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第8話 木の名前

木材の世界を複雑にしている原因のひとつが、木材の名前です。植物としての学名のほか、一般的に知られた名前や産地での呼び名などが入り乱れ、同じ樹種が複数の名前で流通していることも珍しくありません。木が材木という商品になり、さらに加工されて木製品になってしまうと、商業的な理由によりさらに新たな名前が付けられることもあります。見た目が似ていて、よりイメージの良い木の名前をまったく無関係の材に付けることもよくあります。レッドラワンをフィリピン・マホガニー、栓(セン)をジャパニーズ・アッシュと呼んだりするのがその例ですが、それぞれマホガニーやアッシュとは別の樹種です。また、同じ名前で呼ばれているのに異なる木の場合もあります。例えば、床柱などに使われるカリン材と、のど飴に配合されているカリンは全く別の木です。そもそもの名付け方が、ややいい加減だった例もあります。葉巻の箱やクラシックギターのネック材などに使用されるスパニッシュ・シダー材は、香りが針葉樹のシダーに似ていたことからこの名が付いていますが実際には広葉樹です。また、ニセアカシアという木がありますが、日本では長らくこの木をアカシアと呼んでいました。しかし、後に本物のアカシアが輸入されるようになり、区別するためにニセアカシアと呼ばれるようになったのです。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部