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第59回 自分の健康は自分で守る
良薬は口に苦し

草根木皮(ソウコンモクヒ)を利用し、上手に疾病やその予防に発展させたものに、漢方薬があります。また、日本独自に発達を遂げたものを民間薬といいます。言うまでもなく、漢方薬の中には、民間薬も含まれています。例えばドクダミの漢名は魚腥草(ギョセイソウ)と書きます。食用にしているウドは独活(ウド)と書きます。

しかし、今回は民間薬として有名なセンブリについて考えてみたいと思います。センブリ(和名)の生薬名は当薬(トウヤク)といいます。センブリは漢字で千振とも表わされます。「千回振り出してもなお苦い」という例えからの命名ですし、当薬とは、「将(まさ)に薬である」という意味で、良く効果があるということに由来します。今、市場に出回っているセンブリの多くは、栽培されたものです。私の故郷は北茨城地方ですが、近くの山に秋の初めに分け入ると、可愛い花をつけたセンブリに出会うことができます。この頃、採取したものが良質なセンブリです。

このセンブリの薬効は、古い時代には専らノミやシラミに対する殺虫剤として用いられていたという記録が残っています。

江戸前期に活躍した儒学者であり、また本草学者としても有名な貝原益軒先生は「糊のりに当薬の煮汁を入れて、それで屏風(ビョウブ)を張れば、虫がわかない」と、彼の著書『大和本草』の中で語っています。一般には『養生訓(ヨウジョウクン)』の著者として世に名が知られています。

さて、本題に入りましょう。センブリはリンドウ科に属します。他に類をみないくらい大変苦いものです。昔から“良薬口に苦し”と言い伝えられていますが、小さな一本のセンブリを茶碗に入れ、熱湯を注いでしばらく経ってから飲んでみましょう。口が曲がり、目を瞬かせる程の形相になるに違いありません。苦味の王と言われる所以(ゆえん)がここにあります。

それほど苦みの強いセンブリですが、苦味健胃剤として用いられます。センブリの苦味は口中にしばらく残ります。しかし、その苦味が舌の先を刺激して、反射的に胃の機能を促すというわけです。服用の方法には、粉末になったもの(薬局で求める)、あるいは、煎じて(前に述べたように熱湯を注いで)その汁を口にしてもよいでしょう。決して多く服用する必要はありません。非常に曖昧(あいまい)な表現で申し訳ありません。

実は、センブリにはもう一つの利用方法があります。刻んだ当薬(センブリ)を10~20gほどホワイトリカーか焼酎に漬け込みます。その器を密閉して冷暗所に保存します。三ヵ月ほど経った後、その汁を掌に取って円形脱毛部分にすり込むようにマッサージを根気良く行います。もちろん、禿(トウ)頭にも応用できます。毛生え薬の一成分としても処方されていることも、書き添えておきましょう。

(一本堂横山鍼灸療院長 横山瑞生)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)
  • 1939年、茨城県常陸大宮市生まれ。

大塚敦節氏に漢方を、小川晴通氏に鍼灸を師事し、東京医療専門学校卒業後半年で母校の講師となる。中国医学研究会設立に参画、日中医療普及協会会長、東京都日中友好協会常任理事等、日中の友好関係へ尽力。

現在、一本堂横山鍼灸療院院長、東京医科大学にてホリスティック医学を講義中。「カラー版鍼灸解剖図」「アレルギーはツボで治る」など著書多数。

  • 診療所:東京都新宿区本塩町10 四谷エースビル101
  • お問合せ:03-3359-6693

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