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テルアビブ諸事情‐ライブハウスが熱い!
リゾート化された巨大ツーリストタウンには音楽がいっぱい!

アメリカと連合軍がシリアを空爆し、100発以上のミサイルを撃ち込んだ当日、アメリカと友好関係にあるイスラエルにも緊張が走りました。時を同じく、ドイツから帰国する途中にイスラエルに立ち寄ることにしていました。30年ぶりに首都エルサレムを訪ね、聖地の空気を肌に感じながら、以前は行くことができなかったテルアビブに足を運び、昼はイスラエルの国立大学の教授と面談をし、夜はテルアビブのライブハウスを視察しようと考えていたのです。もしかして戦時体制に入ってしまうのか、とも思える空爆のニュースにちょっとした不安を覚えました。

エルサレム 嘆きの壁 木村政昭著「与那国島海底遺跡・潜水調査記録」より
エルサレム 嘆きの壁

以前イスラエルを訪れた時は、入国する際に厳重なチェックを受けました。あれやこれやと尋問攻めにあい、ボディーチェックにも時間がかかったことから、今回もさぞかし厳しい対応になると覚悟していました。ところが空港に到着してみると、びっくり!厳しい入国審査があると思いきや、アメリカがシリアを空爆した直後だというのに審査場には小ぶりなブースがあるだけで、個人的に質問をされるだけで誰もがほぼ、簡単に通り抜けることができました。そして30年前のテルアビブ空港とは様変わりし、新設のベン・ガーオン空港は巨大な国際空港に生まれ変わっていたのです。海外からのツーリストに開かれたイスラエルというイメージは想定外でした。それで治安を保つことができれば、言うことありません!

連日快晴に恵まれた
連日快晴に恵まれた
残る心配は天候です。つい数日前までは大雨の連続と聞いていたので、あらゆる状況を覚悟していました。ところが、イスラエルに到着してみると、なんと、雲一つない青空が広がっているではありませんか!しかも4月だというのに27度の夏日であり、周りを見渡すと、多くの方がTシャツ1枚に短パン、サンダルの姿です。晴れ男として知られる筆者ではありますが、イスラエルでも連日、見事な快晴に恵まれたのです。

イスラエルでレンタカーを借りる!

初日のホテルのみTel Avivのシェラトンホテルを予約したこと以外、イスラエルに到着するまで、まったく旅の準備をしていませんでした。空港に到着してからタクシーでテルアビブまで向かい、それから色々と考えようと思っていたのです。実際、新空港の場所さえも確認していませんでした。空港の案内所にて、テルアビブからシェラトンホテルまでのタクシー料金を聞き、イスラエルの通貨で130シェケルをUSドルに換算してもらうと、40数ドルになるということでした。5000円もかかるのか、とその時初めて、空港からテルアビブまでの距離がかなりあることを知りました。実際、直線距離ではテルアビブの中心街、地中海の海近くまでは15㎞程あり、道路上の距離は20㎞を超えている訳ですから、5000円という価格も納得できました。

実は30年ほど前、初めてイスラエルを訪れた際にはレンタカーを借り、エルサレムや死海まで自分で運転ながら、気ままにあちこちに出向きました。よってイスラエルの交通事情は知らない訳ではありませんでした。そこで急遽、プランを変更してレンタカーを借りることに決定!ベン・ガーオン空港は巨大化し、レンタカーの受付はすべて空港の2階カウンターにまとまっていました。幸いにも米系のEnterprise のメンバーでもあったことから、気軽に英語で話かけて「予約がないのですが…」と聞いてみると、大きいフルサイズの車が1台だけ残っているとのこと。早速その車を借り、自ら運転してテルアビブまで行くことにしました。

驚きました!アメリカではJFKニューヨーク、ボストン、シカゴ、ロサンゼルスなど、大都市ならおよそどこでも運転慣れしている筆者ですが、イスラエルのベン・ガーオン空港からテルアビブまでの道のりは、一瞬ここはアメリカか?と思えるほど、すべてがアメリカ化されていたのです。道路の幅もアメリカ並みに広く、その造り、そして標識の色、大きさ、文字の綴り方など、まさに米系の設計者が描いたものに違いなく見えました。空港からテルアビブをつなぐ高速道路は無料であり、少なくとも片側4車線あることから、とても快適に運転できます。そしてスマホの地図で目的地を検索した後、ナビ通りに運転して20分もすると、地中海沿いのシェラトンホテルに到着しました。まだ周囲は明るく、爽やかな青空と美しい地中海の光景、そしてインターナショナルな巨大リゾート地が、目の前に飛び込んできました。

テルアビブの地中海沿い大通り 木村政昭著「与那国島海底遺跡・潜水調査記録」より
テルアビブの地中海沿い大通り

若者の街、テルアビブは夜が旬!

砂浜に併設されているトレーニング施設
砂浜に併設されているトレーニング施設
初めて見るテルアビブの街は一言で、巨大なサンタモニカという印象でした。ロサンゼルスの海岸沿いの街、サンタモニカは延々と続く広い砂浜と、サイクリングコース、ピアにある遊園地、そして海岸沿いの様々なローカルショップやレストランが有名です。テルアビブはそのサンタモニカを更に巨大化した街の様相を呈していたのです。砂浜も広く美しく、あちこちにビーチバレーボール用のコートや公園が造成されています。特筆すべきは野外ウェイト・トレーニング用の施設が砂浜に2か所設置されていたことです。フィットネス好きや、ボディービルダーにとっては最高の環境です。また、見晴らし台も道路沿いに何か所も設置され、緩やかな高台をウッドデッキにして、庶民の憩いの場となっています。

道路沿いには5mから10mほどの幅がある散歩道が設けられ、犬と散歩している人も多く、イスラエル人は犬好きであることがわかります!子供と一緒の家族も多数見受けられましたが、やはり、若い人が圧倒的に多いようです。また、ランナーも散歩道のあちらこちらを走り抜けています。無論、デートをしているカップルの姿も多く、何でも自由な雰囲気がテルアビブにはあります。気温も27度という夏日であり、みなさん、短パンやサンダルの軽装です。もしかするとテルアビブという土地柄、半数近くの人々は旅行者なのかもしれません。

ヨットハーバー プレジャーボートが並ぶ
ヨットハーバー プレジャーボートが並ぶ
海岸沿いにはホテルやレストラン、ショッピング街が並び、まさに巨大サンタモニカと思えるほど、その様相はアメリカ風そのものです。さらには大きなヨットハーバーまであり、多くのプレジャーボートが停留していました。それにしても、中近東の一角であるテルアビブがここまで開かれている様相は、当初、想定していませんでした。それだけイスラエルが進化してきた証とも言えます。若者の街、海外ツーリストの街、そして巨大なビーチリゾートタウンがテルアビブなのです。初めて出かける夜のライブハウス巡りに、期待が弾みます。

アットホームなLevotin7

テルアビブに来てわかったことは、とにかく夜が遅いことです。何しろまず、夕食をとる時間が遅いのです。6時から食べる人は少数派であり、8時や9時が当たり前の社会になっています。よって、ライブハウスもおよそ人が集まるのは、早くても10時くらいからであり、夜半過ぎに活況になるのが、テルアビブ流です。初日、そうとは知らず、夜の9時過ぎにライブハウスツアーをスタートしました。 

受付を一人で仕切る女性スタッフ
受付を一人で仕切る女性スタッフ
まず最初に訪れたのが、地下1FにあるLevotin7です。道路沿いのレストランと一体で経営しており、多くの若者が食事を楽しんでいました。そのレストランの真下がライブハウスの会場です。様々なポスターに飾られた階段を下りていくと、若い女性が一人、カウンターに座っていました。千円少々の入場用を支払って中に入ってみると、その日はアコースティックのトリオということで、3人が演奏していました。トークはすべてヘブライ語のため理解できませんでしたが、歌はすべて英語のフォークソングでした。

Levotin7でのトリオ演奏
Levotin7でのトリオ演奏
ベースはエレキだけでなくウッドベースも使用し、AmpegのキャビネットにGallian Cruegerのヘッドがのせられていました。卓はMIDAS製、モニタースピーカーはJBLを採用し、一流品が勢揃いです。地下にある150名程度のキャパのライブハウスとしては、東京にある典型的なライブハウスとほぼ同レベルの機材を装備しています。しかも地下でありながら、そこにグランドピアノが置いてあるのには驚きました。地下のライブハウスで、グランドピアノは見たことがありません。どのように持ち込んだのでしょうか。地下で組み立てたのでしょうか。数曲楽しんだあと、受付のスタッフに挨拶をして、次のライブハウスを目指しました。

人気のパブ系ライブハウスYeoshua

Yeoshuaの歩道沿い
Yeoshuaの歩道沿い
次はLevotin7から20分程のYeoshua(イェオシュア)と呼ばれるパブ系のライブハウスです。歩道沿いにはドリンク用の席が設けられ、入りやすい雰囲気です。日曜の夜ですが、バーカウンター周りは人が一杯です。50坪ほどのスペースの中には不思議にも、ビリヤードのテーブルを飲み物置き場に改造したテーブルがありました。

みんなで踊って楽しめるYeoshua
みんなで踊って楽しめるYeoshua
その正面には、およそ4m四方の小ステージがあります。ライブハウスというよりも、バーに付随する小ライブスペースと呼んだ方が正しいのかもしれません。今回はドラム、キーボード、アコギにエレキ、という4ピースの編成です。ここでも歌われる曲は、およそ米系のポップ系ミュージックであり、時折、客が飛び入りで演奏することも許されています。やはりイスラエルでは、米系の音楽が若者にとっては主流なのでしょう。ビールやワインを飲みながら、友人達とがやがやと騒ぎ、ライブ演奏をBGMとして聞き入るには絶好の場所のように思えました。

究極の地下ライブPasaz

入るのがちょっと怖いPasaz
入るのがちょっと怖いPasaz
時差ぼけもあり、夜も更けてきたことから最初の晩はあと、もう一軒だけ回ろうと訪ねたのがPasazです。それが最強のライブになるとは想像もしていませんでした。事前にホームページを見て、ジミ・ヘンドリックスのコピーバンドとして地元では絶大な人気を誇るVoodoo Loveという有名なバンドが登場するということで、とても楽しみにしていた場所です。

店の前は、ちょっと怖い雰囲気です。というのも道路際には大きくグラフィティの落書きが書いてあり、入り口が奥まっているだけでなく、暗いのです。しかも地下に向かう階段は狭くて、赤い照明だけの殺風景な雰囲気です。そして地下2階としか思えないほど、かなり階段を下りなければなりません。日本人の女性一人ではとてもではないですが、行く気にはなれないでしょう。やばい雰囲気です!

立見で観衆があふれるPasaz
立見で観衆があふれるPasaz
ところが、Pasazの会場に入ってみると、そこは正に中規模の本格派ライブハウスでした。中心には四角に囲まれたバーカウンターがあるだけでなく、その裏にも別のバーカウンターがあり、左右には別室のラウンジや遊び場を兼ね備え、地下とは思えないほど、実はかなり大きなライブの箱です。時刻はちょうど夜の11時を回ったところで、会場はざっと見、200名は超える観衆が詰めかけていました。立ち見のステージ前のスペースが、ほぼいっぱいになる程です。これだけのファンが集まるということは、相当な人気を誇る有名バンドに違いなく、期待が高まります。

ステージの横にはDJが卓1台とCD系プレーヤー2台に照明コントローラーを駆使して、パフォーマンス前の前座を仕切っていました。会場をくまなく歩いてはみたものの、どこにもミキサールームらしい場所が見当たりません。かといって、このDJが音響を操作しているようにも見受けられません。込み入った構造の地下ルームであるだけに、どこかに隠れ家のようなPAルームがあるに違いないのですが、ライブハウス全体が暗いために探すのは断念し、バンドの演奏に聞き入ることにしました。

そこで目の当たりにしたのは、これまで見てきたジミ・ヘンドリックス系のバンドとしては、間違いなく過去最高の3ピースバンドでした。とにかくギタリストの歌と演奏がうまい!ジミヘンを彷彿させるのりとテクニックは、まさにトップクラスであり、リズムセクション側の演奏も素晴らしかったです。無論、観衆も、のりのりだし、会場は興奮した熱気に包まれました。超絶ギターテクニックを披露してくれたVoodoo Loveに乾杯!

素晴らしい演奏を見せてくれたVoodoo Love
素晴らしい演奏を見せてくれたVoodoo Love

とは言え、いいことづくめではありません。まず問題は、空気が最悪なことです。テルアビブにある公共施設は屋内禁煙が殆どですが、Pasazは正に別世界です。地下室のため換気がまともに整備されていないだけでなく、大勢がたばこを吸っているという、ここ最近では珍しい風景です。それだけならともかく、中にはマリファナを吸っている客もおり、70年代のアメリカにおけるコンサート会場を思い出しました。そして最悪なことに、ちょっと一息つこうと壁ぎわの椅子に腰かけてしまったのです。何と、そのプラスチック製の椅子の座面には、あろうことかビールがたまっており、ズボンと下着までがあっという間に、びしょびしょになってしまったのです。「参った!」さすがジミヘンのコンサート、感動の演奏にもらしてしまったと言わんばかり、ズボンも臭くなり「滲み変!」ここで眠気も襲ってきたことから、初日は撤退することにしました。それにしても最高のライブと臭いズボンをありがとう!

ミュージシャンのたまり場Zone!

典型的な倉庫型ライブハウスのZONE
典型的な倉庫型ライブハウスのZONE
翌日の夜は、オフィス街地区のZoneへと足を運びました。宿泊しているホテルから、てくてくと歩いておよそ20分。Google mapを見ながら、ピンポイントで場所へ辿り着けるはずなのですが、道路は行き止まりになり、場所がわかりません。その周辺はこれまたグラフィティ、落書きだらけで、アメリカの若いギャング集団がたむろっているちょっと怖い街中が思い起こされます。Pasazと同様、女性一人では怖くて行けない場所だと思いました。そしてきょろきょろと見回すと、壁そのものにZoneと書いてある建物が目に入り、狭い入口を、勇気を振り絞って入ってみると… 中には誰もいないのです!Classic Rockのセッションがあるとホームページに書いてあったことから期待して歩いてきたのですが、がらんどうのライブハウスに辿り着いてしまったようです。

がらんどうのライブハウス
がらんどうのライブハウス
しばらくすると、奥のキッチンの方から若いスタッフが出てきたので聞いてみると、通常は夜の11時くらいからお客さんが来始めるとのこと。また、オーナーも演奏するので、来た人が適当に、セッション感覚で一緒に演奏しているということでした。それにしても11時は遅い!それでは次の店に行けなくなってしまいます。そこでライブは観れずとも、ハウス内をしっかりと見学して、次の店に行くことにしました。

PAエリアも人影のないZONE
PAエリアも人影のないZONE
ライブの箱としては、Zoneは立派です。奥のステージもきちんとできあがっており、照明やミキサー卓もしっかりと設置されています。客席にはベリンガーのEuro8000と呼ばれる大型の卓の上にガラスをはって、それをテーブルにしてみたり、興味深いポスターが壁にたくさん飾られていたりと、随所に面白い工夫が凝らされています。ちなみにロックのセッションはステージでは行わず、客席側のスペースにドラムとアンプを置いて、みんながバンドを囲むように座りながら楽しむということでした。よって、お店の中心にドラムとアンプ、ギターが横たわっていました。音楽好きが集まる、というのもわかる気がします。時間があれば、セッション、見たかったです!!

飛入りOKのMike’s Place

飛び入り何でもOKのMike's Place
飛び入り何でもOKのMike's Place
最後に訪ねたのが、地中海の海岸に面したMike’s Placeと呼ばれるスポーツバーです。奥には小ステージがあり、日曜の夜はアコースティックのセッションということで、楽しみにしていました。蓋をあけてみると、アコギの弾き語りを得意とするミュージシャンが、それぞれマイギターを持ち込み、何曲か披露する、というスタイルのプログラムでした。また、時にはギターを弾かない女性のために、他のプレーヤーがアコギで伴奏を弾いてあげるというシーンもあり、温かな雰囲気に包まれていました。しかし日曜の夜の11時過ぎでもあり、客足は伸びず、なんとなく停滞していたようにも思えたことから、チャンスがあれば自分も弾きがたりで歌ってみたかったが、いやいやここはテルアビブ、「控えよ!」という思いが生じ、何も演奏せず撤退することにしました。

若者で賑わうテルアビブの繁華街
若者で賑わうテルアビブの繁華街
2日間の夜にわたるライブハウスの旅でしたが、テルアビブの音楽シーンを知るという意味において、とても有意義でした。しかも、それらライブハウスの全部を徒歩でマップを見ながら探し歩いたことから、テルアビブ中心地周辺の夜の様子を、多少なりとも知ることができたように思います。テルアビブは若者で賑わう街でした。昼は海岸通りを中心に若い人であふれかえり、夜になると、街中の繁華街が特に若い人でいっぱいになっている場所がいくつも目につきます。海外から大勢のツーリストが訪れる国と場所だけに、国際的な感覚にあふれたテルアビブを通し、昨今のイスラエル風土が少し理解できたとも思えます。音楽の文化は世界共通です。その歴史の流れを再確認することができたテルアビブ・ライブハウスへの旅に、「乾杯!」

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部