日本シティジャーナルロゴ

船酔い

ヨット

初めてヨットに乗ることになった人が一番心配するのが船酔いです。揺れる船に乗ることを考えただけで既に半分船酔い状態になり、実際に船に乗る前、ヨットが係留してある浮き桟橋に乗り移った時点でギブアップしてしまう人もいるくらいです。実際のところヨットといっても一人乗りからクルーザーまであり、それぞれ揺れ方や、乗り心地も千差万別です。一般的には小さいヨットほど揺れも激しく、全長が長くなるに連れ船は安定しますが揺れの周期が大きくなります。どちらかというと、この大きな周期の揺れの方が船酔いしやすくなります。公園の手漕ぎボートで船酔いする人はほとんどいませんが、大型フェリーでは大半の人がぐったりと横になっています。

実際私も二人乗りのヨットに乗っていて船酔いをしたことは一度もありませんが、東海汽船のちょっと大きい船で伊豆七島へ行った時はずっと横たわっていました。厳密には小さなヨットでも一度船酔いしましたが、このときは船酔いだか二日酔いだか区別がつかない状態であった為、無しということにしてあります。

船酔いの原因は精神的な側面が大きく、同じ揺れ方でも何もせずにただ外の景色を眺めながら乗っているのと、舵を握って絶えず波や帆の状態をチェックしながら乗っているのでは全く状態が違ってきます。神経が他のことに集中していると、船酔いをしている暇もなく極めて快調な状態を維持できます。ただし、もつれた釣り糸をほぐしたり船内で読書したりといった、神経は集中するものの下を向いての作業は逆効果となるので要注意です。逆に船酔いしやすい状態というのは、寝不足、空腹、疲労時などです。体力的に万全でないと肉体的にも精神的にも参ってしまいやすく、この状態にもう1つの重要な要素の「臭い」が加わると決定的です。船底に漏れた油の臭い、昨晩飲み残した焼酎の臭い、さっき釣った魚の生ぐさい臭い、ポテトチップの臭いなどがきっかけで船酔いとなるケースも多くあります。

一旦船酔い状態になるとヨットは地獄です。海の上では途中で降りるわけにもいかず、外洋に出ている場合はひたすら回復するまで我慢するしかありません。苦しんで苦しんで、もう永久にこの状態は回復しないのではないかとすら思えるほどの長い時間を過ぎると、突然船酔いは解消します。その瞬間はまるで霧が晴れるようにやってきます。二日酔いが覚めていく時と似た状態ですが、違うところは船酔いの場合はいつ覚めるか全く予想がつかないことです。一旦回復すると、つい先ほどまでのた打ち回っていたことが嘘のように飲んだり食べたりできます。

また、丸1日以上船に乗り続けると体が揺れになじんでしまい、船の上では全く問題なかったのに、家に帰って揺れないはずの寝床に横たわった瞬間、船の上で揺れているのと同じ感覚に襲われることもあります。最近では酔い止めの薬も市販され、乗る前に飲んでおけば船酔いを心配することなくヨットを楽しめます。船酔いも含めてヨットや海を楽しむ位の余裕があれば一番良いのですが、こんなことを言っていられるのは陸の上にいるときだけ。私も船酔いになったときはもう二度とヨットなんか乗るものかと思いましたが、船酔いから覚めた瞬間にさっきまでの苦しみは忘れてしまいます。二日酔いで一日中苦しんでいたのに夜になるとつい一杯飲んでしまうのと同じですね。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部