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成田の未来を握る小売業の行方!
国際都市にふさわしい商業インフラの再構築が急務

世界中にデフレの波が押し寄せ、アメリカやヨーロッパ等各国が不景気に見舞われている昨今、バブルの後遺症を引きずりながらやっと立ち直るかと思われた日本も先行きが未だに危ぶまれています。景気低迷に伴う株価の大幅な下落、大手都市銀行国営化の話題、賃金カットや退職金制度の廃止、リストラに伴う失業率の増加等、とにかく明るいニュースが殆ど無いのが実態です。この最悪とも思える経済環境の中で、国家も企業も揃って難しいながらも舵取りに真剣に取り組まなければなりません。そしてこのような時だからこそ希望を持ち続けて日本、成田の夢を語り、困難に打ち勝つことを信じることが大事なのです。

日本国内における成田のランキング

週刊ダイアモンド誌の8月10日号に『ニッポン全698都市ランキング2002』という特集が掲載されました。これは地域経済を専門としたシンクタンク日本統計センターとダイアモンド編集部が共同で年に1度データを収集し、各都市を「快適性」「経済力」「成長度」という3つのカテゴリーに分けて偏差値を付け、ランキングするものです。無論この記事に掲載されているデータをそのまま鵜呑みにして各都市の良し悪しを判断するわけではありませんが、国内全都市のおよその実力評価が手に取るように分かるだけでなく、評価の鍵を握るポイントが数値を使って容易に比較検討できるため、大変興味深い内容となっています。

まず「やった!」と思ったのは総合評価です。ここでは我が成田市が全国698都市中、何と10位にランク付けされています。千葉県内で全国トップ50にランクされている都市は成田しかなく、茨城県では下妻市と土浦市が41位と47位に入っているだけなので、ちょっとした優越感を味わってしまいそうです。成田のランク付けが高い理由は上記の基準となる3項目の内、成長度における偏差値が大変高かったということです。すなわちここ最近の小売業における伸びが著しかった為に全国上位にランクされたのです。もし小売業の伸びが止まってしまえば経済的成長度において点を獲得できなくなり、ランキングもごく普通の評価に落ちてしまうことは明らかです。そこで詳細を理解する為にもう少しデータの中身を見てみましょう。

まず「成長度」のカテゴリーを除くと成田が高いランクに入っている項目は皆無に等しいといえます。例えば生活のしやすさ、及び庶民の日常生活に密接する各種サービスの充実度を計る「快適性」の項目においては東京の都心部がダントツの強さを誇っており、千葉県では鴨川市が13位にランク入りを果たしています。茨城県つくば市も45位と高い評価を得ていますが、成田の快適性はそこに表示できないほどずっと下です。生活インフラが都内ほど充実していない為、誰もが「豊か」と思えるほどの住環境がまだ整備されていないのが理由です。

それ以外の項目においてもランクの高いものは何も見当たらず、公共下水道普及率、製造業や着工建築物の伸び率、1人当りの所得額や世帯当り延べ住宅面積においても皆、成田市のランクは高くありません。1000人当りの登録自動車台数においては、つくば市や富里市に抜かれています。本来ならば空港都市である成田は、車社会においてもモータリゼーションの最先端都市となるべきはずですが、駐車場の制限された集合住宅の増加や、建売住宅における駐車台数の制限も影響してか、まだ1家に2~3台というオートライフが十分な広がりをみせておりません。農業においても、農家1戸当りの生産農業所得額は鎌ヶ谷市、富里市、八街市や旭市等、千葉の各都市がしのぎを削ってダントツ1位の北海道に追随していますが、このカテゴリーにおける成田市のランクは蚊帳の外になっています。農業生産と供給の効率化を図るバロメーターともいえるのがこの一戸当りの農家所得額です。成田では地権者が入り乱れている為に大規模で効率の高い農業を営むのが難しく、それが原因でランキングが伸びないのかもしれません。

経済力においても成田市は都心部や浦安市の足元にも及びません。しかし注目しなければならないのは、小売業販売額の急激な伸びにより、1人当りの小売業年間販売額が全国10位にランク付けされていることです。またその小売業販売額の年間伸び率が著しい為に、「成長度」においても全国15位という大変高い評価を得ています。要するに成田の成長とは全国トップクラスの小売販売業の実績であり、この1人当りの販売額と伸び率の2点が成田のランキングを大きく押し上げることに貢献しているのです。

成田のランクアップは小売業の成長が命

上記のデータからもわかるとおり、成田が全国上位にランクされた理由は小売業の大幅な伸び率によるものであり、それは成田市内に超大型イオン・ショッピングセンター(SC)が竣工したことに起因しています。人口10万人都市の成田が30~50万人都市に匹敵する地域型の大型SCを誘致することに成功したため、一時的な伸びではあるにせよ必然的に小売業販売額が著しく増加し、大きな旨みを味わいました。イオンSCの躍進は成田空港界隈の航空業の低迷や幅広い業種にわたる売上の落ち込み、及び各種大型店の閉鎖等によるマイナス分を吸収するだけでなく、更に未開発の空き地を所有する近隣の地権者に対しても相乗効果からなる新規事業の勢いをもたらし、SC周辺にシネマックス等の新規大型事業が継続して立ち上がるようになりました。このイオンSCの成功により、小売業の伸びによる経済的メリットを思う存分吸収することが可能になったのです。言い換えればここ数年の成田の経済的成長は全てイオンSCにかかっていたと言っても過言ではありません。そしてこのイオンSCと周辺の土屋地区の開発こそ成田の将来を握る鍵といえるでしょう。理想を語るなら、これらの相乗効果をもって土屋地区の広大な空き地に新規大型事業が続々とオープンし、千葉県の北総部を網羅する総合的な大規模商業開発地域として多種多様のサービスを庶民に提供していきたいものです。そうすることにより、名実と共に成田が日本をリードする国際都市として飛躍し続けることができます。

人気スポットのトレンドは10~20年ですぐに変わる

人の流れは時代と共に変わります。人気スポットもいずれは流行がすたれ、人の足波が新しい街へと移り変わっていきます。多彩なアトラクションを提供して一時集客に成功したとしても、庶民の心を引き付け続けるキャラクターを継続してリフレッシュしなければ、いつか人気は去り、街がすたれていってしまいます。

先日南紀白浜を訪れる機会がありました。その名のごとく白い浜辺がとても綺麗な海が素晴らしく、ビーチには無料で入れる大きな天然温泉もありました。周辺の道路環境も良好であり、宿泊施設も周辺一体に大変良く整っているリゾートでした。ところが観光客が殆ど見当たらず、街がすっからかんになっているのです。これはおかしいと思い地元の方々に事情を聞いたところ、ユニバーサルスタジオを初めとする豪華なアトラクションを持つ超大型複合商業施設が大阪近郊に複数完成したために週末の来訪者がめっきり減ってしまったとのことでした。由緒あるビーチ兼温泉リゾートという名目だけでは1~3時間圏内の庶民を集客できない時代になってしまったということなのでしょう。

千葉県では既にディズニーリゾートに隣接してイクスピアリが完成し大人気となっています。またガーデンウォーク幕張も2000年10月に開業しました。そしてこれからもイオンに対抗して客足を奪う原動力となる超大型施設は千葉県の各都市にオープンしていくものと思われます。だからこそイオンSCが末永く人気を保つためには単なるショッピングセンターとしてだけでなく、複数の娯楽施設を加えた「複合商業施設」として発展し続けることが大事です。その為にも総合的に環境を整備しなければ客足が遠のいていくのは時間の問題なのです。

イオンSCと土屋地区が抱える問題をどう解決?

大型複合施設が長期的に成功する秘訣は1)に多彩なアトラクション、2)にアクセスと言えます。イオンSC周辺の土屋地区はまだ空き地が多く、今後も開発が期待できるスペースが充分にあります。ところがアクセス面では交通網の整備が追いついていないために、これ以上の開発は一旦フリーズしなければならないほど交通事情が悪化しています。

まず鉄道を誘致して土屋に駅を作る話が座礁したままになっています。その是非はともかくとして、JR側としても10~50年先までも見通した上で、そこにどうしても駅が必要であるという認識が生じなければ話は前進しないでしょう。すなわち土屋地区の全貌を網羅したマスタープランが必要になってくるのです。

またそれ以前の問題として周辺の道路事情があります。冷静に現実を見ると、近隣を通り抜ける国道51号は駅前周辺一部を除いて双方向で2車線しかありません。空港都市である成田を通り抜ける最重要な幹線としては考えられないことです。空港街道においては既存の4車線は連日渋滞が続き、特に週末のイオンSC周辺に生じる渋滞は既に限度を超えています。国際空港近辺の道路アクセスは諸外国の実例からして最低6~10車線が当たり前ですが、成田においてはその半分しかないのです。また大型SC周辺においても最低6~8車線が海外の常識となっていますが、土屋周辺地域は4車線しかありません。すなわちイオンSCが複合商業としとして今後も発展するための基幹となる交通インフラの整備ができていないのです。これではどんなに素晴らしいアトラクションを今後オープンしたとしても、この最悪の道路事情に嫌気がさして客足が遠のいてしまいかねません。一旦開発を全てフリーズし、50年後を見据えた街造りの構想をもう一度見直さなければ、いつの日か成田も他の都市のように沈没への道をたどってしまうのです。

成田には他の都市に無いアドバンテージが一杯

国際都市成田には他の都市が持ち得ない潜在的な成長力として成田空港と成田山があります。海外から日本への旅行者は年々増加傾向にあり、2002年には500万人を突破しました。日本への観光客を1000万人にするという政府の方針に従って今後も増加するであろう旅行者の大半が成田を経由して日本各地へ旅に出向くのです。また成田市には日本人の心のふるさとである成田山があり、道路アクセスがどうであれ人は参拝に訪れます。このようにただでさえ人が集まるのが成田の潜在力なのですから、そこに超大型複合商業施設が登場し交通網が整備されたら鬼に金棒です。

昨今の成田の成長は小売業の伸びに依存してきましたが、イオンSCのオープンに関わる一時的な伸びはもう味わうことができません。ここからが真剣勝負です。すなわち、成田が国際都市として成長し続けるために不可欠な交通網と基幹インフラを早急に改善できるかどうかに、成田が今後も優位性を保てるかどうかの全てがかかっています。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部