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第3回 走る理由

意志の弱い僕にとって、走り続けることは大変難しく、怠け心の誘惑に負けてしまうこともしばしばです。それでもそんな誘惑を振り切り、僕を走らせる何かが心の中に小さく横たわっています。それは、いつもは心の隅の方でゴロゴロしていて、なかなか起き上がってこないのですが、ふとした瞬間に突然起き上がり、僕に耳打ちをしてくるのです。

「走ることはなんて素晴らしいことだろう。他では味わうことの出来ない、あの充実した時間を共にまた過ごそうじゃないか」と。

僕はその言葉を聞くと、スイッチが入ったかのようにランニングウェアに着替えて、入念にストレッチを始めます。そして玄関のドアを開け、颯爽と外へ飛び出して走り始めます。いざ走り始めると気持ちのいいもので、5キロ、10キロと距離を伸ばし、成田市内を走り回って自分の部屋へ戻ってくるのですが、走り終えると、やはり疲れを感じます。それをわざわざ自分から進んでやっているのだから、何か得られるものがあるのだろうと感じるのですが、今はまだ、それが何なのか分からずにいます。僕にとって走ることで得られるものとは一体何なのか。思い返してみると、なぜ自分が走り続けているのか、その決定的な根拠が見当たりません。あの、時折現れては僕を走らせる何かの正体を探ってみても、どこにもたどり着けずにいるのです。しばらく考えてみたのですが、あまりにも答えが出ず、結局のところ、ただ「認められたい」ということなのではないかと、最近は思うようになりました。何かに挑戦し、それを乗り越え、達成することによって肯定的に認められたい。それには、走ることが自分にとって一番身近で手っ取り早い方法だったということなのだと。

ただ、そのことを認めるのもまた、自分自身なのですが。

(文・及川 謙一)

及川 謙一

及川 謙一

1980年生まれ。高校生の頃から一貫してバイトは飲食系。居酒屋料理から和食、イタリアンまで、料理を作るのも食べるのも好き。これまで3回のフルマラソン完走に成功。趣味は読書と料理とおいしくご飯を食べるためのランニング。

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