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第75回 自分の健康は自分で守る
東洋医学の基本的な考え方(1)

中国伝統医学では“脾胃論”という考え方があります。この論を説明するためには六臓六腑について記さなければなりません。世間では五臓六腑として知られます。時計の文字盤にしても、カレンダーにしても12の数で表わされていますね。中国では数にも哲学というか思想を持たせており、陰陽説で竒数は陽に、偶数は陰に配当されています。例えば1月1日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日は各々祝祭日になっています。話を戻しましょう。臓は陰に、腑は陽に配当されます。肉月を除くと蔵と府になります。蔵を訓読(くんよ)みではくら、府はふ。腑は胃や腸などの主に消化器官を指します。蔵は中に身体の大事なものを納めます。府は袋状や(くだ)状で常にここを食物などが通過します。つまり府は外側が自分の器官であるために陽に配当されています。しかも“陰陽相和(あいわ)する”といい、陰と陽は一組ずつに組まれます。肺と大腸、心と小腸、脾と胃、肝と胆、腎と膀胱、心包(シンポウ)三焦(サンショウ)の六組に分けられます。

さらに人体は三部に分けて論じられるのです。横隔膜から上を上焦(ジョウショウ)、横隔膜の下と臍の高さまでを中焦、臍から下を下焦といいます。上焦には“心と小腸”“肺と大腸”が位置し、中焦には“脾と胃”が位置し、下焦には“肝と胆”“腎と膀胱”が納まっていると考えられています。現代医学の解剖学や生理学とは大そう相違を認めることは困難ですが、私たち漢方薬や鍼灸治療の分野では、治療上この理論で立派に診療に当たっています。

中国の医学などでは、この理論を通して、病気予防や治療に当たって効けばよいとする、実利主義や巧利主義を大事にする傾向にあります。今日で言う生体の機能である、自然治癒力、別の言い方で自然良能に働きかければ、病気の治療や養生に十分寄()できるのです。

中国の伝統医学(漢方あるいは東洋医学)の古典『素問(ソモン)』『霊樞(レイスウ)』『傷寒雑病論』は漢時代に著らされたものですが、いわゆる漢方医も鍼灸医も熱心に読み、研究しています。ヒトは太古より、空気を呼吸し、飲食をし、身体を動かし運動をし、男女の交接によって種を保存する基本的な生き方をして来ました。また、忘れてならないのは太陽の恵みです。更には太陽系、つまりは太陽を中心に中空を運行していることです。これによって昼と夜があり、風が起こり、熱帯や亜熱帯から温帯へと風を送り、また海流も太陽に強く熱せられるわけですが、寒帯の方に送られ、うまく地球の海水や空気が攪拌(カクハン)(かき混ぜること)されてヒトの比較的、生きる環境を創造してくれています。

さて、冒頭で筆を進めたところに再び帰りましょう。空気と太陽の恵みを陽氣といい、食物と水を陰氣といいます。陽氣は比較的取得が容易です。しかし、陰氣は必ずしも、容易に求められません。古代のヒトの生活を考えれば想像がつくはずです。

飲食したものは中焦に収まり、そこで消化されたものを分別することになります。体に取り入れるものを“清氣”といい、清でないものを“濁氣”といいます。清は軽いが故に上昇し上焦に送られます。濁は粕です。大便、小便として体外排泄されます。清氣はやがて体のすみずみに運ばれ生体を養うことになります。

“脾胃論”は地氣(陰氣)という重要な氣を体に移入することから名付けられた中国伝統医の理論の柱となっているのです。

(一本堂横山鍼灸療院長 横山瑞生)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)
  • 1939年、茨城県常陸大宮市生まれ。

大塚敦節氏に漢方を、小川晴通氏に鍼灸を師事し、東京医療専門学校卒業後半年で母校の講師となる。中国医学研究会設立に参画、日中医療普及協会会長、東京都日中友好協会常任理事等、日中の友好関係へ尽力。

現在、一本堂横山鍼灸療院院長、東京医科大学にてホリスティック医学を講義中。「カラー版鍼灸解剖図」「アレルギーはツボで治る」など著書多数。

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