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銭湯

ヨット

一日海でセーリングを楽しんだ後、真っ先にしたいことの一つが水をかぶることです。潮風を浴び、顔中シオシオ、日に焼けて肌はひりひりの状態で何はともあれ頭から水をかぶり、固まった潮を洗い流さないことにはすっきりしません。どこのヨットハーバーにも必ずシャワーはあり、通常はそのシャワー室を利用しますが、夏の暑い時期はヨットの掃除をするホースの水をかぶってヨットも体も一緒にきれいにしてしまうのもいい気持ちです。

ヨットハーバーのような施設であれば問題ありませんが、クルージングで訪れる漁港には通常シャワーなどなく、漁協のおじさんに断わって魚市場の片隅の水道を使わせてもらうこととなりますが、あくまでもよそ者のため、水をかぶるのではなく、最低限の飲料水を補給するだけです。そんなときお世話になるのが銭湯です。初めて訪れる港では、先に入港していたヨットへの挨拶は“どちらから来ましたか”“吹かれましたか”というお決まりのフレーズのあとに必ず “銭湯はどこにありました?”と訊くことが“安くておいしいお店ありました?”と訊くのと同じぐらい一般的です。全国津々浦々、一昔前までは必ず何軒かの銭湯があり、いまでもひっそりと営業しているところもあります。さびれた町の路地を入ったところに看板も無く地元の人しか知らない銭湯はあります。残念ながら年々その数は減ってきているため、数年前に訪れてここは勝手知ったるところなのでと、手ぬぐいと小銭を持ってメンバー一堂ぞろぞろと銭湯を目指していくと、既に営業はしておらずもう一度港に戻って探しなおしということも増えてきました。

銭湯がない場合は、温泉旅館や民宿のお風呂だけを利用させてもらうこともあります。クルージングで目的地に到着すると、ほとんどの場合、船に残って片付けと料理の準備をする組と、現地調査と称して買出しと穴場探しに町にでかける組とにわかれて行動します。いかに安くて快適な風呂を近くにみつけることができるかというのも、クルージングのイベントの中では重要なことです。もっとも薄汚れたTシャツ姿で、無精ひげをはやして真っ黒に日焼けし、近くによるとちょっと臭いおじさん達が一流温泉旅館を訪れて「日帰り風呂だけ利用できますか?」と伺ってもフロントで断わられる可能性が高いため、最近では先に電話で「何時から6人OKですか?」と確認をとってから乗り込む方式をもっぱら採用しています。

港を見下ろす小高い斜面にたつ温泉の露天風呂、眼下に自分達の乗っていたヨットが停泊する小さな港、その向こう側には波と風と格闘しながら今日一日を過ごし日暮れとともに穏やかに表情を変えていく大海原、その水平線にとっぷりと沈む夕陽を見ながらゆっくりとお湯につかり静かに一日の疲れを癒す。そんな理想的な場所を捜し求めて、毎年色々な場所にでかけています。もっとも、風呂を出て「まずは一杯」とビールを飲んでしまうとただのおじさんの宴会モードに突入してしまうのも毎度のことで、場所が変わっただけで普段街の居酒屋で飲んだくれているのとちっとも変わらないというのも、よくよく考えるとさびしい話ではあるかなとちょっと反省。大和の湯のような日帰り温泉がヨットの停泊できる港にあればいいと思っているのは私だけではないはずです。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部