日本シティジャーナルロゴ

-国連職員の仕事- 24
コソボの少女ベシアナvol.4

写真 /2002年11月、治療のためにこぶができているベシアナとお父さん

写真 /2002年11月、治療のためにこぶができているベシアナとお父さん

私は現在、東ティモールにいるためにベシアナに会うことはできませんが、彼女の日本滞在ブログを読む限りでは、治療の合間に各地を回って元気で毎日を過ごしているようです。ベシアナの治療には、世界でも最高水準の日本の形成外科医療技術が使われています。半分以上の頭髪を失ったベシアナをどう治療するのか。普通であれば、かつらをかぶせるか、せいぜい人工頭髪を植毛するということになるのでしょうが、日本の病院では、驚くような治療を施してくれました。

まず、まだ髪の毛が残っている頭皮と頭蓋骨の間に3つもの小さなしぼんだ風船のようなものを手術で入れたのです。そしてこの風船に毎週少しずつ生理的食塩水を注入していったのです。すると当然風船は少しずつ膨らんでいき、ベシアナの頭はたんこぶができたように膨らんでいきます。この治療を2000年秋から半年間行いました。すると半年後にはベシアナの頭は3つのたんこぶで膨れ上がりました。そのときにまた手術をして風船を抜き取ったのです。そして伸びきっていたベシアナの頭皮を髪の毛のない部分に引っ張って固定したのです。つまり、新しい頭髪を生やすことはできませんが、残っている頭髪を薄く延ばして頭全体に広げたのです。ベシアナが負っていた火傷の痕があまりに広範囲であったため、一度の引き伸ばしだけでは頭全体に延ばすことができなかったため、2002年秋からの3度目の訪日で再び同じ治療を繰り返しました。こうして、頭全体に髪の毛が広がりました。理屈から言うと本来の髪の毛の半分くらいしかないはずですが、ベシアナは美しい金髪を切ることなく長く伸ばしているので、今では見た目には全く普通の子供と変わりません。ケロイドになった顔の手術のためにはベシアナの上半身の柔らかな皮膚を切り取ってきて顔に移植しました。そして切り取った上半身には、丈夫な下半身の皮膚を移植したとのことです。

ベシアナの顔にはまだ皮膚を貼り付けたような痕が残っていますが、これもさらに微調整をしていくようです。ベシアナの顔は本当にきれいになりました。最後に残ったのが右耳です。まだ赤ちゃんだったベシアナの柔らかな耳たぶは、火事によってほとんど焼け落ちてしまったのです。なくなった耳をどう再建するのか。このような場合には、欧米では通常シリコンでできた擬耳をつくり差し込むようです。言ってみれば入れ歯ならぬ入れ耳ということです。ところが世界に誇る物づくり大国日本には、なんと耳づくりの名人という形成外科の先生がいるのです。本人の胸の軟骨を使って耳の芯を作り、顔の側面の皮膚を伸ばしてその中に入れて、本物そっくりの耳(というか本物の耳)を再建するのです。ただ唯一の問題は、後から作った耳は生来の耳とは違って成長しないようです。ですから耳の大きさが大人とほぼ同じ大きさになる10歳を過ぎてから耳の再建手術をするのが一般的なようです。

かくて、12歳になったベシアナは、いよいよ耳を作ってもらうために今5回目の訪日をしています。10月5日が手術の予定日です。皆様のご支援もお願いしたいと思います。「ベシアナちゃんを助ける会」のホームページを是非ご覧ください。

【お知らせ】

今、ベシアナちゃんが最後の治療のために日本に来ています。『ベシアナ』で検索すれば『ベシアナちゃんを助ける会』のホームページが出ます。是非、募金をお願いしたいと思います。

(文:井上 健)

井上 健(いのうえ けん)

井上 健(いのうえ けん)

1957年東京生まれ。早稲田大学政経学部在学中に400日間世界一周の一人旅をし、国際協力の道に志す。卒業後、イギリスのサセックス大学開発研究所に留学、開発学修士号取得。その後、国際公務員として、ワシントン(世界銀行)、トリニダード・トバゴ(国連開発計画)、タイ(国連カンボジア人道支援室)、カンボジア(国連カンボジア暫定統治機構)、ソマリア(国連ソマリア活動)、スイスとドイツ(国連ボランティア計画)、コソボ(国連コソボ暫定統治機構)、東京(アジア生産性機構)に勤務し、現在は東ティモールの国連統合ミッションでガバナンス部長を務める。専門は、国際開発協力、人道支援、平和維持・構築など国際協力業務一般。好奇心が旺盛で、世界各地を訪ねて、何でも食べ飲み人々と交流することが大好き。これまで住んだ国は12カ国、訪れた国は80ヶ国余り。毎週必ず何かひとつ生まれてはじめての経験をすることを心がけている。

© 日本シティジャーナル編集部