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第79回 自分の健康は自分で守る
北国の春によせて

もう幾年前のことでしょうか。長野に向かう列車の中から窓の外を眺めていると、山に緑の息吹きが出始めた頃、ひときわ白い花をつけている木があちこちに目に留まりました。当時はまだ横川のトンネルを抜けると軽井沢の駅で、周囲は染井吉野が満開に近く、列車が徐々に進むうちに白い花が…。これぞコブシと確かめられた。北海道から九州に至るまで山野に分布し、観賞用に公園や街路樹として植えられてもいます。コブシは落葉高木で大きなものは20メートルにも達します。六弁の白い花は、直径6~10センチにもなり、香りもいいものです。

この時、この列車に乗ったのは、長野県鍼灸(シンキュウ)師会の主催による、講演依頼でのことでした。講演を明日に控えたその日の午後、会の計らいで戸隠高原に車で送って頂き、戸隠神社に向かい、坂を上り中腹に至った頃、ここにもコブシの木々が点在していたのを今も脳裏に鮮やかに思い出すことができます。その折、千昌夫の「北国の春」は、作詞家がこの森での想いを(うた)にしたとの説明を受けました。誰でも彼の故郷辺りに身を留めて詩を作ったと考えるのが当然と覚えることでしょう。

さて、コブシは漢名「拳」「古不之」、中国名は辛夷(シンイ)

この花の開花前、つまり蕾のうちに摘み取り、陰乾しにします。十分に乾燥させた後、密閉容器に入れて、暗い所で保存しましょう。

“薬理作用としては血圧降下作用、抗アレルギー作用、抗炎作用、抗菌作用、そして薬効は鎮痛、鎮痙薬に用いる。具体的な薬用としては鼻閉(鼻づまり)、蓄膿症には辛夷3g、蒼耳子(ソウジシ)(オナモミ)10g、2gに水500mgを加え、約30分煎じて半量となし、1日3回に分けて服用する”『日本草薬全書』より。

いずれにしろ、最も世間に知られているのは、鼻のやまい、鼻炎(ビエン)、蓄膿症(副鼻腔炎)でしょう。

熊がコブシの木に登って、この蕾を食べているところを見かけたという話を聞いた事があります。実はこの稿を書いている最中(さなか)、私の書斎のすぐ前にヒヨドリの(つがい)がやって来て、盛んに咲き始めた花弁(はなびら)(つい)むのを見ました。永い人生の中で初めて目にしました。彼、彼女らも蓄膿症で辛夷が効くことを知っていたのでしょうか。

漢方に処方されているものとしては、辛夷清肺湯(シンイセイハイトウ)(ねば)っこい(タン)が咽にからんだり、鼻づまりや膿性の鼻汁、頭痛、口渇などの症状を訴える蓄膿症に。辛夷、知母(チモ)山梔子(クチナシ)枇杷葉(ビワヨウ)麦門冬(バクモントウ)百合(ヒャクゴウ)升麻(ショウマ)石膏(セッコウ)

また、鼻づまり、蓄膿症、慢性鼻炎には葛根湯加辛夷、葛根、大棗(タイソウ)(ナツメ)、麻黄(マオウ)、甘草、桂枝(ケイシ)、芍薬、生姜(ショウガ)、辛夷が処方されます。

処方や薬剤名は専門的になりました。漢方薬を扱う医師や薬剤師に相談して下さるようお願いします。

(一本堂横山鍼灸療院長 横山瑞生)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)

横山 瑞生(よこやま ずいしょう)
  • 1939年、茨城県常陸大宮市生まれ。

大塚敦節氏に漢方を、小川晴通氏に鍼灸を師事し、東京医療専門学校卒業後半年で母校の講師となる。中国医学研究会設立に参画、日中医療普及協会会長、東京都日中友好協会常任理事等、日中の友好関係へ尽力。

現在、一本堂横山鍼灸療院院長、東京医科大学にてホリスティック医学を講義中。「カラー版鍼灸解剖図」「アレルギーはツボで治る」など著書多数。

  • 診療所:東京都新宿区本塩町10 四谷エースビル101
  • お問合せ:03-3359-6693

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