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-私のカメレオン- 4

ファーティマと

前回、ファーティマの餌を求めてジュネーブ郊外の原っぱにでかけたことを書きました。ジュネーブの夏は昼がとても長いので、2日おきくらいに仕事が終わってから急いで原っぱにかけつけ、せっせとバッタ取りをしていたのですが、2週間もするとさすがに「こんなことは続けてられないから、ほかの対策をとらなければならない」と考え始めました。そこでいろいろ調べてみると、ジュネーブには両生類爬虫類専門の動物園があることがわかったので早速出かけていきました。そこは毒蛇が専門のようでしたが、カメレオンの話も聞くことができ、餌なら街にあるペットショップでコオロギを買って与えればいいと教えてもらいました。さっそく、教えられたペットショップに行ってみると、確かに餌として使うコオロギが売っていました。わかってしまえば「何だ、こんなに簡単だったのか」です。これでもうバッタを取りに行かなくてもいいし、冬になっても餌の心配をすることはないと思い、それ以降は餌のコオロギはペットショップで買うことにしたのです。

ところがしばらくするとまた問題が出てきました。ファーティマの食欲がすごいのです。コオロギの10匹くらいあっという間に食べてしまうのです。そんなに食べたいのならば、もっとあげなきゃと思い、ペットショップに足繁く通ったのですが、在庫がないことがよくありました。どうやら鳥の餌として買っていく人が多いようでした。そんなある日、何度通ってもコオロギを買えない私を見かねて、店のおじさんが「そんなにコオロギが必要ならうちの卸しを紹介してあげよう」といって、コオロギの直営店の電話番号を教えてくれました。早速電話をかけるとコオロギの種類だのサイズだのと言うのです。何のことやらよくわからないでいると、資料を送ってくれました。それを見てびっくりしたのですが、なと5種類くらいのコオロギがいて、それぞれが成育日数に応じて3ミリくらいの極小サイズから3センチくらいの特大サイズまでに分かれているのです。そのときになって改めて、今やコオロギは原っぱで取ってくるものではなく、工場で生産されるものなのだということがわかりました。

とりあえず、それまでファーティマが食べていたのと同じくらいの体長1.5センチくらいのコオロギを100匹ほど頼むことにしました。それにしても、100匹のコオロギをどうやって配達してくれるのだろうかと気がかりでした。遠くから車で配達してくれるのかなあ、などと考えていたのです。数日後、ポストにボール紙でできた筒が届きました。日本で賞状などを入れておく紙筒と同じくらいのサイズです。なんとこの紙筒の中に100匹の生きたコオロギが入っていたのです。コオロギの宅配です。改めて、世の中いろいろな商売があるのだなあと感じ入りました。しかも、同封の説明書きによると「当店のコオロギは特別の飼料によって滋味豊富かつ衛生的に生産されており、出荷の時点で栄養分が最高になるように調整されておりますが、日数がたつにつれて風味も栄養価も落ちていきますので、早めにご賞味ください」と書いてあるのです。賞味期限はどうやら2週間くらいのようでした。びっくりしたものの、おかげさまで、ファーティマの餌問題は完全に解決しました。ファーティマは、栄養たっぷりのコオロギをいつでもたらふく食べられるようになったのです。

(文:井上 健)

井上 健(いのうえ けん)

井上 健(いのうえ けん)

1957年東京生まれ。早稲田大学政経学部在学中に400日間世界一周の一人旅をし、国際協力の道に志す。卒業後、イギリスのサセックス大学開発研究所に留学、開発学修士号取得。その後、国際公務員として、ワシントン(世界銀行)、トリニダード・トバゴ(国連開発計画)、タイ(国連カンボジア人道支援室)、カンボジア(国連カンボジア暫定統治機構)、ソマリア(国連ソマリア活動)、スイスとドイツ(国連ボランティア計画)、コソボ(国連コソボ暫定統治機構)、東京(アジア生産性機構)に勤務し、現在は東ティモールの国連統合ミッションでガバナンス部長を務める。専門は、国際開発協力、人道支援、平和維持・構築など国際協力業務一般。好奇心が旺盛で、世界各地を訪ねて、何でも食べ飲み人々と交流することが大好き。これまで住んだ国は12カ国、訪れた国は80ヶ国余り。毎週必ず何かひとつ生まれてはじめての経験をすることを心がけている。

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