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美食・飽食時代の終焉
PART II 一家団欒を楽しみながら食することに勝る美食は無し !

一昨年、健康診断の際に行われた血液検査により、筆者は50歳にして花粉症を発症したことが確認されました。この年になって「まさか ? 」と思いつつも、よく考えてみればここ最近、理由もなく鼻水がでることが思い起こされました。

実は、筆者の子供も幼い頃から花粉症とアトピー性皮膚炎、重症の喘息に悩まされ、治療にてこずってきた苦い経験があります。同じDNAを持つ筆者にも、遂にアンバランスな食生活とストレスのつけが回ってきたのでしょう。今では食生活に細心の注意を払ってはいるものの、確かに30代まではアメリカでハンバーガーを中心とした肉食にどっぷり浸かり、飲み物といえばコーラ等の炭酸飲料水を頻繁にガブ飲みすることが当たり前でしたので、当然その悪影響は否めないでしょう。

ハンバーガーが大好きだった理由は簡単です。美味しくて手軽に食べられて、値段もお手頃で、すぐにお腹が一杯になるからです。しかしカロリーが高いため頻繁に食べると肥満になりやすい傾向があり、しかも栄養価はむしろ低いということで、それがジャンクフードと呼ばれている所以でもあります。

これらファーストフードに限らず、インスタント食品には動物性脂肪だけでなく、化学調味料、着色剤、防腐剤などの化学物質が使用されることが多いのが現状です。例え微量であっても、日々食しているうちにいつしか体に悪影響を与え、アレルギー性疾患等の健康被害を及ぼします。どうやら筆者もその罠にはまってしまったようです。

アレルギー性疾患の流行

1970年代に渡米した際、米国では極端なアレルギー疾患に悩む人が多いということがわかりました。クラスメートの中には、乳製品や穀物だけでなく果物や、野菜、肉等のアレルギーを持っている人が数名おり「一体、何を食べて生きているのだろう ? 」と思ったものでした。

それまでアレルギー性疾患に関する話題などあまり耳にすることがなかったため、単に米国特有の健康問題のように思え、気にもしていませんでした。食物アレルギーや花粉症は、当時の日本ではあまり認知されておらず、若い成人が稀に発症する病気といった程度の認識であり幼児や年配の方が花粉症になることなど、殆どなかったように思います。

ところが今日、日本人の4人に1人が花粉症に罹っており、アレルギー疾患の発症年齢も低年齢化し、幼児でも発症することが珍しくなくなりました。驚くほどの短期間に体内バランスが崩れ、その結果、日本人の体質が激変してしまったのではないでしょうか。そして食生活の欧米化が進むことにより、いつの間にか日本人にもアレルギー体質が蔓延し、発症する人が急増したのです。体が「参った ! 」と悲鳴をあげている訳ですから、もはやこの危険信号を無視することはできません。

アレルギー疾患が増える理由

これ程までにアレルギー疾患が急増した理由は明確ではありませんが、最近になって専門家の意見は、ほぼまとまりつつあります。その主たる原因として挙げられているのが、ストレスと食生活の欧米化、そして生活環境の極端な衛生化です。

つまり、身体をいつの間にか蝕む現代社会のストレスや、食卓のメニューの大半が欧米化されたことによる動物性脂肪の摂取過多、そしてあげくの果ては化学調味料と添加物漬けの高カロリー&低栄養価のジャンクフード、清涼飲料水の大量摂取がアレルギー疾患の拡大に深く関わっているのです。

特に最近話題になっているのが、食生活の過度な衛生化です。

ウィルスや細菌が食物から全て排除された結果、完璧なまでに清潔になった食材が、実は免疫疾患の原因になっているのではないかというのです。今日、防腐剤や食品添加物の使用は当たり前です。ところが、化学物質にまみれた食材を摂取し続けることにより、腸内細菌のバランスが崩れ、アレルギー症状が発症しやすくなるのです。

アレルギー性疾患は、免疫細胞の異常が根底にあると考えられていますが、この免疫細胞の大半は小腸に在り、大腸とタイアップしながらバランスを取っています。しかし食品添加物や各種化学物質を摂取することにより、本来持っている抵抗力が低下し、免疫細胞のバランスが壊れ、異質な物を受け入れ難い体質に改悪されてしまうことがわかってきました。さらに、病気になると簡単に抗生物質を投与してしまうことも、アレルギー症状が発祥しやすくなる原因と考えられています。

体に良くない食品添加物が含まれているコンビニ弁当や、おにぎり、ファーストフードが、それでも人気がある理由は、とりあえず美味しくて味に外れがないからです。その美味しさの秘密は、外食産業のマジックとも言われているマヨネーズとケチャップの多用だけではなく、上手に動物性脂肪を利用していることです。ハンバーガーからは肉の脂がしたたり、フライドチキンは脂肪たっぷりの皮が最も美味しい所です。ピザの具のハイライトといえば脂肪分を含んだサラミやソーセージです。

また和食でも牛丼や豚丼など、動物性脂肪が含まれているからこそ美味しく感じるわけであり、その究極が和牛の霜降り肉です。

ところがこの動物性脂肪も、アレルギー疾患の根源の一つです。ハンバーガーや牛丼に含まれる動物性脂肪は、摂取過多になると体内において炎症をおこす引き金となりやすい為、単に美味しい、便利だからと言って、頻繁に食することは避けなければなりません。

素朴な和食へ帰依する時代の到来

今や、世界各国で和食ブームがおきています。単に美味しいだけでなく、和食にはヘルシーなイメージがあります。また四季を通して季節感溢れる様々な食材を味わうことができ、しかも見て楽しめ、更に香りまでも堪能することができるのが和食の魅力です。それ故、洋食3色、和食5色とも呼ばれ、日本料理の繊細さと彩りが世界中で高く評価されるようになりました。

また、和食では健康を維持するために重要な栄養素を含む食材が多用されています。例えば同じ脂肪でも、特に光物と呼ばれる青魚の脂身には、アレルギー性の炎症を抑える働きがあります。これ程まで優れた和食を、日本人がおろそかにして良い訳がありません。今こそ、昔ながらの日本人にとって馴染み深い食生活にUターンすることが必要ではないでしょうか。

ところが、素朴な食生活に逆戻りすることは、たやすくありません。まず「3度の食事を楽しむ為の時間と心のゆとりが取れるのか ? 」というライフスタイルに纏わる根本的な問題があります。次に、健康に良い食材を調理をすることに喜びを感じ、その為に労力を惜しまず捧げられるかといことが挙げられます。そして最後に、和気合いあいと団欒する食卓の環境が整っているか、つまり「一緒に仲良く食事をする家族や仲間がいるのか ? 」ということです。

3度の食事と団欒を大切にする

人間は食べるために働いているとも言える訳ですから、食事の時間は1日の内でも最も大切な時間であってしかるべきです。

ところが、多くの現代人は「3度の飯」よりも好きなことや、しなければならないことがある為、いつの間にか食生活がおそろかになっているのです。その結果、いつしかファーストフードが重宝されるようになりました。今日、美味しい手作りの料理を待つ位なら、食べたくなったら適当にお腹を満たし、自分のやりたいことを優先したいと思う若者は少なくないでしょう。しかしながら、どんなに忙しくても3度の食事を大切にし、しっかりと時間をかけるべきなのです。

もうひとつ克服しなければならない問題が、家庭環境の激変です。多くの日本人にとって家族と共に団欒を楽しむことはもはや遠い昔のこととなってしまいました。今では家族がばらばらに食事をし、頻繁に外食することも当たり前です。これでは、いかに料理の上手な主婦であっても、腕をふるう場所が無いのも同然です。

行き着くところ、食生活に潤いを与える為には、家庭環境の改善が必須であり、家族が一緒に団欒することの大切さを今一度、再確認する必要があります。家族全員が集まれば、例え料理に時間がかかったとしても、その間も会話が弾む楽しいひと時となり、出来上がった料理もより美味しく感じられるものです。

食文化の乱れから脱皮するために

1960年代、ファーストフードの歴史は立喰いそばから始まったと記憶しています。サラリーマンも学生も朝はギリギリまで寝てしまい、その為時間が無くなり、しかも寝起で食欲がないので家では朝食を取らない。そして、通勤通学の途中で軽く食べたいという欲求もあってか、立喰いそばの普及に一役かったようです。筆者も、電車を待つ間に時間に追われながら、天ぷらそばをものの数分で胃の中に放り込むという悪習慣が身についてしまいました。その延長線上に、今日のハンバーガーを中心とした多種多様のメニューがあるように思えます。

どうも私たちは、本来あるべき食生活の姿を見失いかけてしまったようです。時間に追われて食器を片付けることはおろか、食事を作ることすら面倒と感じている人々が大半を占めるようになった昨今。たとえ体に良くないことが分かったとしても、手軽にかつ低価格ですぐにお腹を満たすことができる外食に依存する流れは、そう簡単には変わらないでしょう。しかも食文化を軽んじた結果、膨大な量の食べ残しが発生し、年間およそ2,000万トン近い膨大な量の食べ物が単なるゴミとして捨てられているのです。これこそ、すさんだ現代人の心を象徴するものではないでしょうか。

日本独自の食文化、本来の姿に戻るためには、まず心にゆとりを持つことが大切です。そして目先の美味しさや利便性よりも、むしろ栄養価を考慮し、時間をかけてでも良質の食材を調理することに喜びを見出すことが大事です。そして一緒に食事を共にする家族や知人に恵まれながら、楽しく食する時間を持つことの素晴らしさを再認識するべきです。行き着くところ、日本の食生活・食文化の改善は、昔ながらの暖かい一家団欒の楽しみが“鍵”となるに違いありません。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部