ブックタイトルvol_156
- ページ
- 2/4
このページは vol_156 の電子ブックに掲載されている2ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは vol_156 の電子ブックに掲載されている2ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
vol_156
2014年(平成26年)10月18日発行第156刊毎月第3土曜日発行購読無料山道からの絶景に心が弾む!富士宮五合目のレストハウスエリアには、朝7時半に到着しました。オフシーズンであるだけに人影はまばらであり、車も登山道に面した道路に数十台駐車している程度です。幸い1台分のスペースが山沿いに空いていたので、車をそこに停めて、登頂に向けて最後の確認です。五合目ということでかなり寒いかと思いきや、車を降りても肌寒くはなく、16~17度程度の感触です。風もあまりなく、天気も良好です。これならば軽装で登れると思い、上着は長袖シャツ1枚の上にトレーナーを着るだけにしました。駐車場は登山道への入口から100mほど離れたところでしたが、山の斜面には登山道に沿うように大きなジグザグを描く道路の跡が見えました。たまたまそこから降りてくる2人の女性の方に出会い、「ここからも登れますか」と聞くと、「大丈夫ですよ。」と言われ、せっかくのチャンスと心得、その小道から道跡に沿って登り始めました。小道はすぐに登山道に合流したことから、富士山には歩くこともできる車両用のジグザグ道があるという誤認をしてしまい、それが下山の際にとんでもない大惨事を招くことになります。富士宮ルートの五合目から六合目までは、岩混じりの荒い砂のような感触の緩やかな登山道が続きます。素晴らしい天気に感謝しながら足早に山道を登り、10分少々進むと、すぐに六合目の山小屋に着きました。小屋の中では2人の男性が話し込んでいて、表にはトイレが並んでいます。早速、最初で最後と思ってドアを開けようとしても、鍵がかかっていて開きません。よく見ると、利用料が200円のコイン式になっていて、小銭を入れないと開かない仕組みです。お金は持参してきたものの、一万円札を1枚しか持っていなかったので、お札の両替をお願いするのも申し訳なく、トイレくらい1日、我慢できると自分に言い聞かせて山小屋を後にしました。富士山は聖なる山ですから、できることならば、道端では避けたいものです。再び登山道に戻って登り始めると、六合目からの道のりは様変わりし、岩場の急斜面が続きます。火山灰の岩場は足を滑らせやすく、足元をしっかりと見据えなければなりません。ふと登山道の右側を見上げると、そこには巨大な細長い岩場があり、背丈以上もある高さの岩が、何十メートルも続いています。広大な富士山の大自然の中では、巨大な岩場でも小さく見え、さりげなく歩き過ぎていきます。それにしても、何という良い富士山六合目天気なのでしょうか。気がつくと、空は澄み渡る青色。しかも風さえもほとんど吹いておらず、時間が経つにつれて、さらに気温が上昇していくのです。用意していたトレーナーも、登山道を進むにつれて汗が止まらなくなり、すぐに脱いで長袖の薄手のシャツ1枚になりました。それでも汗をかくほど暖かい日差しに恵まれたことが意外でした。また、好天に恵まれたこともあり、綺麗な雲海が広がる雄大な景色を満喫することができただけでなく、雲の合間からは、太平洋沿岸を遠くに眺めることもできました。また、西日本を覆う低気圧の雲と、その後に続いている台風の影響から西方には厚い雲を確認することができ、さすが、富士山だと感無量な気持ちになりました。登山中、下山してくる人に出会う際には、お互いに「こんにちは!」と声を掛け合うのが登山の礼儀です。と言ってもオフシーズンの富士山では人影はまばらであり、前後には遠くに数名ほど人の姿が目に入る程度です。オフシーズンの富士山は、一人でも楽しむことができ、格別な気分を味わうことができます。暫く歩き続けると、夫婦と小学校高学年の女の子が下山してくるのが目に入り、「頂上の景色はどうでしたか?」と声をかけてみました。ところが意外にも答えは、「子供が頭が痛いというので、頂上の手前であきらめて戻ってきました」と言うのです。後、もう一息という所で、高山病の症状が出たことから大事をとり、頂上を目前にしながらも下山することは、違った意味の勇気がいることだと思いました。さらに歩き続け、標高も3000mを過ぎて元祖七合目の小屋を横目に通り越していくと、それまでのごつごつした岩が、段々と砂のような火山灰のかけらでできた山道に変わっていくことがわかります。岩場の合間に火山灰の砂がどんどんと多くなってくる印象です。足を踏み出す度に、じゃり、じゃり、と聞こえる足音が、不思議と大自然の中を登山しているという実感を湧かせてくれます。しかしながら、足元が緩いのも事実であり、足を滑らせやすくエネルギーを消富士山七合目岩場が続く登山道火山灰の登山道耗しやすいので、注意が必要でした。そのため、富士山の登山道にはロープが張ってあり、誰でも迷わず、規定の山道を登山することができるだけでなく、転びそうになった時には、すかさず掴むこともできます。高山病の症状を初体験!携帯電話もなく、普段から時計を持ち合わせていないことから、正確な時刻がわからないまま登山をしていました。しかしながら秋分の日ということもあり、太陽の位置や日照の角度から、およその時間を察することができます。正に、古代の民と同様の境地を体験していたのではないでしょうか。そして出発から1時間半ほどで、八合目の山小屋に辿り着きました。八合目からは、富士山頂上浅間大社の奥宮境内地と言われ、いよいよ、聖域に入ったことがわかります。富士山八合目付近の鳥居山小屋から見て左側にはロープの向こう側に大きな鳥居が立っています。せっかくですので、ロープを越えてごつごつした岩を登り、鳥居の前まで行って跪き、お祈りをしました。鳥居は神の守護の象徴であることから、聖山で祈り、鳥居をくぐることもまた、大切な儀式ではないでしょうか。それにしても相変わらず人の姿は疎らです。あまりに素晴らしい天気だったことから、自分だけが体験するのではもったいなく思えてなりませんでした。しかも時間が経つにつれて、更に気温は上昇し続け、いつしか富士山の山頂付近は、9月下旬にしてはありえないような夏日の様相となっていたのです。ところが登山にはハプニングがつきものです。ひらすら急斜面を歩き続けているうちに、酸素が薄くなってきたからでしょうか、だんだんと意識が朦朧としてくる感じがしてきたのです。当初は標高が高くなってきていることから当たり前のことと思い、大して気にもせず、水分をしっかりと補給しながら呼吸を整えて歩き続けていました。ところが、暫くすると頭が更にボーっとしてきただけでなく、軽い吐き気を覚え始めたのです。ちょうど、初マラソンで脱水症状になり、吐き気をもよおしながら走り続けた時と同じ感覚です。我慢をして歩き続けることにも限界を感じ、このままでは絶対にまずいと自分に言い聞かせ、一旦、休憩をすることにしました。これが高山病の症状かと、初めての体験だけに、暫く様子を-2-見ることにしました。かなり速いペースで歩いてきたこともあり、時間には余裕があったことから、岩場の影で20分ほど横になっていました。その後、立ち上がって歩き始めると、体調は少し回復していたことがわかりました。それでも一旦歩き始めると、意識の朦朧感が少しずつ悪化し、時折、軽い吐き気がしたため、もう一度、今度は休憩を長めにとることにしました。2回目の休憩は30分ほどでしたでしょうか。登山でこんなに長く休憩をとったことはこれまでありませんでした。しかしながら、この休息が功を奏し、以後は吐き気もなく歩くことができるようになり、ほっとしました。さすがに朦朧感はなくなりませんでしたが、富士山の頂上では誰しもこんなものではないかと思い、何ら気にせず登山を続行することにしました。やがて九合目の萬年雲山荘に辿り着きました。もう一息で頂上です。そこからの景色は正に圧巻です。これまでの長い登山道を振り返ると、その先には雲海が広がり、雲の合間からは遠くに下界の平野部が目に入ります。長かった登山道の疲れも、この景色を見るだけで、癒されるような思いです。また、登山道に沿ってジグザグに車の跡が見えることは気になりました。これまでの登山経験から、急斜面を上り下りするよりも、ジグザグにより平坦な山道を走った方が楽しく、時間も節約できたことから、「このジグザグ道を走ってみたい」という思いが脳裏をかすめました。これが下山の際、遭難の危機に直面するきっかけになろうとは、誰が想像できたでしょうか。九合目の萬年雲海荘海抜3460m奇跡の無風状態で山頂を極める!九合目から頂上までの道のりは、想像以上に長く感じました。酸素が更に薄くなってきたこともあり、意識も何となく頭が回らないような感じで、ボーっとした状態が続きます。そこでこれ以上酸欠にならないよう、無理をせずにゆっくりと歩きながら、呼吸は深く、また、早く繰り返して肺に入る酸素の濃度をあげながら登山道を歩き続けたのです。そしてやっとの思いで頂上に辿りついたと思いきや、そこは九合目半の胸突山荘だったのです。その名前のごとく、心が砕かれる思いでした。そこはまだ標高3590mにしかすぎず、頂上まで186mもの雲海の合間から見える平野標高差が残されていました。しかしながら、後ろを振り返ると、南西方向には雲の向こうに太平洋が見渡せます。しかも静岡の焼津や御前崎の海岸線まで眺めることができたのです。富士山から太平洋を見渡すことが夢のひとつでしたが、見事に実現したのです。ここまで来たら、もはや、気合いで登りきるしかありません。そして遂に午前11時すぎ、富士山頂上制覇の時が訪れました!今度こそは本物の頂上です。まず、目にしたのは、「頂上浅間大社奥宮」と書かれた標識と鳥居です。富士宮口山頂を制覇した想いが湧いてきます。富士山頂浅間大社奥宮そして少し歩き続けると、大きな火口が見えてきます。快晴であることから、壮大な火口の色合いと形状の美しさをありのままに肉眼で確認することができ、感無量の思いに浸りました。そして火口の左手には富士山の頂点を極める、標高3776mの剣ヶ峰が見えます。ちょうどその時、ランニングウェアを着ながら、ゆっくりと歩いている20代と思われる男性に出会いました。山頂まで走ってきたランナーがいるとは凄いと思い、声をかけてみると、意外な答えが返ってきました。「頭が痛くて走るどころではないんです」と。明らかに高山病の症状であり、可哀そうでした。そして剣ヶ峰に向かって急斜面を登り始めると、今度は30代前後の男性が下りてきたので、「剣ヶ峰はどうでしたか」と聞くと、「もう、足がもたなかったので、途中で引き返してきました」と小声で言うのです。察するに、富士山の頂上では、高山病のリスクと、登頂の喜びは、常に共存するようです。実際には、多くの登山客が高山病に悩まされているようであり、本当の意味で健康体のままに頂上を楽しんでいる人は少数派であるというのが、現実のようです。高山病の危険は既に感じとっていましたが、幸いにも自壮大な富士山火口