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北京オリンピックのメダルマジック
メダル獲得数に踊らされる日本が知るべき真のオリンピックとは?

北京オリンピックが無事に終了しました。世界各地から204の国と地域が参加し、過去最大の参加国数を誇る巨大な大会になりました。2008年現在、世界全体の国家の数は192ヶ国と公表される時もあり、今回の参加国数はその数字よりも多いことになります。その理由は、国連加盟国数や、国家として認知される条件等が国々の解釈によって異なり、明確な基準が無い為です。世界の国家数が不透明であるという現実に、今日の世界情勢の複雑さを垣間見ることができます。

メダル数が国力と文化のバロメーター?

オリンピックといえば、とかくメダルの獲得数が話題となり、特に大国は躍起になってメダルの獲得を目指しています。昭和の時代では、旧ソビエト連邦とアメリカの一騎打ちという構造が際立ち、その後、中国が台頭して3強となりました。更には、イギリスやドイツ、オーストラリア等の列強が名を連ね、そこに日本も仲間入りを果たしました。また最近では、お隣の国、韓国が驚異的な躍進を遂げています。先進国にとってはメダル獲得数が、優れた文化と国力の証として捉えられている傾向があるのでしょう。

北京オリンピックにおけるメダル獲得数の予測は、米国が筆頭に挙げられていましたが、実際には金メダルの獲得数で中国が51個と、断トツでトップに踊り出ました。金銀銅の合計では、さすがに米国が110個と、中国の100個を上回りましたが、それでも中国の総メダル獲得数100個の内、その半分以上の51個が金メダルというのは驚異的な記録です。金メダルの占める異常に高い割合は、中国では絶対に「金」でなくてはならない、という何か強い力が働いているように思えてなりません。また、メダル獲得数上位10カ国だけで、メダル総数958個の内、540個、つまり半数以上を獲得したことからしても、一見、これらが国力と文化の高さを示すバロメーターになっているようにも見えますが、現実はもっと複雑です。

北欧諸国の劣勢は本物?

まず注目すべきは、一人あたりのGNP/GDP値において世界のトップクラスを独占し、今日、最も経済的に豊かで生活水準が高いと言われている北欧諸国のメダル獲得数が、意外にも少ないことです。ノルウェーは金3個、メダルの総数が10個で、メダル合計数のランキングでは23位。スウェーデンは金がゼロ、総数5個で41位。フィンランドに至っては金1個、総数4個で47位という結果です。冬のスポーツ大会では圧勝する北欧諸国ですから、スポーツ振興が盛んでないということはありません。実際には、北欧の人口そのものが少ないために、その人口数に比例して、メダル獲得数も少なく見えるだけにすぎないのです。

人口調整金メダル数、と呼ばれる指標がありますが、金メダルの数だけを人口に比例して換算し直すと、ノルウェーは諸国を抜いて一気に世界の5位に踊り出ます。その数値は、アメリカの7倍、日本の9倍、そして中国と比較すると、何と40倍にもなります。それ程、メダル獲得数というのは、ある程度、国家の人口数を加味して見比べないと、フェアーな結論がでないとも言えます。

カリブ海諸国の大善戦に注目

総人口が少ないといえば、今回のオリンピックでは、カリブ海に浮かぶ小さい島国のジャマイカとキューバが善戦したことに注目です。何しろ人口260万のジャマイカが6個も金メダルを獲得したのですから、人口調整金メダル数では世界一です。またキューバのメダル獲得数合計は24個で、これは日本の25個に匹敵する快挙です。ジャマイカの場合、陸上競技でボルト選手が金メダルを3個も獲得する特例がありましたが、それでもジャマイカとキューバ2国で、35個のメダルは大きく評価されるべきです。

このメダル獲得数の向上が、発展途上国とみなされていた国々が経済的に成長し、国民がスポーツを楽しむ余裕を持ち始め、それがスポーツの振興に結びついた証とみなされるべきでしょうか。それとも単に、これらの国々の運動選手が得意とする競技において、優勢を占めたにすぎないのでしょうか。一概には結論は出せないようです。

気になるメダル獲得数の不思議

一方、カリブ海諸国のメダル獲得数に比べ、発展途上にある東アジア諸国の劣勢は際立っています。ラオス、カンボジア、バングラデッシュはメダル無し、マレーシアとベトナムは1個ずつ、そしてタイとインドネシアはそれぞれ4個と5個のメダルを獲得し、かろうじて東アジアの面目を保ちました。東アジア諸国は人口数が多いのに、結果を出すことができないでいます。

また、国力と言えば、大国の一つであるインド抜きでは、もはや語ることはできません。人口11.4億人、核を保有し、またITの分野での貢献により、経済的にも急成長を遂げています。ところがこのインドのメダル獲得数が、金1個に銅2つ、合計3つで、参加国中53位でした。これは庶民がスポーツを楽しむインフラが十分に構築されてないと考えられますが、インドでは今後も急速な経済成長が見込まれており、いずれスポーツの振興が進むことでしょう。

また、香港のメダル獲得数が0、シンガポールが1個に止まったことにも注目です。今や、シンガポールと香港はアジア経済のハブとして急成長を遂げ、その経済力においては日本をしのぐ存在とまで言われ、シンガポールの2007年一人あたりのGDP値においては既に日本を抜き、香港においては、アジア金融の中心としての確固たる位置づけを不動のものとし、日本は追いつくことが困難であると言われています。しかしオリンピックでは結果を出せないのです。

確かに一見すると、シンガポールも香港も豊かで、裕福なポケットマネーにものを言わせて、至るところで、ハイレベルの生活を満喫しているように見えます。しかし金融業を中心としたこれらの国々の発展は一種のバブルのようなものであり、国内に産業の実態が殆どないのが現実です。つまり物を生産することがなく、国家はフリーポートを設置して関税を撤廃し、法人税を世界最低水準に維持して外国企業の誘致を図り、金融業から利潤を稼いでいる側面があります。

結果として庶民の間で贅沢志向がはびこり、国民の生活レベルは、欧米や日本のように、幅広い選択肢に欠けています。日本のように、やろうと思えばなんでもできるスポーツ文化のインフラが出来ていないのです。その意味では、選択肢に溢れる日本は、総体的に国が豊かであり、それがメダルの獲得に結びついています。

一番気になる日本VS韓国のメダル数

今回のオリンピックでは、日本総人口の半分にも満たない韓国に、メダル獲得数で追い抜かれてしまいました。日本の金メダル9個に対して、韓国の獲得数は13個です。合計のメダル数においても25個の日本に対し、韓国は31個。前回のアテネオリンピックでは、日本のメダル獲得数は37個、内、金が16個であり、韓国は合計30個、内、金が9個という数値でしたので、やはりグン、と抜かれてしまった感を否めません。

韓国が金メダルを獲得した種目を見ると、個人技に重きが置かれています。特に射撃やアーチェリーで活躍する選手が多く、また、柔道、テコンドーの武道、そして重量上げにおいても優れた力を発揮しています。何しろお家芸のテコンドーと、重量上げだけで金メダル6個、全体のおよそ半分を量産しています。ところが個人技だけではなく、野球でも完勝の金メダル、またバドミントンのダブルスでも金をとり、女子のハンドボールでも銅メダルと、正に日本のライバルです。

これは韓国が経済的に豊かになり、スポーツを楽しむゆとりが生じ、徹底してトレーニングを積む選手が増えた結果ともいえます。また韓国では男子の誰もがおよそ2年間の兵役につくことが義務付けられおり、この兵役期間を通して体と精神力を鍛え、愛国心を養います。ところがオリンピックのメダリストは、この兵役義務から免除されるため、それがモチベーションとなって男子選手は必死に練習するという意見もあるようです。しかし今回、女子選手が金メダル13個の内、5個を獲得していることからしても、兵役論では説明できないパワーが秘められていることは確実です。

オリンピックの原点とは何か?

オリンピックでは、どうしてもメダル競争に関心が向けられるため、マスメディアの報道もメダル中心の内容となってしまいます。しかし現実問題として、そのメダルを獲得するために、スポーツが政治の道具として使われ、優れた才能を見出された選手は、幼いころから国家権力の支配下の元で英才教育を受け、メダル獲得の指令を受けてオリンピックに出場することは、今も昔もさほど変わりません。マインドコントロール的手法や、国家権力を駆使して選手を育成するようなことがあってはなりませんし、ましてや試合に負けるとバッシングされ、体罰を受けるようなことは論外です。

スポーツは健全な肉体と心をベースに、自分が大好きなスポーツだからこそ、自ら率先してトレーニングに励み、その結果、メダルを獲得するのが本来のあるべき姿でしょう。選手のモチベーションが高められる個人的、社会的要因が存在し、優秀なコーチ陣が集められ、日々練習に励むことができる環境が整えられれば、いつしか優れた選手が台頭し、世間を沸かすでしょう。スポーツ振興の頂点にあるオリンピックには、何ものにも束縛されない選手の自由で明るい姿が不可欠です。その結果がオリンピックのメダルにつながることを願ってやみません。行き着く処、昔からの格言どおりです。オリンピックは「参加することに意義がある」のです。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部