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風を感じる

ヨット

ヨットは幼稚園からお年寄りまで老若男女が楽しめます。また、最近では視覚障害者や身体障害者のためのレースも開催され、誰でも楽しむことが出来るスポーツとしても知られるようになりました。実際ヨットの操船をする場合、目で風見を見て舵をコントロールしますが、肌で感じる風の強さ、船の傾き、舵から伝わる感触、セールをコントロールするロープから伝わる風の力、波の音、等からも船の状態を把握することができます。練習では周囲に障害物が無いことを確認して目を閉じての操船も行います。最初は思ったようには進みませんが、熟練してくるとかなりの精度で船を真っ直ぐに走らせることができます。

一人乗りでは船を走らせると同時に周りの状況も確認し、次のマークも探し、と自分の船のことだけを見ていれば良い訳ではありません。周囲を見ながらでも船をまっすぐ進めることができなければいけないのです。目を閉じてほおに感じる風だけをたよりに船を走らせている感覚は、普段とはまた違った世界です。実際に街中で目を閉じて風がどちらから吹いているのか確認してみてください。風のひんやりとした感触を右の頬か左の頬か、額に感じるか首筋に感じるか、ちょっとした風向きの違いを十分判断することができます。風向きなど普段は気にもしないことですが、このときばかりは全身が風を感じるセンサーとなっていくのがよくわかります。この状態はなかなか新鮮な気分に浸れます。尤も、波の場合はそれどころではありません。次に来る波が大きいか小さいか正面から来るのか多少斜めから来るのかは、目で見て確かめるしか術がありません。そのため視覚障害者のレースは操縦するのは目が見えない人であっても必ずそれを補佐するクルーが乗り込み、絶えず周囲の状況を報告します。マラソンでたすきをもって一緒に走るのと同じことですね。

数名が乗れるクルーザーでは実際の操船にはかかわらず、お客さんとして乗るだけでも大歓迎です。デッキから船の外側に向って座ると足の下は海、最初は海に吸い込まれるような感覚もありちょっと恐怖も感じてしまいますが、だんだんと慣れてくるに従って流れる波の上から遠くの景色を楽しめるようになります。また、波の加減によっては足先が海に洗われ、これまた気持ちのいい瞬間です。最初は風が強いか弱いかくらいしかわかりませんが、船の進む方向によって同じ風力でも感じる風の強さが違うことに気がついたり、風も必ずしも一定には吹かず、多少強くなったり弱くなったりすることもだんだんとわかってきます。風の強さと船の傾き具合も関連していることが実感としてわかるようにもなります。また、さえぎるものが何も無い海の上では空の広さを実感できます。雲の陰に入り陽射しが弱くなることも、雨雲が近づき100m先で雨が降り始めていることも一目瞭然です。

このように本当の自然を身近に感じる事は通常の生活ではなかなかできませんが、一日海の上にいると、ちょっと大げさですが、野生に戻り動物としての本能が目覚めてくる感じです。眠っていた五感が活動をはじめ、食欲不振の人は食欲旺盛に、不眠の人も必ず疲れてよく眠れ、二日酔いの人も迎え酒で絶好調、仕事の悩みも家庭の悩みも全てリフレッシュして心身ともに良い状態に戻してくれること間違い無しです。ちなみに私は半年も海に出ないと禁断症状がでて体調を崩してしまいます。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部