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空の旅の将来を見据える!
極上のサービスを提供する世界のトレンドから取り残される日本勢

日本シティジャーナル23号でJALの記事を執筆した際に、「庶民の気持ちも知らずに何を贅沢言っている!」というような辛口の意見を頂きました。しかし今回、あえて航空会社の今後の在り方について再度、筆をとることにしたのは理由があります。世界各国の航空会社が提供しているサービスは、ここ最近著しく向上してきました。それらグレードの高いサービスの実態を消費者が理解し、より質の高いサービスを航空会社に求めていかない限り、受け身になりがちな日系航空業界の体質からして、改善を期待できそうにないからです。世界のトレンドから取り残されない為にも、まず現実を見極めてみましょう。

極上のラウンジがフランクフルトに登場!

空港での待ち時間を有意義に過ごすために、近年ラウンジの重要性が再認識されています。ごく一般的には国際線でビジネス、またはファーストクラスに搭乗すれば、無料でその航空会社のラウンジが使用できますが、最近ではクレジットカード等を所有していれば使えるラウンジも増えてきています。

つい先日、マイル利用の無料航空券を使ってルフトハンザ航空のファーストクラスでドイツへ旅した際に、フランクフルト空港で極上のラウンジを発見しました。世界一とも言えるルフトハンザ航空のファーストクラス専用ラウンジとは如何なるものでしょうか。まず、地元の利を生かして、通常の旅客ターミナルとは全く別の場所にファーストクラス専用のターミナルを構築したことは秀逸です。小ぶりながらも高級ホテルのような立派な造りの玄関を通ると広い空間が目の前に広がり、すぐにコンシェルジェがエスコートしてくれます。このラウンジのシステムは、出発の直前まで自由にくつろぎ、時間になると、担当のコンシェルジェが呼びにきてくれるというものです。

さて、ラウンジそのものも極上と呼ばれるにふさわしい最高の出来栄えです。レストランではステーキディナーを始めとして、食べたいものを自由にオーダーでき、すぐそばには大型のバーカウンターもあり、その雰囲気は一流レストランと比較しても何ら遜色はありません。また会議室のほか、6畳ほどの寝室もあり、ベッドでゆっくりと仮眠もできます。くつろげるソファーや、デスクワークをするための書斎スペースもあり、館内は全部無線LANが通っているため、ワイアレスでインターネットも自由に使えます。

圧巻は飛行機までの案内です。迎えにきたコンシェルジェにエレベーターで下の階までエスコートして頂き、ファーストクラス専用の出国カウンターで手続きを済ませます。公務員の方が常駐している為、無論、待ち時間はゼロです。その後、建物の外に案内されると、そこには黒色のベンツが並んでいました。期待が膨らむ中、案の定、ドライバーの方がさっとドアを開けてくださり、自分の為のハイヤーであることがわかりました。驚くことに、運転手は空港内を自由に出入りできるIDカードを持っており、滑走路そばの搭乗ゲートの真下までベンツで向かうのです。車から降りた後は再度エスコートされて、後は飛行機に乗るだけです。殆ど歩くことなく飛行機に乗れる、正に究極のサービスと言えます。

ビジネスクラスでも極上のサービスを期待!

一旦機内に搭乗すれば、何と言っても座席シートの座り心地と美味しい機内食が快適な飛行機の旅に不可欠となります。近年、航空業界のお手本となっているのが、シンガポール航空(SQ)とキャセイパシフィック航空です。SQの成田-ロスアンジェルス間、ビジネスクラスを例にするならば、ディスカウント航空券を使って20万円台で往復することができる大変お得な価格でありながら、寝る時には電動スイッチひとつで前の座席の下にもぐりこむように平らなベッドになるフラットシートでくつろげるのです。また座席前の大型テレビスクリーンは大変見やすく、空の旅を楽しませてくれます。そしてワゴンサービス付の食事があり、エコノミークラス定番のワントレイ・サービスとは違って、オードブル(前菜)、サラダ、メインコース、デザートと、分けて出てくるので、暖かいフレッシュな料理を楽しみながら、ゆっくりと食事ができます。

成田から香港に向けて飛んでいるキャセイパシフィック航空のビジネスクラスでも、大変豪華な食事が出ることで有名です。当然ながらドリンクは各種取り揃えており、ワインとシャンペンはワゴンサービスで、フルボトルから注がれます。ドリンクサービスの後、客室乗務員がサラダとサーモンのたたき、蟹肉入り蕎麦が載ったトレーを運んできます。また、バスケットに入っているガーリックトーストとフランスパンの中から、食べたいパンを好きなだけ選べます。前菜を食べ終わると、次はメインディッシュが出てきます。スズキの蒸し煮か、牛ヒレのステーキ、またはチキンとカリンの中国酒蒸しから選びますが、どれも温野菜が添えられています。メインの後は、ワゴンサービスで各種チーズを、きちんとした木製のプレートに美しく並べられた中からお好みで選べます。その後、フルーツが出され、最後にハーゲンダッツのアイスクリーム、そして紅茶かコーヒーとなります。このようなフルコースのディナーがビジネスクラスの常識です。

顧客サービスの向上に努める航空会社

空の旅を楽しむために、航空会社がしのぎを削ってサービスの改善に努めている姿を、ここ数年見てきました。例えば電源を供給するコンセントの確保と、機内でインターネットを常時接続するためのワイアレスサービスの提供です。今や、空の上でもメールを送受信したり、ホームページを閲覧することは当たり前のこととなりつつあります。また食器のグレードも上がってきており、安物の薄いプラスチック製の皿は高級感を著しく損うため、敬遠されています。また一時、テロ事件の関係もあってナイフはプラスチック製のものに変わった時期がありましたが、今では大半の航空会社がステンレス製のナイフに戻して高級感をアピールしています。

携帯電話についても、計測機器の支障になる恐れがあるということで、機内での使用が堅く禁じられていますが、厳密には航空会社によって昨今改正された航空法の解釈とルールがまちまちであり、特に外資系の航空会社では、離陸の準備ができるまでは機内の中でも携帯電話の使用を認めているのがごく一般的です。飛行機が動くまでは運航していないという解釈を基に、顧客の利便性を優先させているのでしょう。最近のアメリカなど、一旦着陸すれば例え滑走路を走っていても「携帯電話はご使用になれます」と機内アナウンスを行う例もあるほどです。どんなルールでも、顧客ニーズや実社会の現実を踏まえた上で、臨機応変に対応していかなければ、サービスの向上につながりません。

大好きなJALだからこそ苦言を申す!

顧客サービスをないがしろにしては、航空会社の将来はありません。JALを例にとるならば、ビジネスクラスのミールサービスでも、一括で出してしまうワントレイサービスを、何のためらいもなく各アジア路線で強行する程、今や他社のエコノミーと変わらないレベルまで落ち込んでしまったようです。成田-香港線がその最たる例で、洋食をオーダーすると、パンのお皿がない上に、パンを置くスペースさえない小さなトレイですので、いたる所にパンを置かれてしまいます。ある時はデザートの横に、ある時はトレイの片隅に直に置かれるなど、常識では考えられません。この件については再三、客室乗務員の方にクレームをいれていますが、香港路線は時間が短いから仕方がないとのことです。しかし成田から香港までの就航時間は4時間35分もありますので、前述したキャセイパシフィックの例からもわかる通り、時間の余裕はたっぷりあります。事実、JAL便ではフライト時間の前半で食事が全て片付いてしまうため、客室乗務員にとって後半はかなり手が空いてしまうことを幾度となく目にしています。2時間半の就航時間しかない成田―ソウル間でさえ、他の航空会社ではワゴンサービスを含むステーキディナーを提供していたこともあった程です。コストダウンを実現するために、旅客が犠牲になることを承知の上で、客室乗務員の数を減らしてまでサービスのレベルを落とす手段にうって出たのは明らかです。

また中国路線ではJASを買収した後もJALのサービスは何ら向上が見られません。特にビジネスクラスのシートピッチ(前後の間隔)が問題です。他の航空会社のビジネスクラスでは今や、150-175cm程度のシートピッチが標準となってきています。そうしないと、前の席の背もたれが倒れるだけで、窓際の乗客が通路に出られなくなってしまうのです。ところがJALの中国路線は115-125cmという狭さのままです。いくら乗客を詰め込むといっても、共同運航便の中国南方航空でさえ、時折スリークラスのボーイング機を飛ばし、ずっと快適なシートピッチを提供しています。

ラウンジをとって見ても、JALは単に静かで高級感があるということだけがとりえのようです。食べ物も簡単なスナック程度しか置いておらず、インターネット関連の設備も遅れをとっています。香港のキャセイパシフィック航空のラウンジでさえも、ルフトハンザ航空のように美味しいレストランが在ります。このように、多種多様のライフスタイル、旅客のニーズに対応できる様々な施設と、旅人をもてなすレストランを含む、行き届いたサービスを提供しない限り、JALは海外勢との競争に勝つことができないでしょう。

航空業界の世界的トレンドとしては、無論、コスト競争力については大変シビアな考えを持ちつつも、顧客サービスはむしろ、存分にコストをかけて向上させる方向に動いています。旅客のニーズを無視した形で、コストダウンのつけを消費者に回し、サービスを低下させることは時代錯誤も甚だしいといえます。それをJAL経営陣が理解し、初心に戻って顧客重視の姿勢を貫きながらも、企業自ら構造改革を通してスリム化を徹するまでは、JALの低迷は続かざるを得ないでしょう。JALが世界のJALとして、その極上のサービス故に名声を再び世界に轟かすようになることを願ってやみません。

(文・中島尚彦)

© 日本シティジャーナル編集部