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音楽は世につれ、人は音楽につれ
音楽好きの仲間(先輩)たちはどこへ?

近頃電車の中を見渡すと、様子が変わってきているように思います。以前は乗客の多くがスマホでニュースを見たり、アプリのゲームをする人がほとんどでしたが、スマホから音楽を聴いている人も増えているようです。手軽に音楽を楽しめる定額配信サービスが人気で全世界の数千万もの楽曲をいつでも聴くことができる時代です。実にイイ時代です。何がイイって、音楽や情報に満ち溢れているコト自体です。私たちの若い頃、音楽との付き合い方はどんな感じだったでしょうか。(ここからは遠い目…できればご一緒に。)

青春時代に聴いた音魂

今から、35年前。中学生の頃。当時、音楽を楽しむ手段はラジオと、それを記録するカセットテープだけでした。それでも音楽には、泣ける歌詞、魅力的な声、感動的なメロディ、カッコいいリズム、ワクワクする躍動感、衝撃的な表現など、さまざまな要素が詰まっていました。そんな音楽に感受性豊かな若い私は大いに刺激を受けました。中学生~高校生の時に聴いた音楽は、今の自分の糧になっていると言っても過言ではないほど。そのことからも、多感な時期にたくさんの音楽を聴くべきという持論が生まれました。たくさんの音楽を聴いた経験は音楽を楽しむ尺度になり、その尺幅が長ければ長いほど、より幅広い音楽に触れられると思っています。音楽の好き嫌いがなくなっていくということかもしれません。音楽好きの仲間との共通言語も増えていきました。何より仲間や友人が増えました。

当時、私の周りにあった情報収集元は、少ないながらもこんな感じでした。まず、よく聴いたラジオ番組はFM局の「軽音楽をあなたに」「クロスオーバー・イレブン」「サウンドストリート」。どの番組も良質なポップスとロックを流してくれました。そして、TV 番組は「ぎんざNOW!」(確か木曜日が洋楽特集)、千葉テレビの「テレジオ7(司会はユウちゃん!)」も曜日を決めて洋楽を特集していました。「テレジオ7」の始まる5分前には千葉県が誇るロック・ミュージシャンのジャガーさんが番組を持っていました。音楽雑誌は音楽専科、ミュージックライフ。

先輩という音楽情報源登場!

TVにしろ、ラジオにしろ、音楽雑誌にしろ、当然ながらメディアからは一方的に情報が流れるだけです。そんな時に音楽の楽しさをさらに教えてくれたのは、学校の同級生や先輩たち。私の周りには嬉しいことにロック好きの先輩がたくさんいました。10人いれば、文字通り十人十色の好みがあります。レッド・ツェッペリンやディープ・パープルといったハードロックが好きな先輩、クイーン、エアロスミス、キッスといった当時ロック御三家と言われたバンドが好きな先輩、EL&P、イエスやピンク・フロイドといったプログレッシヴ・ロックが好きな先輩、RCサクセションやYMOといった日本のロックが好きな先輩、高中正義やカシオペア、プリズムといったフュージョンが好きな先輩などなど。それぞれ熱く語りながらオススメのアーティストを教えてくれました。手段はレコードの貸し借り、もしくはカセットテープへのダビング。レコードは学生の時分には高価なものだったので、貸してくれる先輩は、ありがたいものでした。先輩の熱い解説付きだし!

素晴らしい音楽と出会う→真似してみたい→楽器を練習→バンドを組んでみたい。趣味は少しずつ立体的になります。楽器をはじめバンドを組む先輩もいました。影響されて私も楽器を始めました。バイトをして楽器を買い、初めて出した音に感動したのを今でも覚えています。

音楽好きの仲間たちはどこへ?

砂浜に併設されているトレーニング施設幸いにも、私は今でもバンド活動を続けていますが、当時一緒に演奏していた先輩、友達のバンド仲間は少しずつ音楽から離れて行きました。就職、結婚、引越し、出産、人生には節目があり、その都度「もう、音楽(バンド)は卒業だよ」という悲しくなるセリフをたくさん聞きました。でも、大人になってから戻ってくる人もいます。CDは昔ほど売れなくなっているようですが、「これは明らかに自分たちの世代に向けたものだ!」というアルバム未収録の音源を集めたアウトテイク集、さらに当時は公開されなかったり、特定の国のみで放送された映像をパッケージにした商品がデラックス盤として再発されていたりします(高価で、完全大人向け商品です)。また書籍も当時のものが復刻されたりしています。楽器もアーティストのシグネチャーモデルが発売され、全盛期のロックをそっくりそのまま再現するトリビュートバンドにも注目が集まっています。昔のバンドキッズに向けて、バンド演奏ができるセッション・バーも増えてきました。確実に昔の音楽が形を変え、リバイバルされています。

ある日、CDショップで偶然、中学時代の先輩と再会しました。先輩は照れつつ「いやぁ、やっぱり昔聴いた音楽は忘れられなくてね~」と言いながら「おまえは何を買ったの?」と私の買い物袋を覗き込みました。「俺はこれ。先輩は?」「お、いいねー。名盤だね。俺は定番のこの2枚だよ。あはは。」「そのCD、先輩に一番はじめに借りたレコードじゃないですか!」「そうだっけ?これ貸したんだ?懐かしいな」その時、2人の間には共通の音楽が流れ、中学生のあの頃にタイムスリップしていました。

(文・なかじまやすお)

なかじまやすお

小学生の時にクイーンのボヘミアン・ラプソディを聴いて洋楽に目覚める。 ほうきをマイクスタンド代わりに物まねをしていた恥ずかしい青春。いまだに ロックを卒業できないことに誇りを持つ。現在、サウンドハウスにて、 音楽コラム「不思議な音楽たまて箱」を連載中。

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