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滑車(ブロック)

ヨット

ヨットには様々な部品が付いていますが、その中でも普段の生活ではあまり使わないもののヨットでこの部品がないことは考えられない程重要なものがあります。それは滑車、通常はブロック(block)と呼ばれているものです。日本でも釣瓶(つるべ)と呼ばれるものが井戸の上で活躍していましたが、要はこれの小さなものです。ブロックは必ずロープとの組み合わせで使います。例えば一番重要な帆を上げ下げするためにはマストのてっぺんに一つ、マストの根元に一つ、手元に持ってくるために一つと、計3個のブロックにロープを通します。国旗掲揚のときに、ポールの根元で君が代にあわせてロープを引くとスルスルと日の丸が揚がりますが、あれもてっぺんにはブロックが1個付いています。このように自分から遠い場所にあるものをコントロールする場合や、力が入りやすいようにするために方向を変える場合などに使います。

また、このブロックを複数組み合わせて使うことにより、少しの力で大きなパワーを出すこともできます。学校で必ず1回は習ったことのある滑車の問題を思い出してください。ロープを引く側の距離が2倍になると10kgのものを持ち上げるのに5kgの力で済むというあの問題です。ヨットのセールには想像以上の力が加わり、二人乗りのディンギーですら、メインセールをコントロールするためにはこのブロックを3~4個組み合わせたシステムを使います。ブロックを増やせばそれだけ楽にはなりますが、多すぎると引っ張る長さが増えこんどは俊敏な対応が取れなくなってしまいます。トップレーサーはひたすら体を鍛え、普通の人が4個のブロックを使用するのであれば3個に減らすという努力をしています。このブロックを組み合わせるとき、ロープの通し方、ブロックの取り付け方は慣れないうちは大変難しいものです。特にセールを張る前は平面上でセッティングしますが、セールを揚げるとその瞬間立体的になり、セッティングの方法を間違えるとロープがからまり、簡単に引けるはずがいくら引いても1cmも動かないといった、とんでもないことも発生します。荒れた海の上でこんなことが発覚すると大変です。ただでさえ大荒れで、船を操るだけでも大変なところを、一旦通したロープを抜き取り、方向を変えて通し直して…、と揺れる船上で最初からやり直すわけです。はずしたブロックを海に落として部費からお金が出ず、泣く泣く自分の小遣いを出して購入することになったりするのはこんなときです。

ブロックの配置やロープの組み合わせには、基本的な方法はありますが、乗り手によって各種の工夫をしています。最も凝っているしかけは何といっても単独で世界1週レースに出る船です。舵をとる場所に何十本というロープがブロックによって導かれ、あらゆるコントロールが手元でできる仕組みとなっています。長年ヨットに乗っていても、何の為の仕掛けなのか写真を見ただけではさっぱりわからないものも多々あります。私自身はあまり凝ったものは自分でもよくわからなくなってしまうので、Simple is the bestということであまりお金をかけず、極力仕掛けを少なくする方向で考えてしまいます。道具や装備に凝るのも楽しみの一つですが、風を受け、波をかぶるあの瞬間があれば満足してしまう私にとっては、とりあえずまともに帆走できる船に乗れさえすればいいのです。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部