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花火

ヨット

夏の風物詩と言えば花火。毎年、様々な形を夜空に描く新作が出ていますが、花火大会での一番の特等席は何と言っても水上からの眺めです。隅田川や東京湾の花火大会には実に数多くの屋形船が繰り出します。潮風にあたりながら水面に映る光を眺めつつ、持参の料理を食べて一杯酌み交わすことは最高の贅沢です。陸上とは違って船の上からの見物は場所取りの心配もなく、前に立ちふさがる人もなく、海岸で良い場所を確保したのに開始直前に満ち潮で移動を余儀なくさせられることもなく、ゆっくりと花火を楽しめます。と、ここまでは良い部分ですが、実際は船からの見物もなかなか大変です。まず、当たり前のことですが花火大会は夜、行われます。夜の海は陸から見るとロマンチックですが、特に花火大会を行う近辺の海上はブイや網等いろいろな障害物があり、昼間は一目でわかるものでも夜はその姿を隠してしまうため、見落としてぶつかったり引っかかったりします。昼間に何回も訪れたことのある場所であっても夜では勝手が違います。まして、初めて訪れる所ではそれこそ手探り状態となり、ついつい地元とおぼしき船の後をついていくこととなります。

見物場所に到着した後、錨を降ろして停泊しますが、風の向きや潮の流れによって船は右へ左へと向きを変えます。単に向きが変わるだけであれば、花火が真正面に見える特等席から、振り返らないと見えない末席になる程度(花火見物では一番大事なことかもしれませんが)です。ところが、いつもと違い通常の100倍の数のヨット、釣り舟、観光船、屋形船等が一同に集まっているところでは、向きを変えるたびに隣の船とぶつかりそうになったり、錨のロープをまたいでしまいそうになるので、ロープを伸ばたり詰めたり、隣の船を押し出したりと、その都度花火見物は中断です。また、広く見えるデッキの上も花火見物のときはお客さんも多くて手狭になり、一度座る場所を決めるとなかなか移動できずに、飲み物1つ取り出すにもバケツリレーのように人から人へ手渡しです。一番の悲劇は船内でいつの間にか給仕、料理、皿洗いの担当になってしまった場合です。皆の歓声を聞いて船内から顔を出しても花火の一番の見所は消えてしまい、煙だけを見る破目となってしまいます。新入りメンバーはまずここからスタートするので、次回は何も知らないメンバーを連れて、今度こそ自分はいい思いをしようと決意を新たにします。

なんだかんだと盛り上がった花火大会もあっという間に終了です。開始前は三々五々集合するのでそれほど混乱はありませんが、終了後は船が一斉に母港めがけて移動を開始する為、海上は大混乱となります。特に煌煌と明かりをつけた観光船が通り過ぎた後ろの真っ暗闇のところに別の船がいたりするため、要注意です。このような場合は、海上法規に定められたルールはあるものの、むしろ瞬間の判断力が要求されるところです。ひとしきり混乱が収まるとひたすら母港目指して夜の海を進みます。花火大会は日曜に開催されることも多く、どんなに遅くなろうとも港に戻り後片付けをし、家に帰らなければいけない場合がほとんどです。

多少の苦労はありますが、花火大会の魅力は何回見ても捨てがたいものがあります。間近での見物も迫力がありますがナイトセーリングをする途中、遠くの海岸で忘れたころにポツリポツリとあがる小さな花火大会もなかなか風情があります。夏の夜風にあたりながら今年の花火の新作を見つけに行きましょう。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部