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ボストンREDSOX観戦記
松坂vs.イチローのドリームマッチにスタジアムが沸く!?

嵐のボストンマラソンを4月16日に完走し、体の節々の痛みもとれないまま、体調の回復を願いつつ日本で仕事をしていた筆者が、再びボストンにUターンするとは夢にも思っていないことでした。というのも、マサチューセッツ州やコネチカット州にある全寮制のミドルスクールと呼ばれる幾つかの中学校から突然連絡が入り、急遽、子供の面接が行われることになったのです。折悪しくゴールデンウィークと重なり、飛行機の予約など殆ど取れない状況の中、やっとのことでチケットを工面し、4月30日ゴールデンウィークの出国ピークで成田空港がごった返す最中、息子と2人でロスアンジェルスを経由してボストンへと旅立ちました。

松坂大輔vsイチローが見れる!

再び訪れたボストンは、2週間前の嵐とは打って変わって、雲ひとつない青空が広がり、とてもさわやかでした。早速レンタカ-を借りて、ボストンの美しい街並みから、数百キロ先の郊外にある学校へ向けてドライブです。その時ふと、前回はせっかくチケットを購入したのにREDSOXの試合を見そこなったことを思い出しました。あの日は夕方から嵐がボストンの町を襲い、試合が中止になってしまったのです。

今回のボストン滞在予定は5月3日と4日の2泊だけだったのですが、運良く、レッドソックスのホームゲームが行われることになっただけでなく、なんと松坂大輔投手の登板予定が5月3日と公表されたのです。しかも相手はイチロー選手率いるシアトルマリナーズという大一番です。この「天与の観戦デー」を逃す手はありません。インターネットで調べると、ちょうどレッドソックスのダッグアウトが目の前に位置する9列目の2席が売れ残っていたので、360ドルと決して安くはありませんでしたが、松坂投手とイチローの対決を直に見届ける一生に一度のチャンスと思い、問答無用でゲット!チケットはボストン市内で宿泊するホテルに、直接宅配してもらうよう手配しました。

古いチケットを騙されて買わされた?

試合当日の夕方、数百kmの長旅を経てボストン市内に辿り着くと、ゲームを数時間後に控え、街中はどこもかしこもレッドソックスのトレードマークである赤いユニフォームを着たファンで賑わっていました。早速、ダウンタウンのマリオットホテルにチェックインして、待望のチケットがフロントデスクに確かに届いていることを確認。ところが安堵したのもつかの間、封筒を開けてチケットを見た瞬間、顔が青ざめてしまいました!「しまった、騙された!」送られてきたそのチケットには、レッドソックス対マリナーズ戦の日時が「4月12日」と過去の日付が記載されていたのです。インターネット詐欺に遭遇してしまったと思い、愕然としながら色々と調べてみると、これはとんだ思い違いでした。確かにチケットは4月12日のゲーム分でしたが、雨天のため延期となったその試合が、たまたま5月3日に行われることになったのでした。その試合で松坂投手が登板する訳ですから、すべては完璧なめぐり合わせでした。

イチロー選手が同じホテルにいる?

そればかりではありません。何と!大好きなイチロー選手が同じホテルに宿泊しているのでは、という話を聞きつけたのです。ある雑誌の記事によると、イチロー選手はボストンでナイトゲームがある時は決まって、午後2時頃ホテルのロビーに降りてきて、ホテルからは外に出ず、ショッピングモールにつながるブリッジを歩いて、決まったイタリアンレストランでピザとコーラを頼むそうです。自分が宿泊したホテルの2階にはショッピングモールにつながるブリッジがあり、その向こう側には、確かにCALIFORNIA PIZZA KITCHENというイタリアンレストランがあります。そんなホテルはここしかない!イチロー選手が一緒のホテルにいるかもしれないと思うだけで、ワクワクしてきます!

野球は街ぐるみのお祭りで始まる

ゲームまでまだ時間があったので、フェンウェイパーク球場を下見することにしました。歴史あるこの著名な球場はボストンのダウンタウン内にあり、マリオットホテルからも1キロ少々しか離れておらず、歩いてもすぐの距離です。既にゲーム開始の2時間前なので、スタジアムに近づくにつれ、大勢のレッドソックスファンを目にするようになりました。球場に着いてまず驚いたのは、一流の野球場らしからぬ、敷居の低さを感じさせる独特の雰囲気です。通常、著名な野球場というと、東京ドームのようにピカピカのハイテクな建物や、ロスアンジェルスのドジャースタジアムのように、ディズニーランド顔負けの広大な駐車場が広がる大球場を思い浮かべます。ところがレッドソックスのホーム球場はこじんまりしているだけでなく、その周囲には大きな駐車場など全く無いのです。東京の神宮球場を更に古くしたような野球場が、ダウンタウンの線路沿いにぽつんと置かれているだけのような感じです。また道路を挟んで球場の真向かいは、野球バーとも言える飲み屋がずらっと肩を並べており、どの店も大勢の人で賑わっています。無論、レッドソックスのファンがそこで飲み食いして、試合前のプレビューを大型テレビスクリーンで見ながら楽しんでいるのです。野球はとにかく皆が楽しむ為にある!この気さくな雰囲気がとても羨ましく思えました。

アットホームなフェンウェイ球場

子供を迎えにホテルへ一旦戻り、すぐに先ほどのスタジアム正面にあるパブに駆けつけ、まずはビールで乾杯!大型スクリーンでは松坂選手の様子が映し出されており、試合前の緊張感が漂い始めます。そして試合開始15分前、遂にスタジアムに突入です!老朽化したスタジアム内は想像していた以上に小さく感じましたが、どこも活気に溢れています。球場内の通路沿いには売店がずらりと並び、その数の多さにも感心。何万人も訪れる球場では、通常長い行列ができるものですが、フェンウェイはあまりに売店の数が多いので、どこも数人しか並んでおらず、すぐにほしい物を買うことができます。その上、歩きながら販売しているスタッフがいるので、座席に座ったままでも買えて大変気楽です。

最も感心したのは、フィールドの目線の低さです。東京ドームなどは美しくてもフィールドと観客席の高低差があるため、選手がどうしても遠く、また下の方に見えてしまいます。ところがフェンウェイはフィールドと同じレベルから座席の列が始まっているので、ダッグアウトに出入りする選手を同じ目線で間近に見ることができます。この敷居の低い、自分が野球をしていると錯覚してしまうようなアットホームな距離感が、これまたフェンウェイが人気スタジアムである理由のように思えます。

いつの間にかプレイボール?

遂に松坂がブルペンから出て、にこやかに笑いながら軽いキャッチボールを始めました。ところが試合開始の時間が刻々と近づいているのに、周囲を見渡すと、満員御礼ともいえる大観衆は松坂投手のウォームアップなどおかまいなく、ホットドックやビール、ポップコーンを飲み食いしながらスタジアムの雰囲気を楽しんでおり、球場全体がパブ化していたのです! 更に驚いたのは、プレイボールの際に歓声もあがらず、いつの間にか松坂投手とイチロー選手のバトルが始まったのです!日本のメディアが大注目している松坂大輔対イチローの一騎打ちですから、プレイボール直前にスタジアムが大歓声に包まれ、松坂投手の初球から観衆が注目するだろうと勝手に想像していたのですが、大はずれです。

試合前は野球そっちのけで、まずは友達と語り、時には騒ぎ、自分達の時間を楽しみながら、だんだんと試合にのめり込んでいくのがボストン流の野球の楽しみ方なのでしょう!だからこそ、味方がヒットを打つとか、援護射撃で一発逆転するとか、エキサイティングな場面では拍手や歓声で球場が俄然盛り上がりますが、逆にあたり障りないイニングや味方が苦戦している状況下では、シーンと静まり返ってしまうのです。その強弱感が、またボストン野球の醍醐味かもしれません。

松坂選手の不調に味方打線が爆発!

とにかく松坂投手の投げた1イニング目は、不気味な程、球場が静まり返りました。その原因は松坂投手の不調です。出だしからフォアボールの連発で一気に満塁となってしまい、それでも制球が芳しくなく、ストライクが決まりません。味方のエラーにも心を取り乱したのか、初回から5失点という最悪のスタートです。これでは敗戦投手になってしまい、早めに降板されてしまうのか、と心配がつのります。

しかし、さすがレッドソックスの重量打線です。松坂投手を援護するべく、2回裏には一気に5対5の同点に追いつき、更に4回には2点逆転、松坂投手に勝利投手の権利までもたらしたのです。ところが松坂投手は調子が戻らず、5回には2失点を記して再び同点とされ、遂に降板となりました。その後、ラミレス選手のソロホームランで8回裏、再び勝ち越し、結果は地元レッドソックスの勝利で幕を閉じました。

終わってみれば、松坂投手の結果は過去最悪とも言える、5回7失点1三振という大変みじめな内容です。与四球も5、死球も1回あり、被安打5自責点7は、はるばる日本から見に来ても喜べるものではありません。また日本人のファンにとっては残念なことに、イチロー選手もノーヒットです。日本人スター選手の不調も手伝ってか、いまいち盛り上がりに欠けた試合ではありましたが、良い時は素直にはしゃいで喜び、悪い時は静まり返る米国人の、ありのままの気持ちで野球を楽しむ姿にはちょっとした共感を覚えた、フェンウェイパーク球場での一幕でした。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部