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第9話 木のキズ

木工作品に着色したりオイルで仕上げを施す際には、木地をキズひとつない状態まで完璧に研き上げておく必要があります。この作業が不完全なまま仕上げを進めていくと、残っていたキズがだんだんと目立ってくるのです。木のキズは、紙ヤスリで研磨することで無くなります。キズを見つけたらその部分を集中的に研けば、あっという間に作業は終わります。…と言いたいところですが、この方法ではキズの周辺だけが凹んでしまいます。特に塗装を施してツヤのある鏡面仕上げにする場合には、凹んだ部分の映り込みが歪んで見えるので要注意です。木材のキズは、その部分だけを研いて消すのではなく、キズ以外のすべての部分がキズの深さと同じになるまで研くのが正解です。言うだけなら簡単ですが、これが途方もない作業で、作が大きくて素材が硬い木であれば、修行を通り越して苦行の世界になります。もっともキズの種類によっては、もっと簡単に消す事ができる場合もあります。キズの部分に水で湿らせたペーパータオルをあて、その上からアイロンやハンダごてを使って温めるのです。ただ、これは重い物を落としたりして木の組織が押し潰されて出来たキズにのみ有効で、木の組織が削り取られてしまったキズには効果はありません。無垢の家具や敷居などについたキズも、目立たなくなるので一度お試し下さい。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部