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荒天

ヨット

5月4日5:30

かすかに揺れる船内で目覚めると、雲の流れが早く、生暖かい南風が停泊中のヨットのステイをカランカランと打つ音が聞こえてきます。昨日の夕方は、1日中降り続いた5月の雨がようやくあがり三浦半島に沈む夕陽を眺めながら、5月2日早朝の出港以来今回のクルージングではじめて日光をあびることができたと感激していました。ところが低気圧の去ったあとの南風は予想以上に強く、これではとてものんびりとしたクルージングは望めそうもありません。

思えば今年のクルージングでもトラブルが発生。昨日の朝は外房布良の漁港でバッテリーがあがり、近くのガソリンスタンドで買ったバッテリーでもエンジンがかからず、釣り客の自動車からケーブルをつないでようやくエンジン復旧。外房から三浦半島西側の葉山、佐島あたりにもう一泊する予定を、急遽母港の浦賀に程近い横浜ベイサイドマリーナに変更。東京湾の真中で本来であれば房総半島も三浦半島もすぐそこに見えるはずが、雨で360度何も見えない状態の中、上下合羽に身をつつみ準備していた冷たいビールも飲む気がおきず黙々と機走。夕方ハーバーに到着したところ船内の電気が全く使えず、今回のトラブルはバッテリーではなく電気系統がいかれてしまったことが判明。幸いにもディーゼルエンジンのためエンジンは止まらないのですが、一旦止めると2度とかからない可能性が高く、一晩中エンジンはかけっぱなしにすることとし、暗い船内で懐中電灯を使ってほとんど闇ナベ状態での小宴会でした。

そんな経緯もあり、この南風も弱まることは無く早々に浦賀に戻るしかないと決定。かなりの時化が予想される為、朝食はたっぷり取り、昨日に引き続き完全装備でいざ出港すると、港の防波堤を越えたとたん強烈な突風がお出迎え、セールを張っていない状態にもかかわらず船は大きく傾きます。横浜港外には連休中のため荷役ができず錨泊している貨物船が10数隻、いずれの船もこの強風のなか錨を最大限に伸ばし今にも流されてしまいそうです。そんな停泊中の船の間をぬっていくと、風はさらに強まり、船首にあたる波しぶきは風呂桶一杯分まとめてコックピットに打ち込まれてきます。同乗していたヨット3回目の女性はこれを見て思わず"ドリフのコントみたい"と喜んでいましたが、こんな中うっかり落水でもされたら救助できる可能性は低く、とにかく座っている場所から動かずしっかりと船につかまっているよう言い渡し舵を取ります。最初の目的地の観音崎へ向うにも、風で流されるのを計算に入れると30度ほど風上側に進路を向けてちょうど良いくらいです。三浦半島の東側かげでこの状態という事は反対側の西側に行っていたら風が収まるまでは間違いなく出港できなかったでしょう。10秒に1回このしぶきをかぶりながら2時間半かかって浦賀に辿り着いたときは、完全防水の合羽でも首筋から少しずつしみこむ海水でびしょぬれ、目は海水で真っ赤。全国各地で5月としての最大瞬間風速を記録したというとんでもない日でした。浦賀の母港に戻ってゆっくりと昼食を取り、温かいシャワーを浴びると、時化の海は一層風も強くなり海は荒れ狂っています。つい2時間前にはあの海の上でつらい思いをしていたとは信じられません。こういうクルージングもこれはこれでまた記憶に残り、次回は晴れた空の下さわやかなクルージングを楽しみたいと、何だかんだと理由をつけては飲みたがる酒飲み同様、海の中毒におかされてしまうのです。

(文:高坂昌信)

© 日本シティジャーナル編集部