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第17話 「生き続ける木材」

一般に、木製の楽器は古いものほど音色が良いと言われます。その為、愛好家はたとえ高価であっても好んで古い楽器を使います。また、新しい楽器を手に入れて、長い年月をかけて成長を見守るのも楽しいものです。楽器を演奏する人たちの間では当たり前のように語られるこれらの話も、考えてみれば不思議なことです。まさに製品となった後も木材が生き続けている何よりの証と言えるでしょう。

古い楽器の響きが良いのは、時間の経過により木材の乾燥が進むことが主な要因と考えられていますが、演奏されることで生まれる振動が好影響を及ぼすという説も根強く、プロの演奏家の中には、新しく入手した楽器を大音量のスピーカーの前に数日間放置しておく人もいるほどです。実際、完成したばかりのギターを何時間か弾いていると、単に接着剤で繋がれていた木材たちが少しずつ一体化して、だんだんと雑味が抜けていくように、響きが美しくなっていくことを実感できます。

アコースティックギターの表板の代表的な素材には、スプルース(松系)とシダー(杉系)がありますが、素材によって、その後の成長に違いが見られます。スプルースのギターの音色は最初の数十年でどんどん良くなり、その後長い時間をかけて緩やかに衰えて行きます。一方のシダーは、より軟らかく振動しやすいので、新しいギターでも良く鳴りますが、軟らかい分スプルースに比べると寿命が早く来ると言われています。私自身は伸びしろが大きいスプルースのギターを好んで作っていましたが、歳を重ねるとともに、すぐに結果を出してくれるシダーにも強く惹かれるようになってきています。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部