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おばんざい 第1回

関東地方にお住まいの方に「おばんざい」といっても、あまり馴染みがないかもしれません。おばんざいとは、「お番菜」という字をあてることからも、番茶や番傘などに使われている「番」と同じく、普段使いの質素なものという意味があり、京都町家で日常的に出される家庭のおかず、お惣菜などのことを言うのだそうです。

今回、NHK文化センター青山教室で講師に郷土料理研究家の今井幸代先生をお迎えし、おばんざいを学び、共に味わう講座が開かれました。私も参加することができ、京の食文化の奥深い魅力に触れることができました。今井先生は、アメリカで最も権威のある食物専門誌「SAVEUR」の「世界の食100選」にて「おばんざいの復興に貢献した女性」として日本人で唯一選ばれるなど、多方面で評価されています。

今井先生のおばんざいは、旬の食材を年間通して無駄なくいただく、健康的で倹約された、身体にもお財布にも優しいヘルシーフードなのです。また、フライパン一つで数種類のおかずを素早く作ることが出来るので、とても効率的。京都の人々の知恵と工夫と、家族の健康への気配りが詰まった家庭的で温かな料理でした。

この日の献立は、「茄子とニシンのたいたん」、「茄子ごまあえ」、「じゃこ茄子」、「胡瓜の酢のもの」、「梅干を使った涼やかなデザート」など。20名ほどの参加者が見守る中、今井先生が一つひとつの調理過程を丁寧に語りながら教室は進行していきます。といってもありきたりなお料理教室のように、決められた素材や調味料を、決められた分量だけ用意し、決められた行程通りにただ進めていく、といったものではありません。先生によれば「ここではある程度の分量はお伝えしますが、きっちりと砂糖大さじ一杯、塩小さじ一杯、などというようなことは言いません。あくまであなた方の舌で覚えてください。胡瓜一本、人参一本にしても一つひとつ大きさは違います。またその素材の状態などによっても味は変わるものです。だとしたら、調味料の量もそれに合わせて微調整しなければ味も整わないでしょう」。こう仰って一つの行程が進むごとに参加者全員が、一口ずつ味見をさせてもらいました。今井先生が調理した食材は、素朴な味わいの中にも繊細な旨味を感じることができます。また、梅干のデザートに松の飾りと竹串を添えて松竹梅に見立てるなど、慎ましさの中にも心の豊かな京都人の精神を随所に感じました。

最後に、参加者全員で出来上がったおばんざいをいただき解散となりましたが、料理の味もさることながら、今井先生の心配り、立ち居振る舞いは、傍で見ていて感心させられることばかりでした。

日常の生活の知恵がそのまま文化になり、代々受け継がれていく。しかしそれは京都に限ったことではありません。きっと日本全国、その地域、そして各家庭に根差したおばんざいがあるはずです。私も久しぶりに実家に帰って、母親と一緒 に台所に立ってみようかと思います。そこに我が家のおばんざいを見つけることができるかもしれません。

おばんざい写真

(文・及川謙一)

© 日本シティジャーナル編集部