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第58回 自分の健康は自分で守る
薬は毒、毒は薬なり

狂言に「ブス」という演目があります。国語の教科書で読み習いました。歌舞伎座で何度も演じられています。

ブスとは、附子(ブシ)と書き、トリカブトを指します。漢名では、花はなとりかぶと鳥兜または鳥頭(ウズ)といい。花の姿が鶏にわとりの頭にある鶏とさか冠に似ていることから命名されたと言われています。この植物は、その主根や根の脇についている側根を取って乾燥させたものを生薬とし、漢方薬として用います。この生薬は漢方薬の大変重要なものとして処方されます。しかし猛毒なので注意が必要です。

さて、この附子(ブシ)を狂言の演目にしたのが「ブス」です。太郎冠者、次郎冠者に留守を預け、主あるじが外出します。その折「あそこの奥には猛毒の附子(ブシ)があるから、決して近づくな」と言い残して門を出るのです。しかし、主が常に奥に忍んでなにやらしているのを二人は目の当たりにしています。主が姿を消すと、二人は、おそるおそる、近付いてはいけないと言い渡された、奥に入ってしまうのです。その場所に行くと、何とも好い匂いがするではありませんか。そこにあったのは当時としては、大変貴重なもの、砂糖だったのです。狂言の続きは後の号に譲るとして前置きはこの辺で止めておきましょう。

附子(ブシ)にはアルカロイド系のアコニチンという猛毒の成分が含まれています。アコニチンは中枢神経に対して少量でも麻痺作用、大量で興奮作用があります。また、鎮痛作用があり、さらに心臓の収縮力増加と心拍増加を促します。したがって、漢方特有の診断である、陰虚証(インキョシツ)の人には、新陳代謝が期待できます。利尿、熱がないのに悪寒がしたり、関節痛、腹痛、下痢、遺精などの症状に処方されます。

薬方としては、桂枝加附子湯(ケイシカブシトウ)、八味地黄丸(ハチミジオウガン)、桂枝芍薬知母湯(ケイシカシャクヤクチモトウ)、真武湯(シンブトウ)、四逆湯(シギャクトウ)などがあります。先に述べましたように心臓の働きを活発にします。病気やその症状で冷えは血液循環が悪いのが主要な原因です。血液循環を通して、栄養物質、酵素と二酸化炭素、それにホルモンなどの運搬をしているわけです。多くの薬剤は毒であると言われますが、それを少量上手に用いることによって、良好な薬理効果を表わすのです。

附子(ブシ)については以前、簡単に紹介しましたが、ひとつ間違えば死に至る危険なものです。素人が使用することは生命の危険を伴います。くれぐれも、医師や薬剤師の指導・処方の元で用いられるよう特に厳しく申し添えておきます。しかし、知識として覚えておいていただきたいのです。先の症状のとき、医師、薬剤師に相談する際の話題にできればと思い紹介しました。

トリカブト

トリカブト

(一本堂横山鍼灸療院長 横山瑞生)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)
  • 1939年、茨城県常陸大宮市生まれ。

大塚敦節氏に漢方を、小川晴通氏に鍼灸を師事し、東京医療専門学校卒業後半年で母校の講師となる。中国医学研究会設立に参画、日中医療普及協会会長、東京都日中友好協会常任理事等、日中の友好関係へ尽力。

現在、一本堂横山鍼灸療院院長、東京医科大学にてホリスティック医学を講義中。「カラー版鍼灸解剖図」「アレルギーはツボで治る」など著書多数。

  • 診療所:東京都新宿区本塩町10 四谷エースビル101
  • お問合せ:03-3359-6693

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