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ヨットはどうやって止まる?

ヨット

ヨットはどうやって進むのかということは今までも説明しましたが、どうやって止まるのかということは簡単なようで意外に難しいことです。ヨットのアクセル(エンジン)は帆です。ブレーキはありません。ということはエンジンを切ってしまえば止まるわけです。風をはらんでいた帆をコントロールしているロープを緩めれば帆は風を受けずバサバサとはためくだけの状態になり、だんだんと艇速が落ち最後には止まってしまいます。ところが海の上で止まったと思われる船もよくよく見ると、帆は風を受けなくてもマストや船体が風を受け少しずつ進んでしまいます。嵐の中ではベアポール(帆を降ろしマストだけの状態)でも風と波を受け時速10km以上のスピードがでてしまうこともあります。本当に停止状態にするためには、船を風の吹いている方向へまっすぐに向け、船の進む力と風の力をつり合うようにして初めて完全に止めることができます。ところが止まったと思った次の瞬間、船は風の力を受けバックしてしまいます。本当に止まっていられるのはわずかの間だけです。

もっとも通常は船を止める必要はほとんどなく、常に走っている状態でいても何の問題もありません。練習のつかの間の休憩時間や食事を船の上で取るときも、一番安定した状態でなんとなく漂いながら流されるままにしていても、海は広いので気にすることはないわけです。止める技術が要求されるのは、レースのスタートの位置争いをする場合、船から落ちてしまった人を救助する場合、他の船につんであるお弁当を受け渡してもらうときなどですが、最も大事なのはヨットハーバーで桟橋に船をつけるときです。風の向きや強さを計算し、どのくらいのスピードでアプローチしてどのタイミングで船を風上に向ければいいかということは何回もやってみないとうまくいきません。風上に向けるのが早すぎると桟橋につく前に止まってしまい、遅すぎると桟橋に激突してしまいます。ちょうど良いタイミングで止まった位置が桟橋と船の間を人が歩いて渡れるくらいの間隔にいつもコントロールできるようになれば本物です。大声を出し船がぶつからないように足で桟橋を蹴飛ばしたり、ちょっと足りなくてあわててロープを投げたり、オールで漕いでいるようではまだまだ練習が必要です。

エンジンがついている船でも基本は同じです。但しエンジン付の場合は、前に進んでいる途中でバックに入れてプロペラを反転させるとブレーキと同じ働きをさせることができます。自動車では前進中にバックに入れると変速機を壊してしまうので、必ず一旦止まってからでなければバックにならないようになっていますが、船の場合は問題ありません。(もちろん全く問題がないわけではありませんが多少エンジンに無理がかかるだけで壊れることはありません)ただこの場合バックに入れてもまっすぐバックするのではなく、必ずプロペラの回転方向に向かってななめにバックすることに注意しなければいけません。漁港で波を蹴立てて戻ってきた漁船が岸壁直前で向きを変え、ぶつかる寸前にバックに入れ、船は若干の惰性でピタッと岸壁により、操縦していた船頭さんがおもむろに操縦席から出てきて舳先のロープを固定し、隣の船と話をしながら船尾へ歩き何事もなかったかのように船尾のロープを固定します。何ということのない良く見かける姿ですが、いざ自分でやってみるといかに難しいかがわかっているので、見るたびに感激してしまいます。こればかりは経験の差が物をいいます。いくら小型船舶の試験をいい成績で取ろうが、最新の設備を完備した新しい船だろうが関係ありません。自然の風の力を利用しヨットを楽しむには走ることだけでなく、止まる事も練習しないといけません。これほんと。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部