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セール(帆)

ヨット

ヨットのエンジンはセール(帆)です。青い海と空を背景に真っ白なセールがくっきりと浮かぶ情景を浜辺で見ているとそれだけでも気持ちの良いものです。このセール、よくよく見ると実に奥の深いものです。

ヨットに使用するセールは三角形の形をしたものが一般的です。メインセールと呼ばれるセールの一番上端はマストのてっぺんに、前の辺はマストの溝を通し、下の辺はブームと呼ばれる上下左右に動く棒の間を通してそれぞれロープで引っ張って固定し、動かすことのできる部分を調整して風に合わせます。この調整の仕方をマスターすること=ヨットを操縦できることと言っても過言ではありません。自動車のアクセルを踏めばスピードが出るように、ロープを引っ張ればヨットが走ります。

セールの形状は単に三角形の形をしているだけのようですが、実際は平面ではなく奥行きがある三次元のものです。ちょうど飛行機の翼のような曲面にあわせるとピッタリし、平らな床に置くとセールの真中あたりはだぶつきます。この曲面があることにより風を受けると揚力が発生し、その力を推進力として利用しヨットは風上に向かっても進んでいけるのです。このカーブが深ければパワーが強くなりスピードが出ます。但しカーブが深すぎると風がスムーズに流れず、かえって抵抗となって効率が悪くなります。また風が強い場合はパワーが出すぎて推進力よりもヨットを横に倒す力のほうが強くなりこれまた具合が悪いので、セールのカーブは若干浅いタイプのものが最適となります。カーブのコントロールは走りながらでも可能です。具体的にはカーブを浅くしたいときはセールを固定している両端を強く引き、深くしたいときは緩めてあげればいいわけです。こういった細かい調整をするためのロープがそこかしこについているため、初めてヨットに乗った人はそのロープを引くと何がどうなるのかさっぱりわからず、覚えようとするだけでもヨットは難しいと敬遠してしまう人もいる位です。但し、これはあくまでもセールを最適な形にしようとする場合に使用するもので、ゆっくりと1日海に上で浮かんでさえいれば満足というのんびり派の人にとってはさほど関係ないものではあります。

次に素材。一昔前はいわゆる帆布と呼ばれる厚手の布を使用していましたが、今では全て化学繊維になっています。ポリエステル、ナイロン、ダクロンといった安価なものから素材の開発は年々進み、ケブラー、スペクトラ、テクノーラ、PBO、(私は文科系の人間のためどういうものだか深くは理解していませんが)といった最新技術を利用した、軽くて伸びない、しかも紫外線にも強い丈夫なものが次々と開発されてきました。こういった新素材は必ずしも白い色ではなく、青や黄色、黒い縞々といった具合で遠くから見ても一目でわかります。レースに勝つために真剣な船は競って新しいセールを買い換え、少しでも速くなるよう努力していくわけです。もっともどんな高価な最新鋭のセールを準備したとしてもそれを使いこなすだけの技術が無ければ効果を100%発揮することはできず、宝の持ち腐れとなります。このあたりはゴルフでいえば100を切れない初心者がプロ用のクラブを振り回したり、魚の名前もよくわからない釣り人が釣り竿はカーボンでなければと言っているのと同じです。

新しいセールはパリパリしてきれいなカーブを描き、見ただけでも風がスムーズに流れスピードが出そうな雰囲気が感じられます。ところが使い込んだセールの色はくすみ、ところどころ補修した痕があり、生地は伸びてしまい風を受けるとバタバタはためき、見た目が悪いだけでなく余計な雑音まで発生します。機能だけを考えれば新しいセールが一番ですが、長年使ったセールには何となく愛着を覚え結構使い続けてしまうものです。新婚時代の若い嫁さんと長年一緒に年を重ねた嫁さんとの違いに似たものを感じるのは私だけ?

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部