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新生大和の湯、満員御礼の大奮闘記
皆さんから愛される大和の湯となる為の長い道程

日々の労苦をふと忘れ、夕暮れの中で蛙の鳴き声に耳を傾けながら、街道沿いを遠くに走る車のライトを蛍のように錯覚しつつ、手をさしのべて軽く寿司をつまむ、そんな贅沢を体験することができる、新生「大和の湯」の3Fに創設された寿司バー「紫苑」で書き綴っています。これまで多くの人が語るのを耳にしました。「成田にそんな贅沢な施設を作っても場違いではないのか」、「東京とは客層がちがうよ…」、「温泉がいいのだから、後は寝るだけのスペースがあればいい」、「成田は田舎だから地元の為の施設を造らないと客がこないよ…」等々。しかしいかなる苦言にもめげずに「これは一流」と太鼓判を押されるのにふさわしい国際的なハイレベルの温泉施設を成田に造ることを目標に掲げ、長い年月をかけて完成したのがこの「大和の湯」です。

外観、内装等の美観に関わる設計分野においては国内屈指の空間デザイナーであり、和風モダンの巨匠として名声の高い羽深氏に設計を依頼し、国内のどんな最高級デザイナーズ温泉にも負けない本物のモダン和風建築物となることを想定しました。建物内の各種施設は今まで世界各地のリゾートを巡り歩きながら肌で感じてきた経験を活かし、「これは素晴らしい!」、「こんなリゾートが日本にあったら!」と切望した空間を思い起こしながら2年という長い年月を労して考えを練ってきました。そして1年近くの工期をかけて先日完成した大和の湯、第2期バージョンは、正に国際都市成田と呼ばれるのにふさわしい商業施設の次世代モデルとして、最高の源泉、最高のお風呂、最高のお食事、最高のフィットネスセンター、最高のエステ施設を持つ温泉リゾートを夢見た結果だったのです。しかし現実的に果たして大和の湯は、大勢のお客様に愛される施設として、成田の誇りとなりうるのでしょうか?

新規事業のオープンに大波乱はつきもの

当初3月20日にオープンするはずが、工事が大幅に遅れて1ヶ月も延期することになりました。ところがオープン一週間前になっても工事の遅れが一向に改善されず、4月20日のオープンにすら間に合うような状況ではないことは一目瞭然でした。しかしながらもう待ったはありません。ゴールデンウィークを目前に控えて、再度オープンを延期してしまっては、特に遠方からお越しになられる大勢のお客様に大変な迷惑がかかってしまいます。そこで何としても4月20日にオープンするために施工業者のスタッフと共に半徹夜の作業を連日繰りしながら工事をフルスピードで続行したのです。

その苦労のかいがあってか、オープン前日の4月19日、やっと諸官庁からの各種承認が全ておりて、建物が引き渡されました。ぎりぎりセーフ、準備開始!と言いたいところですが、現実は甘くありません。この類の温泉事業というものは、新装オープン前に十分な温泉の試運転と従業員スタッフのトレーニングに準備期間を設けることが不可欠なのです。それがたった半日しか猶予がないのでは話になりません。まだ工事の片付けも終わっていない現場で、建築上の細かい修繕事項も山済みとなっている現状を目前にしながら、途方に暮れそうになる思いをこらえるのがやっとでした。そしてひたすら前向きに困難を乗り切っていくことだけを信じて、黙々とみんなで片付けや清掃を続けたのです。ふと気がつくと、まだ半分もやるべきことが終わっていないままに朝を向かえてしまい、緊迫した雰囲気が館内をよぎる中、オープンを迎えてしまうことになりました。

事前に電話での問い合わせが大変多かったこともあり、開店時には大勢のお客様が列を作って並んでいました。早朝から何時間も待たれたお客様もいらしたようであり、「いらっしゃいませ!」、「おはようございます!」、と元気良く挨拶を繰り返しているうちに段々と眠気が吹き飛び、スタッフ一同と共にやる気一杯でサービスに取り組みました。ところがそれからが思いがけぬトラブルとハプニングの連続です。今となってはお笑いで終わってしまうことなのかもしれません。

まず3階の和風ダイニング・レストラン「あじ彩」が午前11時にオープンした直後、瓶ビールの注文が入ってやっと全員気がつきました。信じられないことに仕入先である某地元業者が栓抜きを置いていかなかったのです。「まさか!」と一瞬顔が青ざめます。ビールを出したくても栓を抜くことができずに、「誰か栓抜き探してきて!」と、たかが栓抜きの為に罵声が飛び交うことの虚無感はそう頻繁に体験できるものではありません。おまけに新しい生ビールのサーバーは置いてあっただけで接続されていないため、大忙しのランチタイムに生ビールの注文が立て続けに入ってもビールサーバーがすぐに使えないことを知ったその瞬間、正に崖っぷちに立たされたような気持ちになってしまいました。「それにしても薄情な酒屋さんやビールメーカーもあるものだ。新装開店という一大イベントであるにも関わらず、朝から手伝いにもきてくれないなんて。」そんな不平不満がつのる最中、今度は驚いたことに、お客様がテーブル席から立ってディシャップカウンターの方にしょうゆ瓶を持って歩いてこられ、「中が空っぽなんですけれど…」と文句をいう言葉を耳にし、絶句してしまいました。前日のどたばた劇の最中、担当者が醤油を入れ忘れ、それをチェックする時間がないままオープンしてしまったお恥ずかしい話の結末です。

また館内の清算業務はすべてPOSと呼ばれる電子決済システムを無線で飛ばすことになっていますが、そのハンディー端末を使いこなせるスタッフがオープン時では2名しかいなかったのです。ハンディー端末はレストランでスピーディーに注文を取るには不可欠であり、本来簡単に処理できるものです。しかし実際には恐る恐る端末に見入りながら試行錯誤を繰り返して、お互いに首をかしげながら打ち込むスタッフが続出し、オーダー処理が大幅に遅れてしまったのです。その結果、初日という不慣れも手伝って全てが効率悪く、レストランでは大勢のお客様に対して1時間近くお待たせしてしまうという不甲斐ない事態となってしまいました。お客様からのクレームが殺到し、スタッフ一同、何十回、いや、少なくとも百回以上頭を下げたことか。謝罪の練習をするためにこの温泉を建築したのではないことは分かってはいるのですが、とにかく情け無い思いに打ちのめされてしまうことしきりであり、苦渋の体験となってしまいました。お待たせしたお客様、ごめんなさい!世界のトップクラスを目指した結果が、成田最低のサービスでは本末転倒、元も子もありません。「ザンネーン!」どころの話ではなかったのです。

お客様の声は天の声

これだけの施設を造ったわけですから、喜ばれて当たり前、というのは単なる自己満足、空想にしかすぎません。確かに企業としての利益など除外視して無謀とも言われんばかりに最高の建物を創り上げた為に、コストは当初の予算を5割以上も上回ることになりました。それでも計画を断行して推し進めたのは、これからのトレンドは最上級のものをよりお買い得なプライスで自分のものにする時代であると言う確信があったからに他なりません。ところが事業には問題とクレームがつきものであり、大和の湯も例外ではありませんでした。初日から様々なお叱りやコメントをお客様から頂き、それらを真摯に受け止め、できることからスピーディーに対処することにしました。

まず、レストランの配膳スピードを大幅に上げるために伝票の流れを早速見直し、オーダーから配膳までに平均10分しかかけないように試みました。するとどうでしょう!24日の日曜日、オープン時よりも3割以上も多い1000名近くのお客様が入館されたにもかかわらず、配膳スピードをちょうど10分に保つことができました。また「ドリンクの値段が高い!」という声が寄せられたため、すぐに価格を見直しました。当初は成田周辺のレストランで付けられているソフトドリンクやコーヒーの価格を参考に同等の値付けをしたつもりですが、それではどうも苦情が絶えないことがわかりました。そこで即決、値下げ断行です。そしてソフトドリンクを200円、コーヒーを280円にしたところ、あっと言う間に大好評となりました。次に「時計がない!」、「時間がわからない!」という声に対してはオープン3日目に合計7台、館内随所に電波時計を設置しました。ところが、何とその日の内に2台が早速盗難にあい、内一つは浴槽内から持っていかれてしまったのです。物騒な世の中とはいえ、温泉から時計を盗まれることなど考えもしなかった為、考えが甘かったようです。再度設置し直す予定ですが、今度はもぎとられないようにしっかりとアンカーを打って固定するつもりです。また田んぼ側の道路には農道であるために未だに街灯が立っておらず、夜になると真っ暗で危ない、という声があがりました。当然のクレームです。農道といっても市が管理する公道ですから幾度となく街灯の設置を市にお願いはしてはいたのですが、役所の方では予算が取れないと言うこともあり、結局大和の湯側で街灯を設置することにしました。善は急げ、早速仮の水銀灯を26日の夜に設置し、本誌が配布される頃にはきちんとしたデザイン街灯が道路沿いに並んでいるはずです。

大和の湯はこれからが本番!

まだまだ多くの細かい課題を抱えている大和の湯ではありますが、それは昔の戦艦大和も一緒だったのでしょう。前途多難な旅路ではありますが、お客様の暖かい支援と共に、これからも皆様から愛される、成田が、千葉が、そして日本が誇る「大和の湯」となるためにスタッフ一同、精進していく所存です。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部