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第20話 消えゆく木材たち

日本は国土の約70%近くを森で覆われた世界有数の森林国です。しかしながら地球規模で見ると森林破壊は進む一方で、何と1秒間あたりテニスコート10面分以上の森が失われているそうです。南米や東南アジアの熱帯雨林は特に深刻ですが、それらの地域には木を切り倒さなければ生活が成り立たない人々が多く暮らしており、問題は複雑です。伐採された木材は日本にも輸入され、私自身も作品に使用しています。

行き過ぎた伐採により絶滅の危機に瀕している樹種もあり、少し前までは当たり前に買うことができた木材の中にも、取引が制限され入手が難しくなったものがあります。ある樹種が絶滅の危機に立たされると、それと良く似た別の木材が代替品として出回ります。そしていつの間にかその材もカタログから姿を消し、また別の産地の良く似た木材が紹介されているという具合です。木工をはじめた当初は、このようなサイクルを知らず、次々に登場する美しい木材を買うことが楽しくて仕方がありませんでした。しかしその状況を理解してからは、希少価値の高いこれらの素材で作品を作ることが、以前ほど楽しく感じられなくなり、それ以上にカタログから消えたあの木はどうなったのだろうか?と考える事が多くなりました。そして同時に材料の良さを前面に押し出した作品を作ることに違和感を覚えるようにもなって来たのです。素材の希少性や美しさに頼ることなく、高い技術や優れたデザインを通じて見た人の心に何かを訴えかけられる作品を作っていくこと、それを木工家としての今後の課題にして行きたいと思っています。

木工家 アンビル シゲル

アンビル シゲル

1971年生まれ。主にギターなどの弦楽器の製作を手掛ける木工家。
1998年に単身渡米し、アリゾナ州にある弦楽器製作学校に入学。帰国後、千葉県内に自らの工房を構える。木材に対する愛情に溢れ、そしてまた造詣も深い。

© 日本シティジャーナル編集部