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第7話 木工の先生

私が木工を学んだアメリカの学校の先生は、木の板を指先で軽くつまんだだけで、その厚みを100分の1インチ(0.25ミリ)単位で言い当てる本物の達人でした。

授業は、工程ごとに先生のチェックを受け、それにパスした者だけが次の工程に進めるというシステムでした。当時の私はとにかく次の工程が待ち遠しくて、木の表面に細かなキズがいくつか残っていても、それが目立たなければ、果敢に先生のチェックにチャレンジしていました。そんなとき先生は、きまって私の不完全な作品を数十秒間じっくりと見まわしたあと、静かにやり直しを命じるのが常でした。

そんなことを何度も繰り返しているうち、どんなに小さなキズも見逃さない先生の厳しい目に畏敬の念を抱くようになりました。と同時に、不完全なところに気づいていながらチェックをすり抜けようとした気持ちを先生に見透かされているように感じ、そんな作品を見せようとした自分がだんだんと恥ずかしくなっていきました。

あれからもうかなりの年月が経ちましたが、今でもその先生に見せられる仕上がりかどうかが自分の中でのひとつの基準になっています。 数年前、先生にお会いする機会がありましたが、自分の作品を見せることはできませんでした。お見せするにはまだまだ修行が必要です。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部