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1人、2人、大勢?

ヨット

ヨット乗りにも様々な人種がいます。純粋にスポーツとしてレースに勝つことを目的としたレース派、単独世界一周の冒険航海派、たまの休みに、とにかく海へ出られれば満足というレジャー派。いずれの場合でも、1人で楽しむシングルハンド派、2人で楽しむダブルハンド派、大勢で参加するグループ派と参加人数でも特徴が出ます。

ヨットは一度乗ってしまうとその狭い空間が唯一の行動範囲となります。どんなに仲のいい仲間でも、1日2日ならともかく、1週間、1ヶ月と生活を共にしているとお互いの欠点が目に付き始めます。ほんの些細な事、例えば私物を出したら片付けない、決められた交替時間にちょっと遅れた、分配された食事をいつも少しずつ多く取ってしまう、といった本当にどうでもいいことが原因で、口も聞きたくないという状態になってしまいます(結婚生活1年以上の夫婦であればどなたも経験があるでしょう)。昔の航海時代から長い航海中に、乗組員同士の喧嘩から殺し合いになったり、寄港地で乗組員が全員いなくなったり、船長がどこかへ行ってしまったりという事態は数多く発生しています。せっかくの船旅も一旦人間関係がこじれると大海原の上では逃げ場も無く、最悪の状態のまま毎日を過ごすこととなります。

そんな思いをしたくないという人は1人で航海することとなります。長期間の単独航海を可能とする装置は数多くあり、風の向きにあわせて自動操縦してくれるので寝ながらの航海も可能ですが、嵐の真っ只中、珊瑚礁や浅瀬の多い場所や本線航路近くでは不眠不休で操船しなければなりません。また、単独航海での心配事は怪我、病気、落水です。怪我は自分で治療し回復するのを待つだけです。自分で怪我した部分を縫うという信じられないことをする人もいます。こういう人たちにとっては脚や腕の1本が折れたぐらいは怪我のうちには入らず、ちょっと熱が出たからと会社や学校を休むなど考えられないことです。

しかし、自分ではどうにもできないのが落水(=船から落ちてしまうこと)です。外洋で落水するとほとんどの場合死につながります。まして単独航海の場合は自分の船に戻ることは100%不可能、ひたすら救助を待つだけですが、救助される見込みはまずありません。そこで体にハーネスと呼ばれるものを着け、繋がれた犬同様船の一部にしっかりとロープで固定して、もしもの場合に備えます。そこまでして1人で航海したいのかと思われるでしょうが、何事も思い込んだら最後までやらなければ気が済まない性格の人(特に海や山に1人で行きたがる人にこの傾向は強い)は各種装備を準備し、勇んで海に出て行くのです。

本当に孤独を愛する人以外は仲間との航海を楽しめれば良いと思います。理想は何十年も連れ添ってお互いの長所短所を知り尽くした老夫婦が時間の制約も無く南太平洋の島々をゆっくりと巡るクルージングです。究極のヨットライフはこれに尽きると言っても過言ではないでしょう。実現するためには体力、気力、もちろん経済力もなくてはならない条件です。夢の実現に向けて一生懸命働き続け、ようやく時間もお金も自由になる頃に最後の問題。一緒に航海に出るはずの奥さんはヨットに理解が無く、さりとて今さら付き合ってくれる物分りのいい女性が出てくるわけも無く、仕方が無いので1人で航海に出る。そんな人も世の中には数多くいるようです。さて、私の場合はどうなることやら…

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部