市町村合併の未来図に今一度、注目!
厳しい現実の中で成田のリーダーシップが今、求められている!!
昨年11月18日、国の指導の元に千葉県からの呼びかけで成田周辺の首長が集まり、その場で2市8町1村の合併を検討する為の協議会の設立を前小川市長が決断しました。平成17年3月31日合併特例法が期限切れを迎えるその2年前に法定協議会を設置しなければ、国が保障している財政面での優遇措置に預かれないという現実を背景に、それまで長い年月論議されてきた風潮に、一気に終止符が打たれた訳です。この突然の勇断に多くの市議会議員が反発、その結果3月5日成田市議会において法定協議会の設置が否決され、小川前市長は合併協議の話が白紙撤回されたことの責任を取って突然辞任しました。4月27日の市長選挙が現職市長抜きの寂しい戦いであったことは記憶にまだ新しく思われます。
合併問題の解決にはリーダーシップが不可欠
成田周辺市町村との合併は、成田空港圏の経済再生と長期的発展を実現するためにも、当然成田市が先頭に立って検討しなければならない緊急課題です。このまま放置しておけば周辺市町村の中で破綻を免れない自治体が出てくるだけでなく、昨今の世界情勢を背景にした有事の際に不可欠な周辺自治体との連携プレーにも不安が残り、また国際社会全体の流れからも取り残されてしまうからです。その為、以前は合併に慎重であった小川前市長が満を持して合併の必要性を再認識した上でこの度の行動に出たと推測できます。
ところがそのリーダーシップの結果が裏目に出て、多数の市議会議員から痛烈な批判を浴びることになりました。但しそれら批判の内容を見る限り、どれも聞こえの良い「民意」という言葉任せの単発的なスローガンのみが先行し、問題の核心について言及できていないものばかりが目につきます。民意というものはきちんとした情報公開を前提に初めて世論として浮かび上がってくるものです。しかしこの度の市町村合併のように大変複雑な問題が無数に絡んでいる場合、財政推計をベースに周辺市町村の青写真とも言える将来構想をきちんと描いた情報を市民に提示するまでにはかなりの時間を要します。家を新築する際に設計者は平面図も立面図もスケッチさえもないまま「こういう家はどうですか」とは言いません。まず土地調査をしてそこにどういう家が建てられるかを確認した上で簡単なスケッチを描き、「こういう家が建てられますよ」とわかりやすくパースと図面をもって説明するものです。市長や市議会議員も、成田市の将来構想を描くための設計者なのです。その為まず、市民を代表して色々な角度から問題を調べあげ、市民が理解できる青写真を早急に纏め上げることが大事です。
その肝心な合併の設計図ができていないのに、まだ市民に十分な情報や検討する材料さえも与えていない内から「民意」が反映されていない、市民は合併に対して「ノー!」と言っていると議員が訴えること自体おかしなことです。もし単純に数字を並べただけの経済指標を基に合併が成田市にもたらすマイナス点だけを強調して「民意」は反対であると結論づけるならば、それは個人的感情論のみに訴えた世論操作と言わざるを得ません。誰も損をしたくないですから、自分の財布が寒くなっても良いかと聞かれれば当然答えは「ノー」です。しかし合併問題は単に個人レベルにおける経済性のプラスマイナスだけでなく、もっと総括的に全体像を捉えながら国レベルで考えなければいけないのです。
だからこそ市民の代表である市長、市議会議員が十分に話し合い、考え抜いた結果作成された最善の青写真を市民に提示した上で合併を論じ、世論を導くべきです。ガラス張りの市政、十分な情報公開を行なった上で市民を代表する市長や議員には強いリーダーシップが求められます。
合併のメリットデメリットは何?
簡単に合併の利点と欠点を復習してみましょう。
まずはメリットとして
- 行政実務の統合による効率化が実現し全体的な財務体質の改善につながる。
- 複数の都市を囲んで長期的かつ大規模な企画案を展開しやすくなる。
- 複数の市町村にまたがる施設を有効活用することができる。
また合併にはデメリットも伴います。
- 合併する相手市町村の財政力が相対して弱いために成田市財政力の低下が予想される。
- 財政の圧迫により行政から市民に提供するサービスの低下が考えられる。
- 合併には複雑な行政処理が伴うため少なからず市民に不安を与える結果となる。
これらを将来構想の具体案である青写真ができた時点でそれと照らし合わせて検討する必要があります。
合併問題の核心とは成田が力強く再生する事!
合併諸問題の核心とは、日本国、千葉県の一部を担う成田市として国から与えられた「空港」という賜物を十分に活用して成長路線を歩み続けながら、安定した市民の生活を基に周辺都市、県及び国の繁栄に貢献することに他なりません。まず一番槍玉に挙げられている経済的デメリットを考えてみましょう。
確かに財政力指数やその他の経済データで比較する限り11市町村の中では成田がダントツの経済力を持っており、合併を推進することによって多少なりともマイナス面が生じることは否定できません。周辺市町村は財政破綻寸前に追い込まれている地域があるため、「財政が悪化してまで合併する必要があるのか」「住民サービスが低下しても良いのか?」という指摘につながります。「新しい成田を考える会」のパンフレットをみても幾つかの合併方法を比較検討しながら「財政状況」のトピックに焦点を絞っています。しかしこの指標が良くないことが、困窮している市町村を見捨てるという結論に繋がるのでしょうか?周囲の市町村が破綻して失業者があふれても成田は今と変わぬ暮らしが出来るのでしょうか?成田市で就業している人の多くはこれらの周辺市町村から通勤しているのではないでしょうか?困っている市町村に手を差し伸べ協力しながら再生の手がかりを見出だし、新たなる生活圏、経済圏として空港都市としての潜在能力を最大限に生かして生まれ変わることを目指すべきではないのでしょうか?その為に各種改革案を論議するべきなのではないでしょうか?これらのトピックを素通りして合併の是非は語れません。
しかしここで一番問題なのは、市町村合併を財政問題の予測観点からのみ問題視し、現状の財政問題を打破するためのフレッシュな提言を誰も行なわないまま批判だけを繰り返すことです。経済再生のノウハウを知らない人達は現状打破を視野に入れていないため、常に手持ちのデータと現状維持を前提に批判を繰り広げます。しかし周辺市町村の経済状況が如何に悪くとも、今後成田が更に力をつけて成長路線を歩めば周囲の市町村の負担さえも苦にせず良い方向に進めるのです。だからこそ今必要なのは現状維持を前提とした後ろ向きの姿勢ではなく、成田の発展を前提とした地域全体へのポジティブな貢献です。そういう意味で成田はまだまだ成長することができる可能性を大いに秘めており、大きな使命を持っています。
例えば空港を中心とした新たなる事業展開を始め、成田の地域性をフルに活用した観光事業の促進や、成田周辺の商業地区の再開発、小売業を主体とした流通業の繁栄を目指すことも大事です。特に周辺市町村を空港貨物の最重要物流拠点と位置付けた開発計画に注目すべきです。成田空港の第2滑走路が完成してからおよそ1年経ちましたが、その間に貨物量は過去最高の年間200万トンを超える勢いで増加しており、物流関連企業の集積は今後加速すると考えられます。空港より半径20km圏内にある全ての市町村を巻き込んだ大掛かりなマスタープランを描いていく中で、社会インフラを早急に整備することが急務となります。成田市周辺では既に富里市の工業団地や大栄町の大栄物流団地等、大掛かりな開発が進んでいます。成田市内においても空港近辺に道路アクセスの良い大規模な物流拠点の開発準備を進めるべきです。
嵐を乗り切るために皆が一致団結しよう
堂本県知事の指摘どおり、現在千葉県は財政再建団体に転落しかねない程の財政困難にあり、改善の兆しは見られません。成田市の親とも言える県そのものが財政危機に瀕しているのですから、いくら成田は別格と言っても通用しないのです。こうした県全体の、ひいては国の緊急時であるからこそ合併の協議を推進することは不可欠であり、市町村と県が協力して知恵を振り絞って名案を分かち合い、毅然とした態度で問題解決に臨むべきです。
また市町村の合併には前述した通り強い行政のリーダーシップが必要です。この状況は嵐に遭遇した難破寸前の船に似ています。計器類が全て故障し嵐から抜け出る方法が全くわからない状況の中で、乗客に「民意」を問いかけて多数決で決めるでしょうか?乗客の民意は「助かりたい」の一言に尽きるでしょう。方法などどうでも良いことなのです。だからこそその「民意」を実現するため、経験豊かな船長に最終的な判断を委ねるのではないでしょうか?航海の経験が一番豊かで嵐を何度も体験している船長の決断こそ、乗客が信頼できる最後の絆です。同様に今、成田の市民が求めているのは複雑な市町村合併を細部まで理解して多数決で決めるということではなく、ある程度青写真を確認した上で、市民から選ばれた市長や議員が行政の専門家としての体験をフルに活かして、この嵐を周囲の市町村民、ひいては県民、日本国民と共に脱出することにあるのではないでしょうか。
(文・中島尚彦)