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第34回 自分の健康は自分で守る

夏は植物の成長の季節です。とりわけ草本の生育は著しいものです。雨後の筍のように、次から次へと生えて来る。近日茨城の故郷に帰りました。田は青々と稲が風にゆれ、畑にもしなやかな野菜が陽に照らされていました。農家の方々の丹精な働きを感じながら歩みを進めました。

しかし、作物の畝(うね)の間にはやっかいな草が生えています。農家の人達は雑草と呼んで、困り顔をしています。畑には、アカザ、シロザ、カラスビシャク、スベリヒユ、ヒユなどがあります。いずれも生命力の強い草草です。

古来、人は自然現象や動植物の姿や生育状態を通して、その不可思議な力にあやかろうとしました。譬(たと)えば、狼(おおかみ)やライオンの牙を身につけることで、悪霊から守られると考えました。先に挙げた雑草は、実は大変有名な薬草でもあります。ここでは、スベリヒユについて考えてみましょう。

スベリヒユと言っても、ああ、あれか、と思い浮かべる人は少ないかもしれません。でも、これですよ、と指さされれば、多くの人が、ああ、これが、というほど目にしている植物です。畑の日の当るところに自生する一年草で、夏の長い間、雨が降らず、水が涸(か)れても、草全体が多肉質のため、萎えることがありません。繁殖力が強く、地面にはうように伸び、ときには斜めに立つように茎を伸ばします。夏の初めに黄色の小花をつけ、間もなく種をつけます。農家の方がこれを見つけて、憎々しげに引き抜き、畑の片隅に寄せておいても、また地面に根を伸ばすという程に、生命力に溢れている植物なのです。漢方薬としても有効で、馬歯(ばしけん)の名があります。

民間薬としては、この葉と茎を用います。この葉の生汁を毎日2~3回、いぼに、またしらくもに、ハチや毒虫に刺されたとき、局所にこすりつけると大変効果があります。

筆者が六歳のとき戦争が終りました。この前後4~5年は食料不足で、ひもじい思いを体験しました。父は物知りで、この草は食べられる、薬にもなると、山野を歩く折にふれ、教えてくれたことをよく覚えています。まさに医食同源といえましょう。スベリヒユを茄で大層美味しく食べました。先にも述べた、農家の方に茹でて箸を付けて頂くと「へえ、このノンベエ草がネェ」と感心していました。地方によっては、タコグサ、ヨッパライグサなどの名で呼ばれています。茎が赤いのに由来しているようです。

この草の根を除き、水洗いして2~3分間塩茹でします。茹で上ったら水に素早くさらし、水をしぼって、適当に切って、削り節、醤油を加えて食べる。利尿、便秘の良薬でもあります。『漢方医学大辞典(株式会社雄渾出版)』によれば、急性胃腸炎、虫垂炎、乳腺炎、尿路感染症、脚氣、白帯下、便血、痔血、湿疹、ヘルペス等に効く、と詳しく記述があります。

(一本堂横山鍼灸療院長 横山瑞生)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)
  • 1939年、茨城県常陸大宮市生まれ。

大塚敦節氏に漢方を、小川晴通氏に鍼灸を師事し、東京医療専門学校卒業後半年で母校の講師となる。中国医学研究会設立に参画、日中医療普及協会会長、東京都日中友好協会常任理事等、日中の友好関係へ尽力。

現在、一本堂横山鍼灸療院院長、東京医科大学にてホリスティック医学を講義中。「カラー版鍼灸解剖図」「アレルギーはツボで治る」など著書多数。

  • 診療所:東京都新宿区本塩町10 四谷エースビル101
  • お問合せ:03-3359-6693

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