日本シティジャーナルロゴ

-国連職員の仕事- 1

前回まで1年余りにわたって、「私のらくだ、ダアリ」と「わたしのカメレオン、ファーティマ」について連載してきました。今後も私のこれまでの30年にわたる海外とのかかわりで経験したことを軽い乗りで書いていこうかと考えていましたが、編集部から「こんなことばかり書いていると国連職員は遊んでばかりいると思われるのでは?」とコメントをいただきました。思えばNCJは結構、硬派路線のまじめな記事ばかりを掲載しているようです。というわけで、今回からしばらくは、国連に関する少し堅い話を書いていきます。しかし、教科書のような国際機構論では味気がないですから、体験に基づいた現場の話に沿って、国連職員がどういう仕事をしているのかを紹介していきたいと思います。

まずは概略です。国際連合は1945年10月24日に発足した政府間の国際組織です。当初加盟国は51カ国でしたが、現在の加盟国数は192カ国です。永世中立国であるスイスも加盟しましたし、現在未加盟の国はバチカン市国くらいではないでしょうか。政治的な理由で、独立国としては加盟できない中華民国(台湾)もあり、世界に独立国がいくつあるのかは明確にできませんが、国連には世界のほぼ100%の国が加盟しているといえます。ご承知のように国連は世界政府ではありませんし、世界に並立する独立国の主権を超えるものではありません。しかし、世界のほぼ全ての国が加盟しているという普遍性が国連の権威の源泉になっていることは間違いありません。この地球上のみならず人類が利用できる宇宙空間も含めて、国連と直接間接に関係のないところはどこにもないといっても過言ではありません。それほど国連の守備範囲は広いのです。従って、国連事務局と関連機関からなる国連システムで働くおよそ6万5千人の職員の仕事も千差万別です。階層から見れば、国際公務員である国連職員のトップはアナン事務総長ですが、発展途上国にある国連事務所で働く掃除のおばさんもれっきとした国際公務員です。職種となると数え切れないほどです。政治的に任命される国連機関のトップや幹部職員、国連平和維持活動に当たる軍人、治安維持に当たる警察官、原子力発電所の査察を行う原子力専門の科学者や難民の保護官などの専門家、総務・財務・人事などの担当官、そして秘書や通訳やドライバーといった現地採用の職員など、実にさまざまな職種の人々が国連で働いています。しかし、ごく大雑把に分けると国連業務は大きく二つに分けることができるでしょう。ひとつは世界の平和と安全にかかわる業務であり、もうひとつは世界の経済社会の発展にかかわる業務です。どちらの業務の場合も、政治的財政的な交渉や大きな方針の決定は、加盟国政府の代表者によって、国連機関の本部があるニューヨークやジュネーブで行われます。そして、その決定事項が実施される場が、われわれがフィールドと呼ぶ現場です。平和と安全にかかわる仕事のフィールドは、いわゆる紛争地域とよばれる国々であり、社会経済の発展にかかわる仕事のフィールドは、いわゆる発展途上国とよばれる国々です。それでは次回から、私がコソボで国連平和維持活動(PKO)に従事していたときの経験をもとにフィールドにおける国連職員の仕事を具体的に紹介します。

(文:井上 健)

井上 健(いのうえ けん)

井上 健(いのうえ けん)

1957年東京生まれ。早稲田大学政経学部在学中に400日間世界一周の一人旅をし、国際協力の道に志す。卒業後、イギリスのサセックス大学開発研究所に留学、開発学修士号取得。その後、国際公務員として、ワシントン(世界銀行)、トリニダード・トバゴ(国連開発計画)、タイ(国連カンボジア人道支援室)、カンボジア(国連カンボジア暫定統治機構)、ソマリア(国連ソマリア活動)、スイスとドイツ(国連ボランティア計画)、コソボ(国連コソボ暫定統治機構)、東京(アジア生産性機構)に勤務し、現在は東ティモールの国連統合ミッションでガバナンス部長を務める。専門は、国際開発協力、人道支援、平和維持・構築など国際協力業務一般。好奇心が旺盛で、世界各地を訪ねて、何でも食べ飲み人々と交流することが大好き。これまで住んだ国は12カ国、訪れた国は80ヶ国余り。毎週必ず何かひとつ生まれてはじめての経験をすることを心がけている。

© 日本シティジャーナル編集部