精神状態が継続し、日常生活に支障が起きる状態を指します。症状としては単に「悲しい」、「憂うつ」という思いや自己嫌悪感にひたるだけでなく、食欲が減退して拒食症のようになったり、口数が少なく声が小さくなったり、頭痛や肩こり、その他睡眠障害や脱力感など、様々です。また思考力が低下するため注意が散漫になり、その為、優柔不断になりがちです。そして時にはこれらが死の願望へとつながり、実際に自殺をする人の大半はうつ病を患っていたと言われています。うつ病は誰でもかかりうる病気であり、うつ病を発症する年齢層に制限はなく、男女共通に浸透しています。医学的には、脳内の神経伝達物質の働きが悪くなった結果、生じる疾患と理解されています。それ故、ある程度は薬物によって治療が可能とされているのです。実際、うつ病には抗うつ薬が幅広く使われており、他にも精神安定剤や睡眠薬などが併用して処方される場合も少なくありません。また薬物療法だけでなく、東洋医学に基づいたハリ治療や漢方、電気けいれん療法、電磁気刺激療法、光療法など、様々なアプローチが用いられています。

うつ病は一旦発症すると、特に朝方、ひどいうつ感が生じることが多く、その為、仕事や学校に遅刻しがちになります。それは、はたから見ると単に朝が弱く、寝坊して遅刻をしても気にしないだらしない人として映りがちです。また日中でも仕事を一人で抱え込んで黙り通したり、業務上のエラーが異常に多くなって仕事がはかどらなくなることが見受けられるようになる為、どうしても周囲からは、「無責任」という目で見られやすくなります。それ故、社会人を例にとれば、仕事上での様々なストレスを体験している内にうつの病状が悪化し、何時の間にか休みや遅刻が度重なった後、「実をいうと…」と、うつ病であることの告白がされるケースも少なくないようです。しかし実際には表面上のトラブルとは相反して、うつ病の人に限ってまじめで責任感が強く、律儀な人が多いと言われています。だからこそ、よりいっそうこういう人に限って周囲から「いいかげんな人」と思われることが耐え難い苦痛となったりします。

励ましてはいけない世界が存在する

これらの精神的副作用が合い重なってか、うつ症状を訴える当人を「頑張れ」と励ますことは、かえって逆効果を生むということがわかっています。本人は既に目一杯、頑張ってきているので、単なる精神的なプレッシャーにしかならない励ましの言葉は必要ではなく、むしろ今の状況を理解し、忍耐強くケアーするという心が一番望まれます。そして無理をせずに休息をとってもらいながらあくまで、できる範囲のことを落ち着いてこなしていけるように、周囲が暖かく見守ってあげることが大事です。これは前述した体育会系のような「励ます世界」とは全く逆のアプローチと言えます。大和魂をもって、お互いがゲキを飛ばして励まし合いながら全力投球し、忍耐と限りない努力をもって勝利を目指す「気合」の世界に相反して、言葉で励ますことはせず、暖かく見守っていく世界も紙一重に存在するのです。そしてこの2つの全く異なった世界は今や会社、学校、家庭等、あらゆる所で共存しています。すなわち、「励ます世界」と「励ましてはいけない世界」という2つの異なった世界像はオーバーラップしている為、見極める必要があるのです。そしてこの「励ましてはいけない世界」が徐々に広がってきているように思えて仕方がない昨今の日本社会において、如何にして良き大和魂の復興を訴えていくかが、来る時代の大きなチャレンジとして残されています。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部