第1回
澄み渡る碧空の下ふうっと金もくせいの香りがする…、と松茸が、そして永い眠りから醒めた春浅い日、桜の花の香りに誘われて
雄大な山々を背にずっしりと鎮まる社寺の甍。千年余の都にめぐり来る四季は、今年もそれぞれに美しい風情と幸を携えてくれます。
いづこからとも花の所在明かでないが、金もくせいが遠くから薫り来て
春秋に代表される京の山里の幸は、いずれもこれら美しい花の色香にようて
そうした究極の
さて「お番菜」とは「番茶」「番傘」などと同様「常」のことで、つまり日常食卓に並ぶ「お惣菜」「おかづ」の事です。それには何よりも「旬」の食材が選ばれますがその「旬」とは、ただ
先祖の安穏の安心料が実績となって身体のどこかに生き続ける…。
それがお番菜でありましょう。そしてグルメとは、いかに目新しく、美しくエキゾチックな色彩であっても、自らが食しながら「自らが実験台にあって、自らの身体で試している事の勇気」を自覚せねばならないことにあります。先祖の安心料の実印が押され、私達の体の構成をして来ましたお番菜に対してグルメは精神的な栄養剤と解したくなる私ですが。
(文・今井幸代)
今井 幸代
代々旧御室御所仁和寺領の庄屋を務めた家に生まれる。
現NHK文化センター講師(京都教室・青山教室) 琴・華道は師範、ほかに茶道・仕舞・日舞・ピアノ他、京の芸事全般を習得。趣味は料理・漆器特に日本建築。
テレビ(地元KBS)・ラジオに出演中、著書多数。世界の食をリードする雑誌S A V E U R(サブール)の選ぶ「世界の100人」に日本人唯一人選出されている。