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シート(ロープ)

ヨット

ヨット教室で船に乗る前に必ず教わることはシート(ロープ)の扱い方です。船の大小にかかわらず必ず覚えておかなければいけないのがシートの整理、結び方、ほどき方です。セールの上げ下げ、出し入れの調整、マストの固定、舵の上げ下ろし、投錨(錨をうつこと)、桟橋への船の固定、ライフライン(命綱)の固定、等ほとんどの事はシートで行います。また、至る所にシートを固定する金具や、シートを巻き取るウインチ、ブロック(滑車)を利用し、小さな力でも利用できる仕組みも装備されています。シートの取り扱いが正しくできないと、帆走中にシートがほどけてセールが落ちてきたり、錨のロープがはずれて係留していた船が漂い始めたりと最悪の場合は生死に関わる重大な事故につながることもあります。逆にシートの取り扱い方をマスターすると実生活でも役に立ちます。古新聞をまとめるとき、運動会の綱引きの後始末、引越し荷物のとりまとめ・・・あれま、あまり日常生活ではロープや紐は使ってないものですね。

基本は、一旦結んだものはほどけにくいが、ほどきたいときは簡単にほどける事、シートを出すときには余計なものが絡んで引っかからないようにする、という2つのポイントに集約されます。そのため結び方も何十種類もあり、結び方だけの本も何冊も出ています。しかし、本当に覚えておく必要があるのは2~3種類です。そのなかでもボーラインノット(もやい結び)と呼ばれるものは基本の中の基本、これさえ覚えておけば取りあえず何とかなります。ちょっと慣れるまでは難しいかもしれませんが、力一杯結んだ後でも反対方向に結び目をずらしていくと簡単にほどけてしまう、不思議な結び方です。普通の固結びをして飛沫を浴び濡れた状態で力がかかり、乾いてくるに従って結び目が固まり最悪の場合はシートを切らなければほどくことができなくなる場合もあります。そんな時でもボーラインノットで結んでおけば確実にほどくことができます。ひっぱる力をうまく利用したこの結び方は、呼び名こそ違うもの全世界共通、ヨーロッパでも中国でもアメリカでも使っています。これぞ人類の知恵といったところでしょうか。

もう一つの重要なことはシートの整理です。全てのシートは必ず引いた余りの部分が甲板の上、足元と至るところにちらかります。そのままにしておくと次にシートが出ていくときに絡まります。自然に絡まったシートをほどくことは、もつれた釣り糸をほぐした経験を持っている人であればどれほど面倒なことか理解してもらえると思います。こんな状況にならないためには、シートを引いたらすぐに片付け、出したら片付けの一言に尽きます。引っ張ったシートを足元に落すその時点で丸く順番に重ねていくだけで問題は解消です。漁師が走っている船から網を投げ入れるときするすると何事もなく網は海へ出て行きますがこれも事前の整理がきちんとできているからです。天気のよい穏やかな天候のときは多少いいかげんにしておいても大した問題にはなりませんが、ひとたび強風が吹き荒れ高波が襲ってきたときに、シート整理がされていないために帆を降ろすことができず転覆してしまう事もたまに聞く話です。一度でもこういう散々な経験をした人は片付けの重要性を体で覚えることができます。

目を閉じて、もやい結びができ、話をしながらでもシートの整理ができるようになればヨット乗りとしても一人前です。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部