日本シティジャーナルロゴ

人間の寿命は、実は120歳

-命のプログラム-DNAの回数券

私たち人間は、だいたい生きられる年数が決まっています。もちろん、平均寿命を大きく超えて百何歳という長寿の方もおられますが、それでも、125年を超えて生きた人はいません。なぜなら、それが人間の生物学的限界だからです。

この寿命という「命のプログラム」は、私たちの細胞一つ一つに入っていて、子から孫へと大切な遺伝情報を伝えてゆくDNAと「細胞分裂」という過程の中に隠されています。

この細胞分裂が始まると、らせん状の二本のテープのようなDNAは、チャックが外れて左右が別になり、それぞれがもう片方を複製して2個のDNAとなります。しかし、DNAの両端は複製ができないので、両端にある遺伝情報が何も書き込まれていない部分テロメアが細胞分裂のたびに一枚ずつ切り取られてゆくのです。このテロメアは「命の回数券」と呼ばれています。人間の場合はこの回数券が50枚あたえられていて、これを使い切るまでは理論的には生き続けることができるわけです。そしてこの回数券の枚数から計算すると、人間は120年の「寿命」をもっているとされているわけです。つまり、人間は最善の環境が整えば、自己管理だけきちんと実践することにより、120歳まで生きることができるのです。

私たち生物の命はDNAによって厳格にプログラムされていて、私たちの中にある「時計」にはその種によって決められた目盛りがしっかりと刻まれているというわけです。DNAによって刻まれた時計の目盛りを「実年齢」、ゼロから120に向かって進んでゆく針を「加齢」と呼ぶことにします。目盛りである「実年齢」は物理的な現象のためコントロールはできませんが、針の進む速度、「加齢」はコントロール可能なのです。そして、この与えられた120年を上手に生活に配分し、人生をスマートに計画することが進化の頂点に立つ私たち人間にふさわしい考え方だと思うのですが。

- 老化時計は -刻みつづける実年齢との乖離

数字としての年齢は意味がない!

右のグラフをよく見てください。このグラフは人間の生理的年齢と肉体年齢の正常範囲を示しています。例えば、実年齢が65歳の人の場合を例にとると、生理的年齢は若い人で57歳、老けた人では73歳と、実に16歳もの開きがあるのです。これを35歳の人で見ると、老けた人で40歳、若い人で30歳と、やはり10歳の差がつきます。

なぜこうした対実年齢乖離をともなう老化が起きるのでしょうか。それでは、老化に係わる三つの要因をご説明しましょう。

●酸化作用―活性酸素・フリーラジカルの攻撃によって「さびる」

老化は、活性酸素の酸化作用で進行してゆきます。いわゆる、体がさびてゆくという表現がぴったりの、代表的プロセスです。活性酸素とは、生きていくために絶対不可欠な物質である水と酸素が反応しあって生まれる、非常に有害な物質で、「フリーラジカル」と呼ばれるものの一つです。

●内分泌の変化―ホルモン分泌の減少によって「しぼむ」

実年齢を重ねるにしたがって、体内のホルモン分泌が減少してゆきます。ヒト成長ホルモン(hGH)や、インシュリン様成長因子(IGF-1)、DHEAなどの若さを保つために必要なホルモン分泌は平均的に30歳を超えるころから減りはじめ、ある一定レベルを下回ると、次のような症状が現れてきます。ご覧ください。まさに老化そのものです。

  • ①エネルギーの低下
  • ②運動能力や筋力の弱体化
  • ③性的ときめきや、精力の低下
  • ④精神的な鋭さの低下
  • ⑤視覚能力の低下
  • ⑥脂肪を含まない筋肉の減少
  • ⑦骨粗しょう症の傾向
  • ⑧皮膚の張りや柔軟性の減少

●精神的弱体化―プラス志向を失って「風化する」

精神活動が正常に営まれていれば、健康は維持され、たとえ病気になっても回復することができます。私たちはこうした回復力のことを「自然治癒力」とか「恒常性」と呼んで、昔から、治療に役立てようとしてきました。昔からよくいうでしょう、「病は気から」と。

最近この言葉は、医学的に正しいことが認識され始めています。例えば、ペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン博士が行なった実験によって、強度のストレスや、先の見えない、希望が持てない環境が免疫系に致命的なダメージを与え、特に「癌」に対する体の抵抗力を劇的に弱めるということが確かめられています。

抗加齢医学においては、精神的な励み(希望)や、前向きな思考形態(プラス志向)が、老化時計を遅らせるために重要な役割を果たしていると考えているのです。

この「さびる」「しぼむ」「風化する」という老化御三家をしっかりと覚えておいてください。

米井 嘉一(よねい よしかず)

米井 嘉一(よねい よしかず)

1958年東京生まれ。慶應義塾大学医学部卒。現在、日本鋼管病院内科・人間ドック脳ドック室長、(株)サウンドハウス産業医。
米井抗加齢研究所所長(http://www.yonei-labo.com/) Anti-Aging Medicine(抗加齢医学)の伝道師としてテレビ、ラジオ、雑誌等で活動中
日本抗加齢医学会HP

© 日本シティジャーナル編集部