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脳の病を未然に防ぐ健康対策
くも膜下出血に倒れた父の死を無駄にしないためにも

1月21日、くも膜下出血に倒れた父が短い闘病生活を経て永眠した。企業家として第一線で様々な事業を手がけていただけに、突然の死が悔やまれる。規則正しい生活を送ることを心がけ、タバコも吸わず、お酒もさほど飲まず、毎年人間ドックに通いながら健康管理に大変気を使う人であった。それ故、男性の平均寿命である80歳台前半までは元気でいるであろうと家族の誰もが思っていただけに、突然の不幸に皆驚きを隠せなかった。

父の健康管理に落とし穴が無かった訳ではない。まず偏食の癖が直らず、同じものをいつも食べる傾向にあった。外食と言えば、決まって焼肉か鉄板ステーキを食べたがり、それも霜降りのサーロインやカルビ系の脂がよくのった肉を好んで食べていた。脂っこい肉がコレステロールの影響で動脈硬化等を起こす原因となるのは明白だ。次の問題は仕事のし過ぎによるストレスだ。オーナー企業の創業者としてそのワンマン経営ぶりは目を見張るものがあり、昔から社員に対して頻繁に怒ることが多かった。怒鳴ることによって血圧が上がるだけでなく、ストレスの蓄積によって免疫力が低下し、肉体の老化が加速する要因となる。更に決定的だったのは、水を飲むことを嫌ったことだ。アンチエイジングの薦めでは、毎日2リッターの水を続けて飲むことが必須とされており、目安としては朝、昼、夕方、晩と500mlのペットボトルを1本ずつ、まめに飲むことになる。ところが単に水だけを飲むことに抵抗を感じる人は少なくなく、父も水を飲むことが好きではなかった。その結果、血液がどろどろ状態になりがちであったのではないかと思う。

くも膜下出血との戦い

昨年末の12月28日、新潟県湯沢の温泉で休養を楽しんでいた父が、風呂から上がった直後に倒れた。その時は意識がすぐに戻った為、単に風呂でのぼせてしまったか、風邪でもひいてしまったのだろうということで、安静にしながら風邪薬を飲んでいたのである。その時、既に動脈瘤から出血していたとは誰も想像さえできなかった。そして微熱が続きながらも徐々に健康が回復してきたと思われた矢先の1月4日の夜、再度意識を失って倒れたのだ。今度は救急車で病院に担がれ、検査の結果、くも膜下出血という致死率の非常に高い重病を患っていたことが判明した。ちょうど額の真後ろにあたる脳の中心部で動脈瘤が破裂し、かなりの量で出血していたことが確認されたのである。

最先端の医療技術による脳障害の分析は的確だ。まずCTスキャンで脳の中を輪切りにしたように解析し、出血の有無、場所、およその量を確認する。出血があった箇所は、そこが白く画像上に写るため、すぐに識別できる。次にMRAと呼ばれる脳血管撮影技術を駆使して脳内の血管の形状を画像化し、突起している動脈瘤の位置、大きさ、形状等を確認する。父の場合も典型的な動脈瘤のこぶがあることがすぐに確認された。そして一刻の猶予も許されなかったため、すぐに脳外科医による頭部の切開手術が行われ、クリッピングという手法で動脈瘤の再出血を防ぐことが試みられた。一応手術は成功し、その翌日は本人の意識もしっかりと戻り、2日目には自分で食事をとる程回復して家族の期待を膨らませた。ところがその直後から脳の攣縮(れんしゅく)による悪影響が始まり、突然言葉が話せなくなってしまった。いわゆる失言症である。CTスキャンで見ると脳の左側が肥大しており、言葉の機能が著しくダメージを受けてしまったのだ。ステロイド等の薬物療法で肥大を食い止める措置は取られたが、脳は一旦肥大すると中々元には戻れない。それから2日後、再度大量の出血が生じ、その時点では体の衰弱も激しかった為に再手術をすることもできず、あえてチューブを脳に差し込み、溜まっている血液を流す処置のみに終わった。

この時点で医師からは「危篤」、「重篤」であるという説明が家族になされ、親族はすぐに見舞いにくるよう勧められた。医師の心配していた通り、その翌日、自らの心肺機能が停止して事実上、脳死状態に陥ったことが確認された。呼吸はレスピレーターを使った人口呼吸に切り替えられたが、2週間は持たないとのこと。いわゆる植物人間となってしまったのだが、父の体に触れてみればまだ暖かいし、レスピレーターのおかけで一応呼吸はしているので、大変複雑な心境になってしまう。人間としての尊厳を考えながら、奇跡の復活を願うことができる最後のチャンスであった。そして1月21日早朝、父は息を引き取った。享年75歳であった。

脳卒中という病気とは

意外とよく知られていないのが脳の病気だ。昔からよく使われている言葉に脳卒中があるが、ここ最近では脳梗塞や脳出血という言葉もよく耳にする。簡単にまとめると、脳の血管障害で突然倒れる病気をまとめて脳卒中と呼び、その中に脳梗塞や脳出血、そしてくも膜下出血が含まれる。これらは血管が詰まったり、破裂したりする為に血液の流れが止まり、栄養が途絶えるために脳障害をおこす病気だ。以前は高血圧と栄養バランスの失調により脳出血の方が発症の確立は高かったが、ここ最近は食生活の変化に伴う高脂血症や糖尿病等の影響で血管が詰まりやすくなった為に、むしろ脳梗塞の方が多くなってきているようだ。

脳梗塞とは、コレステロールの塊や動脈硬化、心臓血栓等が原因となって血管が詰まってしまう病気で、血液がドロドロの人が患いやすい重病であり、脳卒中の中でも死因の過半数を占める。また脳出血は、脳内の血管が高齢や不摂生によって細く、弱くなったため、破れて出血し、脳の中に血腫と呼ばれる血の固まりができる病気を指す。脳卒中のおよそ4分の1が脳内出血によるものである。そして危険度が最も高い病気として、くも膜下出血がある。致死率が4-5割とも言われ、突然昏睡状態に陥り、いびきをかきながらそのまま死んでしまうこともある。

これらの病気に共通して言えることは、急に倒れること、致死率が高いこと、比較的軽い場合でも、半身不随やろれつが回らなくなる言語障害、意識障害を後遺症として伴うことが少なくないことである。それ故、脳の障害は長年の闘病生活を強いられることも多く、最も恐ろしい病気の一つであることに間違いない。

くも膜下出血の怖さ

頭蓋骨の中にある脳は硬膜・くも膜・軟膜という3層の膜に覆われており、くも膜と軟膜の間に張り巡らされている動脈の弱い部分に動脈瘤というこぶが生じ、それが破れてくも膜下腔に出血して広がるのが「くも膜下出血」だ。40代から60代に発症しやすい病気であり、突然死の確立が大変高く、少なくとも2割の人は発病後、数時間以内に亡くなっている。くも膜下出血が発症した際、通常は頭蓋骨を開いて出血している動脈瘤の箇所をクリッピングという方法を用いて塞ぐ処置をとる。その他、カテーテルといって血管の内側から、らせん状のコイルを動脈瘤につめて出血を防ぐ方法もある。これらの手術は大変な危険を伴うだけでなく、例え成功したとしても、その直後から脳血管の攣縮という恐ろしい脳障害が立ちはだかる。出血した脳内の血は完全に除去することができない為、その古い血液が今度は害となって血管の壁を外側から圧迫して血液の流れを悪くし、脳梗塞や痙攣、不随等の問題を起こすのだ。脳血管攣縮の影響は手術後2週間続くと言われており、その間、患者からは目を離すことが出来ない。

くも膜下出血がおこる原因とは?

くも膜下出血の原因となる動脈瘤は、何故発生し、どうして破れるのか、明確には解明されてはいないが、ごく一般的に高血圧や、喫煙、遺伝、ストレスが原因の一部ではないかと考えられている。厚生労働省の公表データによれば、例えばタバコを吸うだけでくも膜下の発症率が3倍にもなる。そこに複数の要素が重なって動脈壁が弱まり、更に拍動と高血圧が作用して徐々に血管壁が膨らみ、それが動脈瘤になる。それ故、高血圧は脳の天敵と言える。高血圧により常に張りつめた状態となった血管は、次第に柔軟性が失われて動脈硬化が進み、もろくなった血管に急に血液がたくさん流れ込み、一部に強く圧力がかかることで動脈瘤が破れると思われる。このため発病はリラックスしている時や睡眠時よりも、むしろ血圧の変動しやすい日中の活動時や風呂に出入りする時に起きることが多く、特に急に寒いところに出た時や、興奮した時に起こりやすいという特徴があるようだ。

脳を守るアンチエイジングの薦め

の体と脳を守る為には、不適切な生活習慣を変えることが急務である。体に悪影響を及ぼす喫煙や暴飲暴食を慎むことは当たり前とし、適度な運動とストレッチを日々欠かさず行いながら、太りすぎに注意する。その上で適度な睡眠と休養でストレスを解消することが大事である。また栄養摂取の面では、塩分や動物性脂肪、コレステロールを多く含む食品を控え、むしろカルシウム、マグネシウム、カリウム、そしてEPAやDHA等の不飽和脂肪酸を多く含む食品を積極的に摂るようにする。また食事で補えない部分はサプリメントを使って栄養のバランスを取ることが不可欠となる。これらは当初、面倒に思われても、慣れてしまえばごく当たり前になるだろう。

また40代以上の世代では、年に1回は人間ドックに入ってメディカルチェックをすることも大切だ。内容的には、ごく一般的な肺のレントゲンと簡単な血液検査、心電図、超音波の検査等に加え、脳ドックとアンチエイジングの検査も行えば安心できる。アンチエイジング系のドックでは、抗加齢の指標として骨密度の検査をし、老化の進行の目安とする。特に最近では血管年齢を計る検査も行われるようになり、脳卒中等の血管障害の予防対策への関心の高さを伺うことができる。無論これらの検査にはかなりのコストがかかるが、一旦発病した後にかかる治療コストと健康を考えれば、保険としては決して高いものではないだろう。

2006年、今年こそ皆さんが健康で、楽しく、生き生きと過ごせることを切に願ってやまない。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部