日本シティジャーナルロゴ

日本航空に苦言を呈す Part.II
利用者を欺く燃油特別付加運賃の廃止を求む

2013年1月7日月曜、冬休みを終えた子供を米国コネチカット州の郊外にある学校に送り届けてから、ボストンのローガン国際空港に向かいました。飛行機の出発予定時刻は12時5分。日本航空の7便で成田に向けて帰国するため、チェックインの時間としてはぎりぎりとも言える11時10分過ぎに、何とか空港に到着。そして遅れてはいけないと、速足でJALのチェックイン・カウンターに足を運ぶと、旅客が一人も並んでおらず、嫌な予感がよぎります。慌ててパスポートを出してチェックインをお願いすると、返ってきた言葉は、使用機材である最新鋭のボーイング787型機の飛行機で火事があり、フライトがキャンセルになったということです。何と自分はあの、バッテリーが炎上したJALの便に搭乗しようとしていたのです。

新年早々、大ピンチです!帰国後の当日夜は、アイスホッケーのチーム練習が西東京で予定されているし、翌日は早朝から仕事があるため、飛行機に乗らない訳にはいかなかったのです。ところが今回の航空券は、日本航空が加盟しているワンワールド・アライアンスの提携会社であるアメリカン航空のマイルを用いた無料航空券であったことから、予約の変更には制限がありました。そしてJALのカウンターで言われたことは、「明日の同じ便も予約は既に一杯であり、お待ち頂くことになるかもしれません」という返事です。万事休す、日本に帰国する術はあるのでしょうか。

それにしても、日本航空の冷たい対応には驚きました。筆者のワンワールド・エリートステータスは、最高レベルのエメラルド。アメリカン航空ではExecutivePlatinumと呼ばれる年間10万マイル以上飛ぶ人にしか与えられない最優良顧客のメンバーであり、その前年度は同様に日本航空のダイアモンド会員、そして長年グローバル会員でもあります。例えJAL便では他に選択肢がなくとも、アメリカン航空の便を使ってボストンからシカゴ、ダラス、またはロスアンジェルス経由で乗り継ぎ、日本に向かう便の案をいくつか紹介して頂けると期待したのですが、見事に裏切られてしまいました。最新鋭のボーイング機が、離陸直前に燃えるという不測の事態に遭遇し、日本航空からは救いの手が差し伸べられないことから、もはや頼れるのは自分の経験と勘のみ、乗れる飛行機を自ら探しだすしか術はなかったのです。

そこで即座に頭を切り替えて空港の片隅に座りこみ、携帯していたPCを取りだして代替えのフライトを探し始めました。既に時間は午後1時を回っており、一刻の猶予も許されません。チェックインする直前に事故が発覚したこともあり、その場で翌日便の予約さえも難しいという情報をすぐに入手することができたことが幸いしたのでしょう。筆者はJALに限らず、アメリカン航空のマイルも十分持っており、いざという時に備え、全日空やユナイテッド航空が加盟するスターアライアンス系のマイルも所有していることから、とにかくその日に日本に飛ぶフライトを見つけることに集中しました。咄嗟に思い出したことは、ニューヨークのJFK空港ならば、夕方の便で羽田に向かうアメリカン航空の便があるということです。確かにアメリカン航空1851便が、ボストンからニューヨークJFK空港に飛び、そこから135便に乗り継いで、翌日の夜、羽田に到着するというフライトが、当日飛んでいることを確認した後、そのフライトの航空券を取得する作業に着手しました。

当日に航空券を空港で購入するということは、正規料金に近い高額な支払いをしなければならない為、当然ながらマイルを使った特典航空券を取得することが大前提です。そしてアメリカン航空のホームページを開き、特典航空券のセクションから該当するフライトをいち早く見つけ、発券することができました。ボストンからJFKの便は想像通り満席であり、羽田の到着時間は夜の10時を過ぎることからアイスホッケーの練習は断念せざるをえませんでしたが、当日に帰国の途につけたことだけでも感謝です。しかしながら皮肉なものです。収益力が回復し始め、顧客サービスでは定評のある日本航空自体は何ら助けの手を差し伸べず、実際に自分の帰り道を救ったのは、米国で倒産状態に陥っていたアメリカン航空だったのです。

頑張るJALの業績は大幅に向上

2009年の暮れ、日本航空は経営難に陥り、会社更生法の適用を検討していました。経営再建の為には新しい指導者が不可欠でしたが、それを見越した企業再生支援機構は政府主導により、京セラやKDDIを創業し、名経営者として手腕をふるってきた稲盛和夫氏に対して日本航空の会長職に就任して頂くよう要請したのです。その後、再建を引き受けた稲盛氏による改革は断行されることとなります。稲盛氏が就任した当時、4万8千人の社員数の3分の1にあたる1万6千人にも上る大人数の希望退職が募られ、エリート集団というイメージの強かった日本航空は一転して、再建という厳しい現実の洗礼を受けました。しかしながら同氏の力強いリーダーシップと、人の心を大切にする経営哲学に支えられ、業績はその後、急回復していきます。

米ボーイング787型機の運航停止による事故後、一時は営業収益が圧迫されるのではないかという懸念も囁かれる時期がありましたが、昨今の国内における景気回復のトレンドや国際線のビジネス旅客の増加にも助けられ、2013年3月期連結の営業利益は1950億円強と、大きく上昇したのです。そして国際線の座席利用率は75%を超え、新規の路線も好調が続き、更生法の適用からたった2年で売上高が1兆2300億円、営業利益2千億円、自己資本率は45%を超えるまで改善され、経済基盤の強化を伴う再生を達成したのです。

健全な経営体制が敷かれたことは、多くの国民が日本航空の便を多用することからしても、大変喜ばしいことです。稲盛和夫氏は、「人としての正しさ」を追い求め、その理念を仕事にまで貫いたことが功を奏し、利潤の回復だけでなく、将来の展望もめっきりと明るくなってきただけに、日本航空は当然のことながら、これまで迷惑をおかけした分の恩返しを、社会全般に対して積極的に手掛けると思われました。しかしながら、残念なことに、大企業としての利潤を第一とする金権主義の体質は変わらず、その期待は裏切られてしまいました。

詐欺まがいのJAL特典航空券

日本航空が提供するサービスの中で多くの問題点が散見される事例が、マイルを貯めると航空券を無料で取得できるというJALの特典交換券プログラムです。マイルは飛行機に乗るだけでなく、クレジットカードや、各種提携ポイント付カードを利用することによっても貯めることができます。そして今や、無料で航空券を取得する為に一生懸命マイルを貯める人や、中にはマイラーという言葉が象徴するように、それを趣味とする人もいる程です。ところが日本航空の特典航空券とは、一見お得な無料航空券のように思えるのですが、取得に関する様々な制限があり、他の米国系航空会社が提供する特典航空券のプログラムと比較すると、サービス内容に雲泥の差があるのです。

例えば平成25年7月現在、成田と米国本土の往復航空券をJALのマイルを使って取得すると、既定の5万マイルと小額の税金を必要とするだけでなく、更に燃油特別付加運賃が追徴され、合計で55,640円も請求されるのです。無料と思って一生懸命にマイルを貯めて特典航空券を取得しても、5万円を超える燃料代を徴収されるということは不可解でなりません。同じワンワールドの提携航空会社であるアメリカン航空で同等の特典航空券を取得すれば、6万5千マイルが引き落とされ、後は$45.10の税金を支払うのみで済みます。これはどの米国系航空会社でもほぼ、同じ金額です。必要マイル数はJALよりも若干多くなりますが、実際にはJALよりもボーナスマイルがつき易いことから問題はありません。つまり、JALの特典航空券は、実は無料どころか、燃料サーチャージという名のもとに高額な負担を利用者に強いているのです。

そもそも、一般的に流通している格安航空券を購入するならば、例えば成田と米国ロスアンジェルス間の往復チケットは、平成25年7月現在、3~4万円で購入できます。つまりJALのエコノミークラス特典航空券は、実際に購入する航空券の価格よりも高いということになります。ボーイングの777-300ERというニューヨーク線で用いられている機体は、座席数の少ない方ですが、それでも246席あります。もし旅客全員が燃油特別付加運賃を支払うとするならば、燃料サーチャージの総額は往復で1300万円を超えます。ケロシン燃料がリッター115円と仮定し、ロスアンジェルスまでの消費リッター数が往復24万リッターとすると燃料コストは2760万円。その燃料費の半額を燃油特別付加運賃でまかなう計算になり、論外の暴利です。必要以上に過大な金額を燃料費の名目で徴収しながら、あたかも無償であるように特典航空券とうたっているのは、詐欺まがいの行為と言わざるをえません。

もし、タクシー業界が日本航空のように、燃料代としてメーター代とは別に1kmごとに100円徴収したら、利用者の皆さんは黙っているでしょうか。諸外国なら必ず訴訟になるような詐欺まがいの特典航空券プログラムであっても、日本人はお人よしなのでしょうか、文句を言う人は少なく、黙って言われるままに燃油特別付加運賃という言われのない燃料代を払い続けている人が殆どのようです。例え日本航空が、国土交通省よりいかなる認可を受けていたとしても、その内容自体が誠意に欠くものであり、論外な請求であることに変わりありません。

JALマイレージサービスの諸問題

日本航空が積極的にマーケティング展開を行っている特典航空券のプログラムには、燃油特別付加運賃以外にも、様々な問題が散見されます。まず、特典航空券の利用を、会員ご本人、会員の配偶者、会員の二親等以内の親族の方、義兄弟姉妹の配偶者に制限するというルールを改善しなければなりません。家族構成が複雑化されてきた現代社会において、親族であっても姓名が違う場合は多く、また、血縁関係に頼らずとも法的に親族関係が存在する場合もあります。それらを予約の際に証明するには無理があり、顧客の自己申告におよそ任せなければならないこと自体、ルールそのものが現実的ではありません。よって米国系の航空会社では、会員本人が所有するマイルは誰が使おうと、一切、制限がないというのが業界の常識になっていますが、日本航空は古い考え方に固執し続けています。

また、いざ、特典航空券の予約をする際に、日時の制限があることも利用者の利便性を大きく妨げています。日本航空の場合、出発日4日前の12:00までしか受付けをしていないため、直前の予約や変更ができないのです。前述したように、米国系の航空会社ならば、出発の数時 間前まで予約をいれることが可能であり、これまで筆者は何度も当日に特典航空券の予約をして、難なく旅をしてきました。そもそも、特典航空券の予約は直前のキャンセルが生じることが多く、いままで予約で一杯だった特典用の座席が空く場合があります。その空いた席の情報をユーザーに提供して予約を受け付けるために、何故プログラムを改善しないのか、理解に苦しみます。マイルを消化する機会を会員にもっと与えない限り、消化しきれないマイルが貯まっていくだけになります。

予約や変更の快適さ、融通が効いて気持ちよく旅のプランができると言えば、やはりアメリカンやユナイテッド航空など、米国系の航空会社が優れています。予約は当日、フライトの直前まで可能なことはもちろん、片道だけの予約も自由に選択できます。また、往復の予約を入れて、一旦は片道分だけ搭乗をして、帰路の便が未使用の場合でも、多少の変更料を支払うだけでキャンセルし、未使用のマイルを戻してもらうことも可能です。また、加盟航空会社のフライトを混在した乗り継ぎ便の予約をしたい時などは、特にユナイテッド航空のホームページが優れています。スターアライアンスに属する全日空の便など、他社提携便とユナイテッド航空の便、双方を用いた旅のプランも、WEB上で即座に完結することができるのです。

残念ながら日本航空の場合、同じワンワールドに加盟しているアメリカン航空との連携は限定的であり、ホームページ上から見ることができないだけでなく、電話を使って予約をいれても、一旦、特典航空券を発券して搭乗してしまうと、アメリカン航空のフライトが混在しているだけで、その後、全く変更ができなくなります。このような不備をなぜ改善しようとしないのでしょうか。また、マイルには有効期限がない、というのがもはや世界的な常識ですが、相変わらず日本航空は、搭乗したフライトの利用日から3年間としています。但し、上級の会員には有効期限をなくしていますが、そのために年間10万マイル飛ぶ人が、いったい何人いるのでしょう。時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ません。

目先の利潤を重視した中国路線

日本航空の中国路線は、かつての日本エアシステム(JAS)の路線を肩代わりしてからも、相変わらず以前と同じ古い機材を引き継いだまま、中身をほぼ改善することなく、体裁だけ整えて運用しています。一番の問題はやはり座席の構成であり、搭乗率の高い上海や広州行きなど人気がある路線については、顧客サービスを無視して、旅客を機内に詰め込むような利潤第一主義を踏襲してきたことに尽きます。そして中国と日本との間に政治的ないざこざが生じ、旅客数が減少するとフライトをキャンセルし、また、旅客数が増えてくると機内に詰め込むという粗雑な運用を繰り返してきたのです。

最近の日本航空の広告に見られるように、国際線の大型機ボーイング777を使用する路線ではスカイワイダーと呼ばれる新座席を搭載し始め、エコノミークラスのシートピッチを従来のものより10cm拡大して、84cm(34インチ)とした路線が登場したことは嬉しい限りです。しかしながら34インチというのは、アシアナ航空、マレーシア航空、中国国際航空など、既に複数の航空会社では以前から採用されている基準であり、何ら真新しいものではありません。問題は稼ぎ頭である旧JASの中国路線です。そこではビジネスクラスのシートピッチが相変わらず窮屈なままに放置され、長年改善がなされていません。

その問題のルーツには旧JASとの統合があります。日本航空と旧JASが2002年から順次、経営統合されましたが、実際には機体デザインや便名、制服などの統一にとどまり、その後、2006年には運航業務や人事面も含む完全統合を果たすも、7年たった今もって、中国路線の機材には改善が見られないのです。例えば広州便はJAL767-300ERの機体を使用し、ビジネスクラスのシートはスカイラックスという 旧型タイプのまま、シートピッチは業界最低の114~124cmです。そしてビデオのスクリーンは横に傾いて見づらく、まともに食事もとれないような不良デザインです。中国路線は人気路線であるから、窮屈でも我慢しなさい、と言わんばかりです。同じ路線で競合する中国南方航空のビジネスクラスでは、以前日本航空が太平洋路線等で多用していたボーイング社の747型機ジャンボ機を導入することが多くなり、国際線ファーストクラス同等のシートピッチ160cm、すなわち旧ファーストクラス型の座席に相当するシートを提供しています。あのゆとりある空間を一度体験したら、いかにJALが好きな方でも、中国南方航空に乗ることを検討するのではないでしょうか。

顧客サービスが軽視され、企業利益が先行して追求されるという、以前の間違った経営姿勢が、未だに社内の体質にはびこっているのでしょうか。いくら社員が頑張ってサービス向上に努め、笑顔をふりまいて接客業務に努めても、肝心な飛行機の機材そのものがリタイヤ間近の旧型機であり、オーディオ・エンターテインメントもまともに楽しめず、座席を窮屈に詰め込まれたら、たまったものではありません。世界的な旅客サービス向上のトレンドに伴う機内サービスのグレードアップと、就航機材の快適なシート設計は、航空会社が今後、旅客の心をしっかりとつかみ、ファン層を維持する為には不可欠です。世界のトップクラスに返り咲きを目指す日本航空にとって、もはや議論の余地はないのです。

JALに問われる「心の経営」の今後

日本航空再生の立役者となった稲盛氏の経営理念の骨子は「心の経営」とも言われ、「人間として何が正しいかで判断する」ことを大切にしているとのことです。その経営改革が始まって以来、確かに多くの改善が見られ、日本航空の社員一人一人の仕事に対する姿勢そのものが一変し たようです。どの空港、ラウンジ、添乗員を見ても、誰もが一生懸命に笑顔を振りまいて頑張っている姿が、今でも目に焼き付いています。人は宝であり、JAL の潜在的な力は、笑顔でポジディブに前進する多くの社員によって支えられていることは、称賛に値します。また、機内食においても改善が見られ始め、選択肢、内容ともに申し分ない路線が少しずつ増えてきました。また、国内便のファーストクラスは大変充実しており、シート設備、機内食の内容等、どんな海外勢と比較しても劣るものではありません。むしろ、国内のファーストクラス程度のサービスをなぜ、ワンランク上に相当する中国向け国際線のビジネスクラスでも提供してもらえないものかと、首をかしげてしまうほどです。中国路線に おいてもビジネスクラスでは、今後、シートピッチが160cm以上の広い空間を確保することが当然の目安となることでしょう。

日本航空の倒産劇においては国民に多大なる迷惑が及んだだけでなく、企業再生の一途で多額の税金が使われ、多くの社員の職も失われるなど、社会的な悪影響は甚大でした。その日本航空が今や、巨額の利益を計上して会社が潤ってきているにもかかわらず、利潤を追従するだけで、本来あるべき「心の経営」を見失っているのではないかと危惧します。企業の利益は様々な次元から社会に還元することにより、経済は活性化され、一般市民の生活も潤いを帯びてきます。今一度、現実を見つめ直し、気がつかぬ間に利用者や市民を欺いていないか、不本意ながらも自らの利潤を優先する金権主義に陥っていないか、権力欲にまみれた官僚主義が新たにはびこっていないか、再検討して頂きたいものです。是非とも世界に誇れる、「心の経営」を貫く日本航空であってもらいたいと願ってやみません。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部