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第2話 バーズアイメープル

自然は時に私たちが思いもつかないような芸術品を生み出します。木材にときおり現れる杢(もく)もそのひとつです。年輪とは別に木の表面に現れる不規則な模様を杢と呼びます。「バーズアイ」はメイプル材(カエデの仲間)に見られる杢の1つで、その名のとおり鳥の眼のような丸い玉模様がいくつも現れた美しい杢です。ギリシャ神話では「幸せを呼ぶ木」として登場しています。

バーズアイメイプルは、実に数万本に1本採れるかどうかという確率ですから、そのラッキー度は四葉のクローバーの比ではありません。家具や楽器、車の内装など、いずれも高級品に用いられています。近年は良材が減って、グレードの高いものが入手しにくくなってきました。一般に杢は若木よりも老木に多く見られます。長い時間にわたって厳しい寒さや風雨に辛抱強く耐え抜いて、すっかり年老いてしまった木を割ってみたら、中から息を呑むほどに美しい模様が現れるとはなんとも心憎い演出です。杢が美しい木は、普通の木材よりも組織が不規則に並んでいるために狂いやすいことが唯一の欠点です。最初から目的の寸法に加工するのではなく、時間をかけて少しずつ削って行き、狂いをできるだけ出し切ってから最終寸法に仕上げることが大切です。

バーズアイメープル

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部