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日本のヨット事情

ヨット

四方を海で囲まれた島国“日本”。一昔前は造船世界一を誇り、遠洋漁業の船団は世界中のマグロを追い求め、1年中大洋を渡り歩いていました。近年、船籍は外国に移し船員も多国籍化してきたとはいえ、船が日本の貿易の中心を担っていることに間違いはありません。しかし、ヨットやモーターボートといった趣味の船(プレジャーボートとして総称されます)については先進国の中でも一番遅れた状況にあります。国民100人あたりのプレジャーボート保有隻数は次のとおりです。(出典:ICOMIA)

日本 アメリカ ノルウェー オーストラリア
0.2隻 6隻 16隻 4隻

他の国と比べて一桁少ないのが現実の姿です。日本の南方系の先祖は南の島から小舟に乗って流れ着き、日本民族の血には海に対する憧憬や恐れといったような感情が海に対して少なからずあるはずです。それなのになぜこんなに差があるのでしょうか?

私が最初に舟への憧れをもったのは、30年以上前にアメリカのテレビドラマ"わんぱくフリッパー"で海外の状況をはじめて目にした時からでした。沿岸警備を仕事とするお父さんと小学生位の男兄弟2人、それに人間の話を聞き分けピンチになると活躍するかしこいイルカが主人公の物語です。主人公の家は海岸のすぐわきにあり、お父さんは大きなモーターボート、子供達はそれぞれ自分の小さなモーターボートを持ち、ひとたび事件が発生すると玄関から外に出、庭先の桟橋からそれぞれが自分の舟に乗り、あるときは入り江の奥へ、またあるときは沖の小島へと向かっていくのです。こんな世界はテレビの中だけだとずっと思っていましたが、海外の事情を知るにつれ実際にもこんな夢のような環境があることを知り愕然としました。オーストラリアでは仕事を16:00頃に終えた後、日暮れまでの4時間、存分にヨットレースを楽しみ、それが終わると仲間で一杯やりながら食事を楽しんだり…アメリカではヨットハーバーに係留したクルーザーに住み込み、そこから会社へ通っているプログラマーがいたり…北欧では子供の誕生日にディンギー(一人乗りのヨット)をあげるのが最高のプレゼントだったり…等々なんでこんなに日本と違うのかと悲しくなってしまいます。

日本でマリンスポーツを楽しもうと考えた場合、一番問題になるのは港です。海岸線をドライブするとわかるように国内の漁港は3000近くあり、その数はマリーナの約10倍もあります。残念ながらこの漁港は漁業組合に所属する漁船が大部分を占め、趣味の舟は空いた場所があった場合のみ漁協の了解のもと利用できます。(もちろんほとんどの場合有料です)。このところ日本の沿海漁業は衰退の一途で、現実に漁を行っている漁船も少なくなっています。だんだんとスペースにも余裕ができ実際にプレジャーボートに対し積極的に門戸を開く港も増えてきましたが、「門戸を開く=商売気がでてくる」となってしまいがちなのが残念なところです。内房の保田漁港という私もよく行くところがあります。桟橋の端に船を泊め、漁港直営の海の家に似た食堂で格安の昼食を楽しみに行くのが恒例です。数年前は船を2-3時間泊めても無料、食事代も格安という具合に、いうことなしの隠れスポットとしてヨット仲間に口伝で広まっていました。その後、船での来訪者も増え、魚がおいしい食堂ということでガイドブックなどに紹介されるにつれ大型バスも立ち寄るようになり店も港も賑わいはじめました。そしてある日船を桟橋に止めて食堂に歩き始めると漁協のおじさんが停泊料を集金に来ました。この日から無料で停泊することはできなくなってしまったのです。とはいえ隣の勝山漁港は乗合の釣り舟で岸壁は占有され、停泊することすら拒否されるのに比べればまだいいとあきらめるしかありません。もともと国の税金で造った施設のはずなのにこんなことでいいのかと疑問に思う面も多々ありますが、私営のマリーナに停泊することを思えばまだまだ格安料金で利用できるのも事実のため、今後もこういった漁港を利用していくこととなりそうです。

莫大な公共事業費を費やして作った立派な港をもっと有効に使えれば今後の日本のマリンレジャーも発展し、多くの人に海を身近に楽しんでもらえる日が来るはずです。東京都知事の石原慎太郎さんはヨットマンとしても有名ですが、羽田空港の拡張だけでなく漁港の活性化についても是非力を入れてもらいたいと切望する限りです。お金をかける必要はありません。人が集まるちょっとした工夫で魅力的な港に生まれ変わるはずです。港に浮かぶ船を見ながら夕暮れの海を眺めるときの心の安らぎを是非多くの人に味わってもらいたいと思います。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部