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囃子詞に秘められた謎
~能登民謡に込められた励ましのヘブライ語。

石川県を中心に北陸地方で唄われている民謡の中に、「能登麦や節」があります。この民謡は「麦や節」の原曲となった名曲であり、石川県の無形文化財にも指定される程、素朴で落ち着いた響を持つ民謡として有名です。面白いことに、その歌詞のルーツは能登半島で作られるそうめんにあると言われています。そうめんは小麦を原料として作られていることから、そうめん屋は以前「麦屋」とも呼ばれていました。そうめん作りは小麦を石臼で引く作業にはじまり、夜通し入念に伸ばした麺を朝方には干すという、想像以上に大変な仕事で、麺職人は徹夜を覚悟で作業をしたそうです。そんなつらい仕事の中で、互いに励ましあい、心に活気をつける為に唄われたのが、この「能登麦や節」です。そして夜通し働く職人の元気の秘密が、この唄の囃子詞に秘められています。

この民謡の囃子詞は「ヤーイナ」と、その語頭の「ヤ」が落ちた「イナ」、そして「チョイト」です。まず「ヤーイナ」ですが、「麦や小麦はイナー」「刈るがヤーイナ」と唄われる「イナ」の返し唄は、能登民謡の特徴でもあり、独特の響きを持っています。日本語では意味が不透明なこの「ヤーイナ」という詞も、ヘブライ語では重要な意味を持っています。(inah、イーナ)と発音するヘブライ語は、「~が授けて下さる」「成される」、という意味があります。そこに神を意味する「ヤ」が加わり、「ヤーイナ」とすれば、「神が授けて下さる」、「神が成してくださる」という意味の言葉になります。どんなつらい時でも神の助けにより、仕事を成し遂げることができる、という思いが込められた囃子詞なのです。

また「ヤーイナ」に続いて唄われる「チョイト」という囃子詞も、同様にヘブライ語で解釈できます。ヘブライ語の(tsoed、チョイド)は、「行進」「前進」を意味します。「チョイト」はまさにその「前進せよ!」という掛け声なのです。それ故「能登麦や節」では、「麦や小麦」、「刈る」こと「年」や「米」は、まず神が与えてくださる恵みを表す言葉として「イナ」、「ヤーイナ」という囃子詞になり、その唄の勢いに乗って、「チョイト!」、すなわち「頑張って前進しよう!」と、掛け声がかかったのでしょう。こうして夜通し麦をこねる大変な作業を、お互いが励ましながら続けていくことができたのです。

「能登麦や節」を原型として、後日その後継とも言える「麦や節」が広まりました。そしてその名声は原曲を超えることになります。ごく一般的に「麦や節」のテーマは、さっさと刈り取られてしまう短命の麦を、自分達の哀れな姿に例えて唄ったものと解釈されているようですが、ヘブライ語で読むと、明らかにオリジナルの「能登麦や節」と同じく、「元気はつらつ」の願いがこめられていることがわかります。

「麦や節」の囃子詞は「能登麦や節」と同様の「ヤーイナ」に「ジャントコーイ」が加わります。ヘブライ語で(tsaad、チャアド)は、前述したの過去形であり、「行進した」という意味になります。また(khay、カーイ)という言葉は「活き活きと」を意味します。この2つの言葉が組み合わされて「ジャ(チャ)アドカーイ」となり、いつの間にか訛って「ジャントコーイ」となったと考えられ、「元気一杯に進んだ!」という意味になります。「麦や節」はどんな時でも、元気を出して歩み続けるための励ましの唄だったのです。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部