成田空港の未来図を描く為の改革案!
北総全体を捉えたビジネスモデルの構築が不可欠!!
国内線ターミナルでの驚異の体験談!
1月12日、子供を連れて大阪に出張することになりました。第2滑走路の完成と共に国内便が増設されたと聞き以前よりは少し便利になったはず、と考えながら伊丹空港への便を調べて見ると、JALもANAも毎日各1便しかないという寂しさにちょっと落胆。それでも新幹線を使って東京経由で行くよりはずっと楽ということで、飛行機会社のスケジュールに合わせる形で時間を調整し、ANA3111便を選択。世界中を仕事で旅しながら各国のメジャーな空港で航空会社のラウンジからレストラン、ショッピングモール等あらゆる施設をふんだんに使いこなしてきた経歴を持つ旅のエキスパートと自負していますが、国内に限っては殆ど飛行機に乗ることが無いために期待に胸が弾みました。当日第2ターミナルに車を止めて2階に到着。国内線のターミナルは向かって右側の奥にあるようなので端まで歩くと、1階に行く旨の標識を発見。「あれ?1階は到着ロビーでは?」と思いつつ下へ降りると、エスカレーターの更に奥にこぢんまりとした国内線のチェックイン・カウンターを発見。そのあまりの狭さに驚嘆すると同時に、そこに人の列がずらっと並んでいるのを見て「発展途上国の空港よりひどい!」と正直思ってしまいました。とてもではないが日本の国内主要都市への玄関とは思えない貧弱な空港という印象しか持てない最低レベルの設計を目の当たりにした後、更に驚くことが待ち構えていたのです。
既に3時を過ぎており、まだ昼食を食べていなかったため子供が「お腹がすいた…」と言い始めました。搭乗ゲートへ行く途中に軽食レストラン位あるだろうと安易に考えて進んだのですが、どうも国内線のターミナルはチェックインした後ゲートまでの間レストランが存在しないようです。唯一発見出来たのが階段横の小さい土産やさんの中にある立ち食いそば屋!当然座るところも無く「これはひどい、外人だったらどうすればよいのだろう?」と多少の怒りを覚えつつも仕方なく天ぷらそばを購入し、6歳の子供と階段横の床に座って食べました。その直後、快適な空の旅を期待しつつANA便に乗ったのですが、この飛行機が何とボンバルビア製50人乗りの小型航空機で、座席も窮屈極まりなく、しかも満席。777並みの機内装備を期待していたのですが、こんな飛行機が成田と大阪を日々行き来しているのかと思うと、ますます成田空港の将来を不安に思ってしまいました。成田の国内線ターミナルは死角のような存在かも知れませんが、このような普段目につかない部分が成田国際空港の実態を理解するのに一番大切なバロメーターとなります。
成田空港が抱える問題は民営化で解決できるか?
ここ最近成田空港の民営化について活発な議論が交わされています。小川市長の年頭所感の筆頭にも成田空港の完全化と民営化が挙げられており、日本の玄関及び国際空港としてふさわしい空港機能拡大の重要性が謳われています。また空港公団総裁の黒野氏も「民営化で経営の自由度を高めることが成田の国際競争力向上につながる」と語られています。確かに一般論としては民営化によって主体性・自主性がより強くなり、その結果きちんと利潤を得るためのビジネスモデルの構築が速やかに推進され、経費の削減及び事業の展開がしやすくなります。しかし成田空港の問題は複雑で、特に前述した空港機能の位置付けに関わる将来のビジョンが定まっていないのです。簡単に言えば誰も何をして良いかわからないという迷想状態に陥っているようです。黒野総裁でさえ様々な非航空系の事業を展開することによって収入の拡大を目指すことを考えておられるようですが、具体案の提示はありません。現実問題として空港周辺の各種民間企業が厳しい状況下にあるのですから、ディズニーランドの入場者数を上回る年間3千万人の乗降客がある成田空港でも、その通りすがりの旅行客のニーズをつかんで付加価値の高い新規事業を興していくことは容易ではありません。世界的に評価の高い空港を見聞して自ら使いこなし、そのデザインとテーマを研究しながら成田独自のスタイルを描いていくことが課題ですが、ワールドクラスの空港を使い慣れてない人達がその限られた経験則のみから成田空港の今後を語っても良い結果はなかなか生まれないでしょう。世界の空港を見ながら成田空港を考えるときに思うことは正に根こそぎの改革しかありません。
世界に通用する国際空港その条件とは?
成田国際空港が世界トップクラスの空港として認知されるためには最低限以下の3項目に留意しなければなりません。
1)利便性:
国際空港として一番大事なことは利便性であり、如何にしてより早くより快適に旅のお手伝いができるか、ということに尽きます。国際空港の大型化に伴いここ最近新規に構築された国際空港は都市部から離れることが多々あります。韓国のインチョン国際空港などが良い例です。しかしながら頻繁に世界を旅して思うことですが、上海のプドン空港位が常識的に考えて我慢の限度です。すなわち車で都心部に30~40分で着くことができ、タクシー代も5千円以内に納まる距離であるということです。この点で創業当初より成田は大きなハンディを背負っています。都心部まで1時間半以上かかるという例は世界でも稀です。
ニューヨーク周辺には3つの空港があります。JFK(ケネディー)、ニューワークとラガーディアです。どの空港からも自動車で30分以内にNYの中心部に行けるだけでなく、国際空港として著名なJFK空港でさえも国内線が頻繁に離発着しているため不便を感じません。ところが東京には成田しか国際空港がなくそこから国内線へのアクセスがほぼ皆無に等しいため、移動に大変不便です。事実第2滑走路ができても成田からは札幌、名古屋、大阪、福岡に毎日1~2便しか飛んでおらず、他の都市への移動は電車を使うか一旦羽田空港まで移動することを旅客は強いられています。成田空港が生き延びるためには国内線ターミナルの増築と共にそれに伴う第3滑走路の整備が急務です。無論その前提として航空会社が健全な経営状態にあり、民間企業としてこぞって参入したいと願うような需要が喚起されることが大事です。
2)美観性:
空港のイメージを高揚させるためには、アプローチを美しくすることに尽きます。すなわち空港に訪れる人に良い印象を与えることが不可欠です。車で空港に近づくにつれ視界が広がり建物がぽっくり浮かび上がって見えてくる。「あ、あそこが空港か!」と判れば最高です。一本道のきれいな花に囲まれた街道をまっすぐ走ると空港が見えてくるシンガポールのチャンギ空港、海沿いを走るうちにその巨大な構築物が見えてくる香港国際空港、草原を走り抜けると突如としてモダンな正体を現すフランクフルト空港など、どれも空港へのアプローチが大変気持ち良くデザインされています。成田空港の弱点は、とにかく道路からのアプローチに全くと言っていいほど開放感が無い事です。高速道路を使うと、トンネルをくぐればすぐに検問となってしまいますし、下の道を通れば視界の悪い片側2車線の道路しかありません。少なくとも世界で一番治安が良いと言われている日本なのですから見せかけの検問は意味はないでしょう。イメージダウン以外の何物でもありません。
また建物の外観に関しては、第一と第二ターミナルのデザインに全く共通性が無く、距離もかなり離れているために一体感がありません。第一ターミナルの元々の設計においては建物がぐるっと回り込む形で鋭角な角度をつけすぎてしまったため、どういじっても拡張性に乏しくオープン感のイメージを創り出せない問題が付きまといます。だからバスや車の流れがどうしてもつまり気味になってしまい、いつ見ても狭いという印象を払拭できません。その点、同様の問題を抱えていたロスアンジェルス空港はオリンピックが開催される直前、大変上手に変貌を遂げました。元からコの字型で1階部分しか無かった建物をそっくり2階建てにすると同時に、道路からのアクセスを2階部分も1階と同等に最低5車線確保し、尚且つコの字の中央部分に立体駐車場を作り、どこからも簡単に駐車場に入れるようにしたのです。また長期に停める場合には隣接地に巨大な駐車場があり、送り迎えは無料なため大変便利です。
3)複合性:
国際空港としての利便性を高めるためには、特殊な相乗効果を狙った24時間営業の複合施設として空港を理解しなければなりません。アメリカの諸空港で関心するのは空港内のテナントミックスが良く考えられていることです。飲食店街はハンバーガーやコーヒーショップ、ステーキハウス、果ては本格的なバーまで多種店舗が大型テレビ付で揃っていれば待ち時間も楽しいものです。成田空港は食事に関して多種類の選択肢があるのは良いのですが、そこでくつろいで時間を過ごす、というものではありません。或いはアジア各地の空港のように床屋やビューティー・エステサロン、マッサージ室があると更に旅が楽しくなります。また空港内に豪華な宿泊施設や子供用のプレールームを提供する空港もここ最近多くなってきました。旅行者が空港で如何にくつろぎ楽しく時間を過ごすことができるかという点で様々な工夫がなされているのです。
山を動かす思いで改革を決行できるか!
成田の課題は山積みです。ロケーションと概観・美観に関しては物理的制限があり、改良の余地があまりありません。成田の場合はむしろ、通り過ぎる街ではなく「日本の玄関」であると同時に素晴らしいアトラクションに満ちた北総の中心的ハブとしての位置付けになるよう、市や県と協力して空港の周辺環境を整え、近隣の市町村とともに大胆な北総の改造を実行することが最優先の課題といえます。そこで思い切って全く別の次元から新しいビジョンを提示してみましょう。
1) 北総周辺を国内最大のアトラクションと位置付け、その中心となる成田空港を海外への乗り継ぎだけでなくツーリストの目的地として捉え、その為に国内線ターミナルと第3滑走路を建設して航空会社の参入を助長しながら主要都市全てを航空路線で結ぶ。
2) 空港街道を6車線化して印旛沼から九十九里まで1本で行き来できるハイウェイを建設し、国内最大の開発規模をもって、印旛沼にはウォーターフロント・リゾートを、九十九里には世界に通用するハイクラスなオーシャンフロント・リゾートを造成すべくインフラを早急に整備し、企業を誘致して土地の有効利用を促進する。
3) 市と県、国まで巻き込む巨大開発計画を早急に実行段階に移すべく、積極的に市町村の合併を推進して行政の統制をとりやすくし、各種条例の改定を迅速に行う。
4) 成田山新勝寺を日本人の魂のふるさととしてプロモートし、全国民が何ら抵抗無く成田山に訪れることができるように徹底した宗教改革を行って頂き、成田を万人が集う信迎の街とする。
成田空港の将来は山を動かす程の信心にかかっています。
(文・中島尚彦)