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川でもヨット

ヨット

ヨットは海の上だけを走るものではありません。時には川や運河を走ることもあります。広々とした大海原を360度海に囲まれ一人ぼっちで走るのも楽しいものですが、橋をくぐって巡る景色もこれはこれで趣のあるものです。別にヨットでなくとも浅草からお台場への隅田川の川下り、近くでは潮来の十二橋巡りなど日頃見ている視点と違い水面近くから見る風景はそれだけでも新鮮です。一昔前(自動車のできる前)は船が主要な交通手段として全世界で使われていたわけですから、それぞれの国ごとに今でもその面影を残した岸壁や船着場を見るだけでも往時の情景が目に浮かんできます。

ヨットで川を行き来する場合一番問題となるのはマストです。海の上では障害物は何もなく気にかけることはありませんが、このマストというものは意外と高さがあり普通の橋では間違いなく高さが足りず通ることができません。以前浜名湖から伊勢までクルージングにでかけるときのこと、海に出るまでに新幹線、東海道線、国道1号線、バイパスと4本の橋をくぐっていかなければ海にでることができません。ところがマストを立てたままくぐることのできる橋は一番新しくできたバイパスのみ。あとはマストを倒して通過します。当然マストを倒せば帆は張ることができないのでエンジンで走ります。マストは船の上に倒したままになるので邪魔なことこの上なし。ヨットはマストが立ってセールを風に受けてはじめて絵になるものでマストのないヨットはまるでクリープ入れないコーヒみたい(古い)。とはいえ橋を次々とくぐっていくことはなかなか面白いもので新幹線を見上げながら、また道行く人が見下ろすなか橋を越えると別の風景が広がっていく様はさしずめトンネルを抜けるたびに違う風景が広がる電車の旅を思わせます。また川から見るとその街の人がどちらを向いて暮らしているかということもすぐに感じることができます。川沿いの土手を行き交う船を眺めながらサイクリングすれば気分は爽快です。自転車に乗っている人も船に乗っている人もお互いにのんびりとした春風の中、自然の風の香りを受け幸せな気分を味わえます。ところが日本ではついこの前までは川はゴミ捨て場として日陰者扱いをされ、川岸は全てコンクリートで固められ、汚水はそのまま川にたれ流しがあたりまえという時代がありました。水も濁り、腐った匂いでは道行く人もなく仕事で必要とする船以外は絶対に通らないこと請け合いです。

もっともっと川でも船遊びを楽しめたらいいと思っていたなか、先日はじめて訪れたオランダはアムステルダムから電車で15分程の風車が残っている田舎町でのことです。川幅は利根川河口の約半分程度の運河、対岸に風車、手前には工場がいくつかならんでいる、雰囲気としては茨城県の鹿島のはずれといったところでしょうか。片道1車線に自転車専用レーンと歩道がついた橋を渡ると真中に交番のような小屋が1件。歩いて橋を渡っていると右手から一隻のヨットがやってきます。するとブザーがなり橋の真中の信号が赤に変わり自動車は一旦停止します。その直後橋の真中が船の通れる幅だけ跳ね上がり、ヨットはスピードを落とすことなく橋を通過。ヨットの通りすぎた後、橋は元に戻り信号は青に変わり何事もなかったかの様に人も車も自転車も渡っていきます。私は感激のあまり写真をとるのも忘れ見とれてしまいました。ここではヨットが主役、川は船のためにあり、後からできた橋は主役のためには邪魔してはいけないというかのごとく振舞っています。当然のように運河沿いには川に向かってオープンテラスを設けているレストランや、桟橋付の家が並んでいます。ヨットを乗る人間にとっては天国のような環境です。アザラシのタマちゃんやボラの大群がきたときだけ川に出かけるのではなく休みの日には川岸を船でも見ながら散歩することをもっと多くの人に楽しんでもらいたいものです。フーテンの寅さんも柴又に戻ってくると必ず江戸川の土手を歩いていたではありませんか。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部