日本シティジャーナルロゴ

港めぐり(三崎港)

三崎港

太平洋に面する丘の上には風力発電の風車が並び、城ヶ島の裏側は自然の岩肌に打ち付ける波が白く砕け、海は潮の流れにさらされているため東京湾側とは明らかに違う色を見せています。遠くからでも一目でわかる城ヶ島へかかる橋を目指し港に近づくと、漁船や水産高校の練習船、城ヶ島めぐりの観光船、ダイバーを多数のせ沖合いのポイントを目指しているモーターボートなど、行き来する船も次第に増えてきます。港の入り口の防波堤を入るとそこは三崎港の一部です。

三浦半島の南端、城ヶ島の向いにある三崎港はまぐろの水揚げ港として古くから知られています。地形としては、ヨットの本場である油壷のように入り江になっているわけではありませんが、城ヶ島が自然の防波堤となり、南風でも北風でも風をさえぎり、外海がどんなに時化ていようと港内はいつも波ひとつなくおだやかな良港です。もっともヨット用のハーバーがあるところは海面下の状況を熟知していないと岩に乗り上げてしまうほど暗礁だらけで、必ずしもヨットにやさしい港ではありませんでした。

焼津等他の港でのまぐろの水揚げ高が増えて三崎港を利用する漁船が少なくなったこともあり、数年前より魚市場前にはヨットやモーターボートも停泊できるようになりました。とはいえ、最初の頃は周囲に何も無く、魚市場の脇にただ停泊できるだけの味も素っ気もない状態でした。魚市場は桟橋で釣りを楽しむ人がちらほらいるだけで人気も無く、ちょっと薄暗くなってくると少し不気味な雰囲気すら感じさせるところでした。(人気の無い夜の港はどこでも、不気味なさびしいところですが)。

この、利用頻度が減ってきた市場の一角は、三崎が市をあげて観光に力を入れ、神奈川県と三浦市及び民間が設立した、三崎フィッシャリーナ・ウォーフ“うらり”として小売店が多数店を並べる港の観光スポットに生まれ変わりました。この“うらり”では海産物や地元の野菜を中心に安くておいしいものが多数販売されています。店の前には海に向ってベンチが並び、三崎の名物のまぐろ饅頭(「とろまんじゅう」とも呼ばれ、肉まんの肉の替わりにまぐろが入っているお饅頭です。結構おいしいです。)を食べながら出入りする舟を眺めることもできます。また桟橋も、漁船用の剥き出しのコンクリート製から、木製デッキとタイル張りのきれいな桟橋になり、船を舫うビット(もやい綱をしばる杭のこと)の数も増えました。桟橋に停泊する船を見物しながら散歩するだけでも、ちょっとおしゃれな気分を感じさせます。ヨットで訪れ、産直センターでお店の人と話しながらお買い得のお刺身を購入し、船に戻って食べても良し、町中に数多くあるまぐろの専門店に足をのばしてみるのも良し、と今や三崎港はホームポート浦賀からの日帰りクルージング圏内では有数のポイントとなっています。車や電車で訪れる観光客も増え、港の一角は日曜となれば人が集い、きれいになった港には近郊からのヨットも集り、おいしいものを食べながら楽しく話し、おなかが一杯になると陽をあびながらデッキで昼寝。生まれ変わった港は町の風景を一変させると同時に訪れる人の気持ちを和ませてくれます。ちょっとした整備をすることで港の風景が変り、人の流れも変りました。こんな場所が日本中に増えるとうれしいと思うのはヨット乗りだけではないはずです。何はともあれ、まぐろ目指して三崎へ行こーっと。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部