美意識について

エレキギターやフォークギターのネックには、弦の強力な張力に合わせてネックの反り具合を調整する為の鉄芯が仕込まれています。私が卒業したアメリカの弦楽器製作学校では、その鉄芯も自分たちで作りました。先生が「次は完成した鉄芯をきれいに磨いておくように」と指示した時、学生の1人が「そんなことまでして誰が見るんですか?」と冷やかしたように質問をしたことがありました。完成後は外からまったく見えなくなる部品ですから、確かにごもっともな疑問で、クラスメートたちもみな同調して笑っていました。ところがその質問に対して先生がニコリともせず発したのはたった一言「YOU」。

木工の中には、仕上げのヤスリがけのように作業完了の明確な目安が無い工程が多くあります。そういった作業の終わりを決めるのは自分自身の中にある美意識です。完成品を見た人から「もしかしてこれで完成ですか?」と言われてしまったら、製作者にとってこれ以上恥ずかしいことはありません。今になって当時の授業を振り返ってみると、先生の言葉の端々には「誰よりも高い美意識を持ちなさい」という強いメッセージが込められていたように思います。

私は自分の作品を他の人に見て頂くとき、いつも何処か恥ずかしい気持ちになります。それはおそらく自分の内側にある美意識が作品にそのまま表現され、まるで「私はこれが美しいと思いますが皆さんはいかがでしょうか」と面と向かって質問しているのと同じ状態になるからだと思います。ただ、それだけに作品が共感を得られたときは、言葉で表せないほどにうれしく、次の作品作りへの大きな励みになってくれるのです。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

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