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第14話 失敗

木工作業の中では、時に失敗をしてしまうこともあります。どんなに熟練した名人でさえも、ミスをすることがあるそうなので、ミスはつきものであり、ある程度は仕方の無いことかもしれません。しかし、経験を積むことで失敗の数は減り、同時にリカバリーの方法も学んでいくので、一つひとつの失敗から受けるダメージは薄らいでいきます。それでも、木材を愛する身として、失敗によって大切な木が無駄になることはとても辛いことです。

木工家の中には木材加工そのものよりも、どの素材をどこに使うかを考えることに、より多くの時間を費やす人がいます。素材に型紙をあててみたり、少し遠くから眺めたりしながら、木目の流れや色合いをじっくり観察し、「この作品にはこの素材しかない」と思える木材を見つけることができた時、はじめて、気持ちよく作業に入ることができるのです。そんなとっておきの木材が、自分の不注意で無駄になってしまったとなると、これはもうやりきれません。同じ種類の木材で作り直すことはできますが、木は生き物ですから、それはもう最初に作ったものとは別のものですし、無理やりその作品にされてしまった木材に対しても失礼に思えます。

それまでかけてきた手間ひまがすべて台無しになるという意味では、完成が近づいてからの失敗ほど精神的なダメージは大きくなります。そして作業工程も終盤に差し掛かった頃には、「早く完成品が見たい」とはやる気持ちと、「ここまで来て失敗したら大変だ」という緊張感が交錯し、心身ともに大変な興奮状態になってしまうのです。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部